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このメンバーが新鮮すぎて、いつものホームすら新鮮に感じる。
「どお?2人仲良くなった?」
妃馬さんが森本さんと僕に話しかけてくる。
「そ う で す ね?」
「その言い方だと元々仲悪い2人みたいだよ」
「たしかに」
「でも森本さんって割と砕けた感じなんですね」
「そうですか?」
「ですです。もっとこうクールな感じと思ってたもので」
「前に言ってたね」
「あぁ、音成と妃馬さん、2人には言ってたか」
「私がフィンちゃんのこと話してるときにね」
「でも私、暑ノ井さんと顔見て話すの今日が初めてですよね?」
「あぁ、テレビで見てたもんで」
「あぁ〜。なるほど」
「電話で話した時思いましたけど直接話すとなおさら」
「慣れるともっとひどいよ」
「ん?恋ちゃんひどいってなに?ひどいって」
「え?自覚症状なし?」
「じっくり説明してもらおうかな?」
音成と森本さんの戯れ合いが始まった。
「ちょっとー駅なんだから、あんま騒がんでー」
「仲良いんですねあの2人」
「ですね。私とフィンちゃんより相性良い気がします」
「あぁ〜。僕もその感じ感じたことあります」
「わかります?」
「匠と鹿島が最初…じゃないか。まともにちゃんと話したときに
あぁこの2人相性良いな。仲良くなれそうで良かった。って思った反面
なんか複雑な感情にもなりました」
「そう!その感じ!同じ!」
少しはしゃぐ妃馬さんにドキッっとする。
「サキちゃんひどくない?恋ちゃん私の口悪いって言うんだよ?」
「いや事実じゃん」
「え?」
「ほらーサキちゃんだってそう言ってるし」
「恋ちゃんのほうがフィンちゃんとゲームしたりしてるんだから口の悪さは知ってるでしょ」
「そうそう。そーゆーこと」
「え?マジ?私って口悪い?」
「まぁそんな気にするほどではないけど」
「私とサキちゃんとフィンちゃんだと一番」
「マジでか」
会話に入れないでいるとアナウンスが流れ、電車がホームに入ってくる。4人で乗り込む。
2席横並びで空いてる部分があり、そこへ行く。
「暑ノ井さん座ります?」
森本さんが聞いてくれる。
「あ、森本さん座ってください」
「あ、いいんですか?じゃあお言葉に甘えまして」
すでに座っていた音成の横に座る森本さん。ホームでもそうだったが
電車内だとなおさら森本さんに注目する周囲の目がわかる。
電車内では4人、ほぼ音成、妃馬さん、森本さんの3人で話をし、それを聞き頷いたり
たまにパスが飛んできて、それに応えたりしていた。
僕の家の最寄り駅のアナウンスが鳴る。
僕の家の最寄り駅、すなわち森本さんの家の最寄り駅でもある。
「んじゃ、恋ちゃんサキちゃんまたね」
「ん。またね〜」
「明日ね」
「うん。また帰ったら電話で話そう」
「オッケー」
「うん」
キリの良いところまで待ってから
「あ、じゃあまた大学で会えたら、そのときは」
と森本さんに挨拶をする。
「え?暑ノ井さん同じじゃなかったんですか?」
「あ、いつもお2人をお送りしてから帰ってるので」
「え、マジか。どんだけ紳士なんですか」
「いや、紳士なら森本さんことも送ってますよ」
「猫井戸治安良いから別に、ね?」
「たしかにのどかですよね」
「ちょっと。うちだってそんな治安悪くありませんけど?」
「そーだそーだ」
「まあ2駅しか違わないですからね」
「まぁそれもそうか」
電車の速度が落ち、窓にホームが入ってくる。
森本さんが立ち上がり、妃馬さんの前を通って扉のほうに行く。
「んじゃ、みんなまたねぇ〜」
「後でねぇ〜」
「あーい」
僕もなにか言おうとしたが「またねぇ〜」と砕けた言い方に
「あ、じゃ、また」というような硬い感じを返すのも
どうかと思ったので、手を振る森本さんに軽く頭を下げて、手を振り返すだけにした。
扉が閉まり、見慣れたホームに見慣れない森本さんの後ろ姿がある。
「あんな美人いたら気づくよなぁ〜…」
つい声が漏れる。
「え?フィンちゃんのこと?」
音成が反応する。
「あ、あぁ。そうそう」
「あんな美人ー?」
妃馬さんが僕の肩に肩をぶつける。
「あぁ、いや」
電車がゆっくり動き始め、慣性の法則で蹌踉ける。
妃馬さんは肩をぶつけるため僕のほうに寄っていたが
慣性の法則はその反対に働いたため妃馬さんが大きく蹌踉めく。とっさに手が伸びた。
