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なんか部屋が湖になっていて目がすんごい潤っています てかまじ天才ですよね。絵も上手いし作品も上手いってどう言うことですか?大好きです
え...すご...天才...神作すぎて自分の周りに湖できちゃいました...どうしよ...感動した...ズビッ((顔が大惨事☆
いつも通りの注意事項。
・R-18はありません。
・今回はリクエストでナチ日帝です。
・少々グロ表現、流血表現あります。
・死ぬほど長いです。1万字行きそうでした。
・この話には史実に基づく言葉が
いくつか出てきますが(日独伊三国同盟など)、
この話はあくまで二次創作であり
実際の史実とは一切関係ありませんので
ご了承ください。
「なぁ、何を描いてるんだ?」
雪の降る日の事だった。
俺はこの河川敷の道がお気に入りの
散歩道で、結構な確率でこの道を
歩いている。
そこへ、いつのまにかキャンバスを
広げ熱心に絵を描いている男が
現れたのだ。
話しかければ、その男はゆっくりと
顔を上げた。
「…嗚呼、この川の景色を
描いていた。ほら…ここの景色って
綺麗じゃないか。これをずっと
残しておきたくて」
「成程な。見ても良いか?」
「嗚呼、良いぞ」
見せてもらった書きかけのそれは、
絵の知識が乏しい俺にも十分すごさが
伝わる絵画だった。
水の透明感がこれでもかというほどに
再現され、川の向こう側の森林も
手を抜くことなく細かく書き込まれている。
思わず写真かと疑ってしまうような、
そんな絵画だった。
「……変、だったか?」
あんまりにも俺が黙ったままずっと
絵を見ていたからか、男は不安そうに
俺の顔を見上げた。
俺は首を思い切り横に振った。
「や、そうじゃなくて…全く逆で。
すごいなぁって思ってさ。
この水の表現とか、本物みたいだ」
「ははっ、そうか?この表現、
頑張ったから褒めてもらって嬉しい」
花が開くように男は笑った。
「…完成するまで、見ていても
良いか?」
思わずそんな言葉が零れる。
男はびっくりしたような目で俺を
見ていた。
「…っあ、す、すまん、
いきなりこんなこと言って…」
「…いや」
男は首を振った。
「大丈夫だ。
俺が描いている間の話し相手に
なってくれるなら、良いぞ」
「…本当か?」
「俺は嘘は言わない!
…あ、ちょっとスペース空けるから
座るの待って…」
男は慌ててベンチに広げていた
絵画用品を片付け始めた。
その衝撃で、パテが地面へと落ちる。
それを拾い、差し出した。
男はありがとうと言って、パテを
受け取った。
「…お前、名前はなんて言うんだ?」
ベンチに座った途端にそんな言葉が
零れた。
「…俺か?
俺の名前は、ナチス。
ナチス・ドイツだ。
じゃあ、逆にお前は?」
「俺は、」
「大日本帝国。」
それから俺は、ナチスの描く
世界をずっと見ていた。
スケッチブックの白い部分に
鉛筆の炭素だけで描かれていく
モノクロの風景に、ただ俺は
見惚れていた。
今にも動き出しそうな川の流れ。
風に揺られ、鳥が飛び立ちそうな程
繊細に描かれた木々。
手を抜くことなく、しかし主張
しすぎないように小さく描かれる
河川敷の小石。
ナチスの手によってスケッチブックの
真っ白な海に広がる世界は、モノクロだと
いうのに色がついて見えて…ただただ、
美しかった。
「お前って、画家志望か
何かなのか?」
ナチスは鉛筆の動きを止めることなく
頷いた。
「そう、画家志望。
もうじき美大の受験でさ…
俺、そこに入って絵の勉強して…
世界的にも有名な画家になる事が
夢なんだよ」
彼はそう言った。
でも、ふと鉛筆の動きを止めて
俺の目を見た。
「…やっぱり、お前も
おかしいって思うか?
