シェアする
月がとても綺麗な夜だった。
風もなく穏やか。
淳志のことで災難にあっただなんてまるで思えないような澄んだ空気。
店を出るときに手は繋いだまま。
そのまま駅まで歩いてきてしまった。
「俺さ、リカちゃんのことが好きなんだよね」
「はい?」
突然すぎてリカは目をぱちくりとさせる。
「リカちゃんのことが好きなんだ。ずっと前から」
「……先輩」
航太の告白は今のリカにとって突拍子すぎた。
あんな淳志とのいざこざを見せられて、なぜ好きだと言えるのか不思議でならない。
「あの、さっきまでの会話覚えてます?」
「セクハラになるから覚えてないなぁ」
「いやいや、覚えてるくせに! どうしてそこで好きとか言えちゃうんですか?」
「だって俺、リカちゃん曰くチャラいから~」
ヘラっと笑う航太は口調とは裏腹に全然チャラくなく、なんだか眩しく見えた。
リカは泣きそうになる気持ちを抑えながら声を絞り出す。
「私、最低なんですよ。ほんとに、……過去に戻りたい」
今まで付き合った人には、淳志との初体験のことは秘密にしていた。封印した過去だったのだ。それがこんな形で表沙汰になるなんて思わなかった。
淳志がリカのことを尻軽女だと思っていようが、そんなことはどうでもよかった。彼とはあれ以来一切会っていないし連絡すらしていない。
それなのに――。