妃馬さんの右肩を抱くように右手を伸ばす。
「大丈夫ですか?」
「あ…はい。すいません」
焦って行った行動だったため、そのときはなんとも思わなかったが
妃馬さんの顔が近く照れる。手を話す。なんとなく無言の時間が少しあった。
そのまま無言なのは、より変な空気になりそうだったので
「音成こないだどうだったの?」
と音成に話を振る。
「こないだって?」
「いや、わかるだろ」
「デートデート」
妃馬さんも参戦する。
「あぁ〜…いやデートでは…」
「水族館行ってらしいじゃん」
「小野田くんから聞いたの?」
「そりゃそうだ。他に知る人いないだろ」
「まぁそれもそうだ」
「匠は楽しかったって言ってたぞ」
「恋ちゃんも楽しかったって言ってたよね」
「ちょっとサキちゃん」
「え、いいじゃん別に」
「まぁ〜…いいけどぉ〜…」
匠と音成のなんとも言えないこの感じになぜか僕がドキドキしていた。
「ペンギンが頭の上通ったって」
「あぁそうそう。ナイトプールみたいだった」
「ナイトプール」
つい笑ってしまう。
「あ、そっか。恋ちゃんたち行ったの夜か」
「あぁ、そうか」
「そうだよー」
「あぁ〜だからナイトプールね。ライトアップされてるから」
「そうそう」
「あぁ〜夜ね。夜は行ったことないわ」
「私もないなぁ〜」
「昼も大昔にしか行ったことないけど」
「そう言われると私もないな」
「やっぱ楽しかった?ってまぁ聞いたけど、水族館大人になってもどお?」
「なにその質問」
音成が笑う。
「いや、なんていうんかな。子どもの頃はこう、無邪気に楽しめたけど
大人になった今はどんな感じ?っての?」
自分でも聞きたいことが形になっておらず、言葉にしても形になっていない質問をぶつける。
「あぁ〜そうだなぁ〜。まぁふつーに楽しめたよ?
小野田くんはクラゲに夢中になってたし、私も隣でクラゲに癒されてたし。
楽しめたプラス癒されたって感じかな?」
音成の話に、行ってもいないのに少し癒された気がして変に納得した。
音成、妃馬さんの最寄り駅につき3人で降りる。いつもの道を歩く。
「それにしてもまさか森本さんがいるとは思ってもみなかったです」
「ですね〜。講義室入ってフィンちゃん見つけたときに
「あぁ〜怜夢さん来ないかなぁ〜」って思いました」
妃馬さんは森本さんと僕が会えればいいなぁ〜という思いで言ったんだろうが
「あぁ〜怜夢さん来ないかなぁ〜」という部分だけで勝手にドキッっとしてしまう。
「美人さ加減は変わりないというか」
「ほお〜?そんなに美人でした?」
「はい!めちゃくちゃに!」
電車内のようにまた肩に肩をぶつけてくる妃馬さん。この感じが気に入った。
「でもたしかにフィンちゃん可愛いよねぇ〜」
「まぁねぇ〜美人度が増したね」
「そっか。妃馬さんは小学生のときから知ってるから」
「ですです」
「小学生の頃は可愛さが強かった?」
「そ う で す ね?7、3くらいで可愛さが勝ってたかな?」
「おぉ〜。そう聞くと2人の小学生の頃のアルバムとか見たいですね」
「私見たー」
「マジ?どうだった?」
「可愛かったよぉ〜」
「マジかぁ〜見てぇ〜なぁ〜」
「サキちゃんもね」
ニマニマした音成さんがそう言う。一瞬ドキッっとしてどう返していいかわからなくなったが
「え、マジか。ちょー見たいわ」
とまあまあ本当だけども冗談のように言った。
「恥ずかしいのでダメでーす」
「えぇ〜。でもこんな話になるとみんなの見たいですよね」
「でも私のは知ってんじゃん」
音成がそう言う。
「あぁ、中学、高校だろ?小学生の頃よ」
「そーゆーことね」
「妃馬さんと森本さん以外は小学校みんな違うんだから」
「あ、そっか。小野田くんと暑ノ井くんも小学校は違うんだっけ」
「私も同じだって思ってたけど、中学からの幼馴染って聞いた気が」
「ですです。中1からですね。たぶん小学校は違うはず」
「たぶんて」
「いやだってさ、小学生の頃、他のクラスのやつとか気にしてた?」
「あぁ〜…どうだったかな」
「家近い子とかはクラス違くても仲良かったはず」
「なんか誰と仲良いとか気にせず遊んでた気がする」
「男子はそんな感じだった気がします」
「昼休みになった瞬間、教室から走って外行ってたイメージ」
「だね。サッカーバスケ鬼ごっこ。とにかく走ってた」
「女子は恋バナとか縄跳びとか」