現実味が無いって」
目の奥に揺らめく悲しみの色。
「そんなことない」
「夢を追い続けられるのは、
素晴らしいことだ。
その事は、決して誰にも
否定できない。
だから、お前はお前の思う道を
進めば良い。
俺は、きっとナチスは画家になれると
思うよ」
「…そうか、ありがとな!」
ナチスは照れたように笑った。
「よしっ、できたッ!」
掲げられた絵は、本当に美しかった。
色づいて見える、澄み渡った川。
深い緑色に覆われた森林。
そして、鮮やかに色づいて見える
夕暮れの空。
モノクロなのに、俺にはその絵が
とても美しい絵に見えて仕方が
なかった。
「…綺麗だ」
「本当か!?そりゃ良かった!」
ナチスは心底嬉しそうに笑った。
そして、せっかく描いた絵を
スケッチブックから切り離してしまった。
「これ、お前にやるよ」
「え、良いのか?お前が一生懸命
描いた作品だろ?」
「嗚呼、この絵はお前に貰ってほしい…
…ぁ、裏に書いとかないと」
スケッチブックの絵をひっくり返し、
また鉛筆を走らせる。
今日の日付と、『Nazi Germany』と
名前が書かれた。
「はい、これで良い!」
「…!
ありがとうな、ナチス…」
『一生大事にする!!』
その日から、俺たちは毎日の様に
河川敷に集まった。
集まったとはいっても、ただ
ナチが絵を描いている横で
俺は本を読んだり話し相手になったり
していただけなんだけどな。
そうして一緒に遊んでいると、
いつの間にか仲も深まってお互いに
『ナチ』『日帝』とあだ名で
呼び合うまでになった。
そんなある日。
陸軍の教育が終わってから例の
川に赴くと、もう既にそこには
ナチが居た。
俺を見るなり、ナチは目を見開いた。
「おま、それ…軍服!?
日帝って軍人だったのか!?」
「ん?嗚呼、そうだが…
言ってなかったか?」
「そんなこと一言も…
え、何の軍隊!?」
「陸軍を指導してるぞ」
「はぇー…意外にもすげぇやつ
だったんだな、日帝って…」
大げさな程に驚くナチに、
思わずフッと笑い声が漏れた。
でも、ナチもすぐに慣れたのか
またキャンバスに向き直る。
俺は持ってきた小説のうちの
一冊を開き、本の世界へと
入り込んだ。
そうして過ごしていたとき、
ふとナチが声をかけてきた。
「なぁ日帝、頼みたいことが
あるんだが」
「ん?なんだ?」
風景画の資料が欲しいんだろうか。
反射的にカバンの中の現像した
写真に手を伸ばしかけた。
「日帝の事を、描かせて
くれないだろうか」
「…へ?」
目をぱちくりとさせた。
「美大受験するにあたって、
人物画もちゃんと描けないと
いけないしさ。
…でも、俺の周りにモデルに
なってくれるような人も
居ないし…頼めないか?」
「…ふふ」
「俺が断るとでも思ったか?」
そう言うと、ナチは満面の
笑みを浮かべた。
俺にポーズを指定した後、ナチは
鉛筆を小型ナイフで削り、人差し指と
親指でフレームを作って俺にかざす。
いつもの、ナチの構図決めの
儀式のような行動だ。
「…うん、良いな。
じゃあ、その本読むなりして
待っててくれるか」
「嗚呼。休憩したくなったら
いつでも言ってくれよ」
「はは、ありがとよ日帝」
さらさらと炭素がキャンバスの上を
滑っていく音。
それと共鳴するように辺りに響く、
川の音。
それをBGMに俺は本の世界へと
入り込んだ。
「…ッ、日帝!」
唐突に本の世界から引っ張り上げられた。
「出来たぞ、日帝!!」
そう言って、ナチは俺に出来上がった
キャンバスを見せた。
「…っ、おお…!!」
そこに描かれていたのは、紛れもない
俺だった。
服のしわまで細かく描かれ、指先まで
決して手を抜くことなく描かれている。
軍服の細かい模様なども書き込まれ、
立体的に仕上がっていた。
「すごい!!すごいなナチ!!」
「へへ、そうだろうそうだろう!?
