こんにちはこんばんは、御宿です。今更気づいたんですけど、この小説って…各話ごとに題名がない!!題名が!!無い!!!
と言っても今後つける予定無いんですがね…
でも今回、なんか題名が降って湧いてきたんで付けました。
それだけです!前書き長くなりましたね。本編に入ろうと思います。
※続きです!
⚠️旧国表現あり。戦争賛美、政治的意図共にありません。
すみませんあとこれだけ!!少し前の実際の出来事が盛り込まれてるんですが、何せ少し前なので…「古いよ」って思われるかもしれません。いえ、浅学なりにも最新の情報は仕入れるようにしているんですがね…
本当に長くなりました、申し訳ありません。
始めさせていただきたいと思います。
電気のついていない薄暗い部屋に、真っ青な光が満ちていた。全て電子機器が発するブルーライトの光だ。部屋の奥には大きめのデスクが据えられており、さらにその上にはいくつもの電子機器が電源の付いた状態で置かれていた。それらはパソコン数台に始まり、デスクトップ、タブレット数台、キーボードや小型の印刷機、その山々の前にはさらに、付箋が貼りまくられた書類と筆記具類が散乱している。
その机の前に、黒く大きなデスクチェアがあり、パソコンから出る光で青く反射していた。そこに身を沈めるようにして男が一人、座っていた。……否、ぐったりとくたびれたように眠っている。
「………………ぅ」
悪夢でも見ているのか時々微かに呻くその様は、どこかいじらしくもあった。連日徹夜でもしていたのか彼の目元には濃いクマができており、父親譲りの整った顔は、ずっと前からそうであったとでも言わんばかりに苦しげに歪んでいる。
静寂が満ちていた。時折聞こえるものといえば、機械の出す電子的な作動音と、彼の微かな寝息くらいだろうか?
まだ夜は宵の口だったが、物音一つせず、静かにしんしんと更けていった。
しかし、突如として静寂は破られてしまった。けたたましい携帯の着信音が部屋に鳴り響き、男は飛び起きた。
「ぇあっ、え、あ⁉︎ あ、す、スマホ……!」
ひっきりなしに鳴り響く着信メロディーに追い立てられるようにバタバタと探し回った男は、やがて机に山積みになっていた資料の山々の中からやっとのことで黒い携帯を探し出すことに成功した。連絡先の名前もろくに見ずに耳に押し当てる。
「すっ、すみませんドイツです!すみませんすぐ出社しま……………って、あ?日本⁉︎ 」
てっきり会社の上司からの連絡かと思ったドイツは、素っ頓狂な声を上げて身をこわばらせた。そのあと、眉間に手を当てて顔を赤くして俯いた。
……社畜魂が出てしまったか……
若干赤面しながら、電話をかけてきたのが昔ながらの友だったことを知ったドイツは、電話を嬉しく思った。しかし友達とはいえども相手は国だ、距離が離れている上に毎日のように親しく交流しているというわけでもない。であるならば、電話をかけてきたからにはそれ相応の理由というものがあるはずである。だから、これから話されるであろう内容が全く想像できないというわけではなかったがそれでも、少しばかり身構えてしまったし、恐怖してもいた。
「電話、ありがとな。元気だったか?最近会えてなかったしな………うん、あぁ、そっか。……ううん、そうなら良かった」
束の間の、純粋な友達として心を通わせられる時間だった。だがほんの一瞬の後には、ドイツの顔はすでに険しいものとなっていた。しかしそれはあちらでも同じだろう。
「………で?今日電話してきたのは何故だ?…………あぁやっぱりそうか。お前のところもか……支援はするんだろう?アメリカとは話をしたのか?………あぁいや、すまない、そういうことじゃなくてだな………お前自身の意見を聞かせてほしい……。……うん、そうだよな。お前のことだ、もちろん、………」
厳しい表情だったが優しく頷きながらも、ドイツは肩と耳で携帯を固定するように挟むと、すぐにパソコンを全て起動させキーボードに手を置いた。高速で何かを打ち込んでゆく。
「…………うん、そうだよな。人を傷つけることのできない、………あぁ、ヘルメット、防弾チョッキ………プレートキャリアは?………うん、なるほど……この間、俺が送った資料は目を通してくれたか?………あぁ、ありがとう。それに記載されてた装備一覧の中では………そっか……」
電話口の向こうで、日本が申し訳なさそうに ぺこぺこしながら謝っている様子が目に浮かぶようだった。ドイツは苦笑した。
「そんな、良いって……保留くらい。いや、お前はソレを大事にすべきだ、俺はお前のその判断を嬉しく思うよ」