「恋バナ。そのときから!?」
「私は絵とか描いてたからしてないけど」
「男子はなぁ〜バカだから」
「バカじゃない男子もいるでしょ」
「稀だな。小学生男子は大多数がバカだと思ってる」
「そうなんだ」
「まぁ大多数ってのは言い過ぎかもだけど、少なくても鹿島、匠、オレはバカだな」
「たしかにぃ〜」
「おい。少しは否定してくれ」
3人で笑う。音成を家まで送る。
「んじゃね〜」
「またな〜」
「またねぇ〜」
妃馬さんと2人で
根津家の入っているマンションのエントランスまでたった数十メートルを送る。
「デート楽しんでたみたいですね」
「ねぇー」
「水族館かぁ〜」
「行きたいですね」と言おうとして止まる。
「あ、そうだ。明日明後日と3人で出掛けるんです」
「ロナンの映画行くんですよね」
「ですです。恋ちゃんロナン好きだから」
「2日連続で遊ぶなんてめっちゃ仲良しですよね」
「仲良いんですよぉ〜」
「森本さんっていつもマスクを?」
「いつもって訳じゃないですけど」
「やっぱ元とはいえ芸能人だったから?」
「んん〜それもあるらしいですね」
「「も」というと?」
「まぁフィンちゃん美人だから、やっぱどうしても注目されるんですよ。
注目されるだけだったらあれなんですけど
たまぁ〜にいるらしいんですよ。フィンちゃん知ってる人」
「まぁ、僕ですら知ってましたかからね」
「そうなると「あの子芸能人だよ」って友達に話して
その話し声が周囲にも聞こえて、なおさら注目されるらしいんですよ」
「あぁ〜…」
「注目されるだけならいいらしいんですけど
もう辞めたのに今になって知ってる人が増えるのも
昔のこと思い出しちゃう感じだから嫌なんだそうです」
「なるほど…」
何気なく聞いた質問だったが予想外に重かった。
「鹿島さんと出掛けてるときもマスクしてんのかなぁ〜」
「たしかに。鹿島結構写真撮ってニャンスタに上げるほうだけど
さすがに森本さん写ってないしなぁ〜」
「私鹿島さんと小野田さんのニャンスタ知らないなぁ〜」
「グループで聞いたらいいですよ。僕も森本さんと音成の聞こ」
「フィンちゃんのアカウントおもしろいですよ」
「そうなんですか?」
もうエントランス前に着いていたが話を続ける。
「フィンちゃんほぼ自分のことは投稿せずにテレビで見た芸人さんのことだったり
アーティストさんの楽曲だったりを絶賛するような投稿だったり
新しいゲームが発表されてそれについての投稿だったり
逆にこいつ全然実力ないのになんでテレビでこんな使われてんの?
っていう辛口投稿だったり、そんな投稿ばっかなんです」
「おぉ〜。めっちゃおもしろそう。森本さんのアカウントなおさら知りたくなったなぁ〜。
ていうか森本さんの垢、趣味垢だ」
「そうそう!恋ちゃんも趣味垢感が強いかな」
「妃馬さんは〜…身の回りのことが多いですよね」
「そう〜ですね?最近は自分のことが多くなったかも。
映画おもしろかったーとかこれ美味しかったーとか」
「でも割と投稿頻度少ないですよね」
「そうですね〜。見るほうが多いかな」
「あぁ〜」
「怜夢さん全然ですよね」
「そうですね。僕は全然。投稿する写真もないし、見る投稿も…全然興味あるのないし。
写真投稿するのはよっぽどなことがあったときか特別なときとかだけですね」
「特別…」
「そうですね」
「ふふふ」
妃馬さんが笑い出す。
「なんですか」
本当に疑問に思いながらも妃馬さんに釣られて笑ってしまう。
「別にー」
「気になるなぁ〜」
「へへへ」
無邪気な妃馬さんに心臓が跳ねる。
「へへへって」
「へへへ」
「じゃあ、そろそろ行きますね」
「はい。また」
「はい。今度はー月曜?」
「遠いですね」
「遠いですね?まぁ土日挟むのはいつものことですけど」
「まぁたしかに」
「じゃあ、明日明後日と楽しんでくださいね」
「はい!また…あ!LIMEで!」
「あ、そうですね。LIME。なんか当たり前すぎて忘れてたかも」
自分のアホさ加減につい笑ってしまう。
「じゃ、またLIMEで」
「はい。またLIMEで」
踵を返し、曲がり角に向かって歩く。妃馬さんに会ってからもう何度も土日を経ている。
はずなのに妃馬さんの言った「遠いですね」の一言に後ろ髪を引かれるように足が重く感じる。
曲がり角を曲がると不思議といつも通りに戻り
スマホ、イヤホンで音楽を聴きながら駅へと歩く。