この絵は俺の描いた絵でも
トップクラスにお気に入りだ!」
キャンバスを抱え、ナチが嬉しそうに
笑う。
「…よし、これで大丈夫」
ふとナチが声の大きさを落として
そう言った。
「俺、あと2週間で美大受験なんだ。
だから、もう…試験までは
ここには来られないんだ」
「…そうか。ナチならきっと大丈夫。
会えなくても、俺が応援してるから」
「心強いな。
ありがとう、日帝」
帰り際。
俺はナチにこう言った。
「ナチ。試験が終わったら、また
ここの河川敷のあのベンチで会おう」
絵画用品をいっぱいに持ち、
夕日を背に彼は振り返った。
「…嗚呼!!絶対会おう!!」
そう、俺たちは約束した。
なのに
ナチはあれから、来なくなった。
まず、試験が終わった次の日。
俺はすぐにあの河川敷へと向かった。
でも、ナチはいなかった。
まぁ試験終わりだし疲れてるんだろうかと
思ってその日は帰った。
また次の日、赴いた。
でも、また居なかった。
それから、何日も、何日も。
何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も何日も
あの河川敷に赴いたのに、
ナチは居なかった。
ドイツが第一次世界大戦で負けてから、
十数年後。
俺は、そんな日にも河川敷へと来ていた。
もうずっと待っているのに来ないと
いうことは、もう待ち人は来ないことを
意味しているも同然。
でも、まだ待ちたかった。
彼の絵を、まだまだ傍で
見ていたかった。
話したいことも沢山ある。
このまま、会えずに終わるなんて…
「…そんなの、嫌だ」
ぽつりと声が漏れた、その時。
「…日帝?」
懐かしい声が聞こえた。
「…ナチ………?」
後ろに立っていたのは、
真っ黒な軍服をまとって
立っている、十数年前とほとんど
何も変わらないナチだった。
「ナチ、なのか?」
「嗚呼…ナチス…だけど」
「この、馬鹿ッ!!」
俺は思わず大声を出した。
「お前が来なくなった日から、
ずっと、ずっと…待ってたって
いう、のに…お前、来なくて…」
「もっと、早く来いよ…!!」
殆ど涙声で訴えた。
ナチは、そっと俺の頭を撫でた。
「…長いこと一人にして、
すまなかったな」
ナチの声色は、どこまでも優しかった。
寂しさで傷ついた心に沁みていくのを
感じられそうだった。
「…日帝。
俺の家に来ないか?」
その提案は唐突だった。
俺はナチに頭を撫でられたまま、
頭を上げた。
「実は、俺がここに居るのは
お前の家に行こうと思ってたから
なんだ。
で、もしかしたらって思ってここに
来たら…お前が居た」
「そうだったんだな…」
「うん、行きたい。ナチの家に」
そう言うと、ナチは心底
嬉しそうに笑った。
「はい、どうぞ日帝。
ちょっと待っててな、紅茶出す」
「ありがとう、ナチ」
招かれたナチの家は西洋風で
美しい造りだった。
やっぱり、こういう美しい所に
住んでいると家主まで美しく
なるんだろうか?
そんなどうでもいいことを考えつつ、
目の前に置かれた淹れたての紅茶を
一口頂いた。
「…ん、美味い!」
「だろ!?こないだ近所の人に
もらったんだよ」
ナチは満足げに笑った。
「それにしても…この十数年間、
お前何してたんだ?
美大受験してからもう結構
経つけど…画家になって
忙しくなったのか?」
俺は笑顔でそう問うた。
ナチの顔から表情が消えた。
「…ナチ?」
雰囲気の急な変化に、俺は
少なからず驚いた。
「…嗚呼、すまんすまん。
大丈夫だぞ、日帝」
ナチの表情に笑顔が戻った。
「で、俺が今まで何をしてたかって
話だよな。
あの後、俺は美大を受験して」
「落ちた」
「………え」
笑顔で、受験に落ちたことを
言った。
「だからな、俺…もう絵を描く
気力が無くなってさ。
絵の道具、全部捨てたんだ」
「…は?」
俺が驚いている間にも、ナチは
笑顔で話を続けていく。
「初めは俺から絵を取られたら
一体何が残るんだろうって思ってた。
でもな、そんな俺にも絵以外に
得意なことがあったんだ」
「…得意な、こと………?」
首筋を冷や汗が伝っていく。
「心の掌握術だよ!!」
ヒュ、と息が詰まった。
「俺が演説したらな、みんな俺に
付いてきてくれたんだ!!
おかげで、今や俺は総督なんて
いう偉い立場にまで上り詰めた!!