ドイツはいつしか、固かった表情を崩して微笑んでいた。内容的には重苦しい密談だったが、それでもこうやって肩の力を抜いて微笑むことができるのは、ひとえに相手が、こちらの意見を害さずとも自分の意見をも明晰に言える器用な日本だからだろう。スマホをスピーカー状態にして資料の山の一つに立てかけると、ドイツは他の資料を引っ張り出して、他のことを日本に質問した。それからそんなやり取りを何回か交わしたあとだった。
ぴく、とドイツの肩が震えた。
「…………え…………?」
キーボードを打っていた手が不意に止まる。
「え……に、ほん、……それ、は……」
ドイツの指先が微かに震え出す。口を開いて何かを言いかけては辞め、言いかけては辞めを繰り返したドイツは、やがてカチャ……カチャ……という鈍い音と共に何かをゆっくりと打ち込んだ。震える指先がエンターキーを押しこむ。
ヴン、という音と共に画面に何かが表示された。
ブルーライトに照らされたドイツの顔、その端正な顔立ちが、今は、苦渋に歪んでいる。
「………日本。日本は……俺が、」
ギャリ、と音が鳴るくらい奥歯を噛み締めた。
「これを……使う、べきだって、言うのか……?」
画面に、カーキ色の何かの機体のようなものが表示されている。
タウルス。空中発射巡航ミサイル。ユーロファイタータイフーン、トーネードなどといった戦闘機に搭載可能な優れもの。スウェーデンとの開発だった。
この忌まわしい兵器が完成した時の彼の言葉が脳裏に甦る。
『ドイツ……ありがとう。君のおかげでこんなに高性能なものを作ることができた』
スウェーデンは人懐こい笑みを浮かべていた。
『これを使えば、うまく使用できればどんな強国と対峙していたとしても勝ち目がある!僕ら本当にやり遂げられたんだ、すごいよ、ドイツ‼︎ 』
その言葉に対して自分はなんと返しただろうか。使う時なんて来なくて良い、そう返した気がする。スウェーデンは、完成した嬉しさに浸っていた自分に水を差したドイツに気を害された風もなく、穏やかに微笑んだだけだった。いや、「それもそうだね」と、少しばかり寂しそうに言っていた気もする。……今はそんなこと、どうでも良い。
「日本……本気で言ってるのか?これを……俺が使うべきだと……!被害が、どのくらい出るかわかって言ってるのか⁉︎ 」
『いえ、最悪の場合のみです。今使えとは、一言も言っていませんよ』
日本のその声は、まるで砂漠に垂らされた一滴の水のように、ドイツの耳に瞬く間に染み込んだ。
『ドイツさん、よく考えてみてください。第一まだ、ウクライナさんも自力で耐えられる状態にあるんです。加えて、東側と敵対する第一人者として、アメリカさんだってこの事態に動かないわけがないんですよ。……それに、アメリカさんはともかく、無闇に大国ではないこちらが動きを見せれば、ロシアさんを無駄に刺激することに変わりは無い。だから使うなら時を見計らうべきだと、そう、言いたいんです……そうですね、先ほどの僕の言い方だと少し語弊があったかもしれませんね……すみません』
日本は、昂ったドイツの気を鎮めるようにゆっくり、ひとことひとこと区切りながら丁寧に弁解した。日本が言い終わると、ドイツはそれまで詰めていた息を吐き出した。改めて良い友を持ったものだと思う。これが相手がアメリカなどだったら話は変わってくるだろう。「そんな良いミサイルを開発しておきながら、どうして使わないんだ?どうしてウクライナに送ってやらないんだ?さっさと使用すべきだろう」……使う以外の選択肢を与えられぬまま終わりだ。真っ先に日本に相談して本当に良かった。
それから数十分間、支援の仕方について意見を交し、共に同じ方向で進める旨を確認した。気づけば夜も更けていた。
礼と、おやすみの挨拶をする。
電話を終了した後も、ドイツは数分間、動けなかった。じっと虚空を見つめてため息をついたドイツは、やがて両手で顔を覆った。
日本にはああ言った。日本はそれを理解してくれた。しかし国民は。
「……クソッ………」
思わず毒付いた。
ドイツはもうわかっていた。国なのだから当たり前と言えば当たり前だが。国民は、ドイツがタウルスを今すぐ支援に使うことを期待している。それがドイツら“国”にどのような被害・影響を及ぼすかも知らないで。
(……俺が……本当にコイツを使ったら……ウクライナに使用させたら……)
想像しただけで息が詰まり、ヒュッと喉が鳴った。もし俺が、この兵器を使用したら。
(ロシア側の被害はどうなる……っ⁉︎ 何人死ぬ?何人犠牲になる⁉︎ いやしかし、今使わなかったらウクライナは……ウクライナ側ではどのくらい被害が出るんだ……⁉︎ 今は持ち堪えられてる……だが“今は”だ。この後どのくらい保つ?半年?三ヶ月?いや、戦況の変化なんて急に起こるものだ、仮に明日、ウクライナ側で多大な損害が出たら?ロシア側が大幅な進軍に成功したら?俺が今すぐこいつを提供すればそれは避けられるのか⁉︎ ……まさか)
俺に全て、掛かっている?
