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颯斗side
夕方の風が少し冷たくなってきた頃、
直弥の部屋を出た。
「行ってらっしゃい」
そう言って笑った顔が、
まだ頭に残ってる。
あいつ、たぶん気づいてるんだろうな。
どこへ行くか、誰のところへ行くのか。
でも、何も言わない。
言わずに、笑って見送ってくれる。
その優しさに甘えて、今日も嘘をついた。
「仕事の打ち合わせ」
そんな言葉でごまかすのは
もう何度目だろう。
自分でも、呆れる。
それでも足は自然と、
永玖のマンションへ向かってた。
ドアを開けると、
永玖がソファに寝転んでいて
こっちを見る。
永「…遅かったね」
颯「ごめん。ちょっと出るタイミングずらした」
永「直弥にバレそうだった?」
颯「んー……どうだろ。多分もう気づいてる」
永玖は少しだけ笑った。
永「今日、2人とも休みなんでしょ? いいの?」
颯「大丈夫。いつも通り見送ってくれたし」
永「“いつも通り”って、それ絶対気づいてるやつじゃん」
颯「……かもな」
苦笑しながら、煙草に火をつける。
ライターの音が静かな部屋に響いた。
永「颯斗ってさ、結構鈍感?笑」
颯「自覚はある」
永「それでよくそんな顔して言えるよ」
颯「お前がそう言うなよ」
永「俺?」
永玖が身体を起こす。
永「俺は、ちゃんとわかってるよ。
俺が“二番”なのも、“都合いい存在”ってのも」
その言葉に、思わず視線を逸らす。
颯「そんなこと――」
永「あるでしょ」
永玖が遮るように笑って、
俺の煙草を奪った。
永「でも、いいよ。そういうとこ、好きだから」
そう言って、唇で煙草をくわえる。
灰皿に押しつけて、煙が消える瞬間、
なんか自分の中の罪悪感まで
一緒に消えた気がした。
永玖は黙ってこっちを見てくる。
その目の奥に“責め”でも“哀れみ”でもない、
ただの依存の色があって――
それが妙に、安心する。
直弥の優しさよりも、
永玖のこういう空気の方が、
今の俺には楽なのかもしれない。
心が動かなくなってるのに、
どっちも手放せない。
颯「永玖、こっちおいでよ」
直弥の笑顔も、永玖のぬくもりも、
どっちもなくしたくない。
でも、どっちもちゃんと愛せてない。
――ああ、俺も結局、依存してんだな。
この関係に。
この“逃げ場”みたいなぬるさに。
𝐹𝑖𝑛.
コメント
2件
煙草の描写のところがなんかいいな。続きありがとうございます!