だから、俺は決めたんだ!!」
「な…何を…?」
『この世界を、俺が支配するって!!』
「……!?」
俺は思わず立ち上がった。
「ナチ、悪いことは言わない。
世界征服だなんて、現実味のないことを
言うのは辞めろ。
最悪、イギリスやアメリカに処刑
されるぞ!!」
「そのイギリスやアメリカも全員処して
領土を奪えばお咎め無しだ!!」
「んな、無謀な…」
俺は、流石にナチが言うことに
ついて賛同できなかった。
「俺は…俺は、ナチのその考えに
賛成できない…」
「…なんでだ?日帝、お前も今は
満州を占領しているじゃないか」
「それ、は……」
満州の支配。
…何も言い返せなかった。
黙ってしまった俺の耳元で、
ナチはそっと囁いた。
「お前のやっていることと、
俺のやろうとしていることは
一緒なんだということに気づけ。
日帝」
「…ッ!!」
俺はナチの言うことが
信じられなかった。
だから、思わず走ってその場から
逃げようとした、のだが。
「ダメだよ、日帝。
逃げるっていうのは敵前逃亡と
一緒。軍なら厳しく処罰を受けるのは
日帝なら知ってるはずなんね」
腕を思い切り掴まれて、ぐいと
引き戻される。
俺の腕をつかんだ正体は…
「…イタリア、王国…」
「Ciao、日帝。
久しぶりなんね」
イタリア王国だった。
「…ナチ、イタリア王国まで
呼んで一体どういうつもりだ」
「なぁに、簡単なことだよ」
「この一枚の書類に3人で
署名するだけだ」
一枚の紙がひら、と目の前に
舞った。
「日独伊三国同盟…
良い響きじゃないか。
なぁ、日帝?」
血の気が引いた。
「断る!!!」
思わず大声で叫んだ。
「それにサインすれば、俺は…
アメリカと関係が一気に悪く
なる!!」
そう、訴えたのだが。
「そのアメリカにすら勝てば、
関係も何もないじゃないか」
ナチは涼しい顔をしてそう言った。
「…はっきり言おう、日帝。
お前にはもう二つの道しか無い」
その瞬間、俺はイタ王に背中で
両腕を拘束され、無理矢理
膝で立たされる。
正面に居るナチの顔を見上げた所で、
俺の額に銃口が突き付けられた。
「一つは、日独伊三国同盟を
締結すること。
もう一つは、お前がこの場で
その脳しょうを散らして
死ぬことだ」
見上げた、ナチの瞳には。
昔のような、絵を心から
楽しんでいるような無邪気さは
一切無く━━━…
『独裁者』
その言葉が似合うような、
真っ暗な瞳をしていた。
俺は、その瞬間全てを諦めた。
「…わかった。
サイン、するよ……」
「…お利口さんだ、日帝。
お前ならそう言ってくれると
思っていたよ」
その日、俺たちは日独伊三国同盟を
結んだ。
太平洋戦争が始まった。
戦局は一向に悪くなるばかりだった。
1945年の、ある日。
俺の通信機に、通信が入った。
「…はい、こちら
大日本帝国…」
『……日帝か?』
「ッ、ナチ!?」
ナチからの通信だった。
「どうしたナチ、何か
戦局が急変でもしたか!?」
もしかしたら、ドイツ全土が
もうすでに連合国に占領
されてしまったのかもしれない。
最悪の事態を想定しつつ、俺は
通信機に語りかけた。
『…日帝、今までありがとうな』
「…は?」
帰ってきたのは、質問に対する
返事ではなかった。
『昔、お前が河川敷で俺に
話しかけてきてくれた時。
すごく嬉しかった。
そのあとも、毎日の様にあの
川べりでずっと話し続けたよな』
「待て、ナチ、何を言ってる」
そう言っても、ナチの話は
終わらない。
『お前に美大頑張れって
言われたとき、俺は何でも
できるような気がした。
でも、無理だった。
結局落ちて、第一次世界大戦でも
負けて…俺には、何も
残らなかった』
『だから、お前たち2人と
手を組んだ。
だけど、結局……俺の望む
世界は手に入らなかった』
カチャ、と聞きなれた音がする。
一瞬で汗が引いた。
「ナチ、お前、何する気だ」
『嗚呼、でも…お前らと馬鹿やって
騒ぐのは楽しかったな…
俺にとっての、大切な思い出だ…』
『でも、もうそろそろ
終わりにしないとな』
ゴリ、と、まるで銃口が頭に
1ミリの隙間もなく当てられるような
音がした。
「待て、ナチ、まだ早まるな!!!」
『…日帝、イタ王………』
『今までありがとな』
ドン、という音と共に。
ナチからの通信が途絶えた。
俺は、慌ててナチの拠点へと
走った。
「ッ、ナチッ!!