ズグン、と心臓が締め付けられたように痛んだ。途端に心拍数が上がってゆく。慌ててその考えを否定しようと躍起になる。
(いやいやいや違う……‼︎ 日本も言ってた、それはロシアを刺激することに変わりはないはずだ!ロシアにだってもちろんタウルスの存在は知れ渡ってるに決まってる、ここで俺が提供に踏み切ればそれは少なからずロシアを煽ることに直結する……‼︎ だからここで俺が提供を拒むことは道理にかなっているしウクライナにとってもロシアにとっても最適解のはずだ‼︎ ……しかし……俺がもしこのまま提供を拒み続けたら……ロシアが進軍に成功したら……たまたま明日、ウクライナに不利なように戦況が変化したら……下手したらウクライナは………明日にでも……)
死ぬ。
「………ゔっ………!」
吐き気が込み上げ、ドイツは口許を慌ててハンカチで覆った。胸に熱く迫り上がってきたものを呑み下すのに必死だった。だめだ、考えるな。今は少しでも明るい方に思考を持っていくべきだ。タウルスの使用、そんなことは起こらない。ロシアとウクライナもすぐに停戦することだって可能なはずだ………!
それでも、最悪の事態の可能性を、頭から振り切ることができない。もし、本当に、使用………してしまったら。
それは暴力に訴えることで平和を希求するのと同じではないか。いくら停戦に持ち込めたとしても、ロシアもウクライナも死なずに済んだとしても、多大な犠牲がどちらかに、いやもしかしたら双方に出るだろうことには変わりは無い。そんな方法で得た平和などこれっぽっちも望んでいないし、そもそもそんなのを平和と呼びたくもない。しかし……ナチスは。俺の、父さんは。
(いや……ダメだダメだダメだ!考えるな‼︎ 俺はナチスとは違う国だ!)
一人でぶんぶんと首を振り、悪い妄想を振り払おうとした。それでも脳に強く焼き付いてしまったその可能性を完全に振り切ることは今のドイツには不可能だった。
(もし、本当にコイツを───タウルスを。使う日が来たとしたら………)
ウクライナは。ロシアは。
この世界は。
どうなってしまうのだろう。
「……あぁ、あ、……あぁぁ………っ」
ドイツはやがて両手で顔を覆うと机に突っ伏した。その肩が微かに震えた。
「……俺は…………俺は………っ‼︎ 」
ドイツは呻いた。震える呼気と共に言葉を吐き出す。
「なんて物を生み出しちまったんだ、俺は……‼︎ 俺は………どうすれば良いんだよ……っ!……教えて……くれよ、教えてくれよ……俺は、どうすれば良いんだ……⁉︎ なぁ………」
…………父さん。
夜も更けた。冷気がたちのぼり、ドイツの足に絡みつく。彼の静かな嗚咽が、部屋の中に闇と共に満ちていった。
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自分がいざ小説を書いてみてから御宿さんの小説を読むと、やはり語彙力の高さや理解しやすさに驚きます。国としての重荷を全て取り払った上での「友達」という関係がとても素敵だな、と思いました。お恥ずかしながら、私は軍事関連に明るくないのでGoogle先生に頼らせていただきながら読みました。他にも大好きなところはたくさんあるのですがこれ以上内容を再確認すると泣きそうな気がするのでスウェーデンに癒されに行こうと思います。ありがとうございます!
またまたコメント失礼します( ‥)" 今タウルスについて調べて来ました… 記事を見て、改めてこの小説に起きていることが、“今”の“現実”に起きていることなんだなと実感しました……本当に御宿さん凄いです……!尊敬しちゃいます>⩊<
ドイツさんと日本さんが登場……!今回も凄く凄く面白かったです……!!ドイツさんなんていい人なんだ、、読んでいながら私まで顔を顰めてしまいました…… 続きを楽しみにしてます!!