返事してくれ、ナチ!!!」
イタ王は、今戦いの真っ最中。
だから、俺一人での訪問だった。
「ナチ、どこだ、ナチ……ッ!!」
家の中の照明がすべて落とされている。
完全な、真っ暗闇。
ライトをつけつつ探していると、
ピチャンと水音がした。
「……?」
床にライトを向けると、赤黒い
水が溜まっていた。
前方にライトを向けた。
「……嘘、だろ………?」
ライトで照らされ、浮かび上がる
戦友の姿。
ナチの側頭部からは血がしたたり落ち、
地面に血だまりを作っている。
右手には拳銃を握り、まだ発砲して
間もないことを表すように
煙が立っている。
「ナチ……なぁ、ナチ………」
目をしっかりと閉じ、ソファに
もたれかかるようにして眠る
ナチを俺は起こそうとした。
でも、動かない。
手にべっとりと付いた血を見て、
俺は
叫んだ
戦争が終わった
枢軸国の負けだった
ナチもイタ王も死んだ
俺だけが生き残った
戦後、俺はアメリカの指示に従い
憲法を変え、武力を放棄し、
日本の発展に努めた。
イギリスやアメリカ、中国に
追いつくために必死に努力して、
今は世界を構成する国のうちでも
かなり重要な国として選ばれる
ようにまでなった。
「……疲れました」
ふと、言葉が零れる。
大戦後、戦勝国たちに敬語を
使っていたらいつの間にか
染みついた敬語。
一人称もいつの間にか
『俺』から『私』へと
シフトチェンジし、私は戦争に
負けたんだと嫌でも実感させられる。
国の化身だという証拠の顔の
模様も、大日本帝国の旭日旗から
日の丸へと変わり、目も鮮やかな
赤色から暗い赤色へと変わっていた。
(これが時代の流れ…ですか)
時代が良い方向へと変わるのなら
私は別に抵抗しない。
今の私は戦争信者ではなく、
平和主義になってしまったのだから。
ふわぁとあくびをしつつ、押し付けられた
大量の書類を片付けていると。
「お疲れなんね、日本!」
「あ、イタリアさん…!」
後ろから冷たいコーヒーを
差し入れに、イタリアがやってきた。
このイタリアというのは、イタ王の
紛れもない息子である。
息子…というのはまぁ親しみやすいようにの
名称であり、正確にはイタ王の
後継の国だ。
「うわぁ…日本、今日も社畜
してるんね…エナドリ何本目?」
「エナドリは…これで6本目ですね」
「ちょ、飲みすぎ!!体に悪いでしょ!?」
ぷんすかと怒るイタリアに、フッと
笑い声が漏れる。
こういうところがやけにイタ王らしいのだ。
「全く…何を騒いでるんだ?
うるさいぞイタリア」
ぬぅっと現れたのは…
「嗚呼、ごめんなんね
ドイツ…って、ドイツもすごい
隈なんね!!何徹目!?」
「聞いて驚け、4徹目だ」
「そこ誇る所じゃないんね!!」
…ドイツ。
ナチの、後継の国にあたる者。
どうやらこの二人にはイタ王と
ナチの記憶は無いらしく、記録でしか
二人の事を知らないらしい。
日帝から直接日本へと成った私から
すれば、随分と寂しいことだった。
「ていうか、そろそろ昼飯か…?
食堂行こうぜ」
「ドイツにさんせーい!
日本はどうする?」
「…じゃあ、私も行きます」
私はカバンをもって立ち上がった。
「えーっと、ioはマルゲリータに
するんね」
「俺は…ランチAセットで」
「私は…じゃあ、生姜焼き定食で」
各々注文して受け取り、席へと着いた
所でドイツが思い出したように
カバンから一枚の紙を取り出した。
「なぁ2人とも、これ見てくれないか?」
「ん?何ねそれ?」
「こないだ、親父の元アトリエを
整理してたら出てきたんだ」
ドイツがその紙を広げると━━━…
現れたのは、人物画だった。
「…うっわぁ…上手すぎるんね…」
「だろ?で、これ裏に名前と日付
描いてあるから、親父が描いたことに
間違いないんだよ」
言われてみれば、裏に
『Nazi Germany』と書かれている。
懐かしい、ナチの筆跡だった。
「…ん?ていうかさ、これ…」
ドイツが紙を持ち上げ、私の
横へと並べた。
「地味に日本に似てない?」
「…確かに、似てるんね」
…そう。それもその筈。
ドイツが広げた紙、それに描かれた絵は
ナチが『俺』を描いた、一番初めの
絵だったから。
「ほら、日本も見てみろよ」
「…ありがとう、ございます」
震える手で、絵を受けとる。
じっと見つめていると、あの日交わした
会話が鮮明に頭の中に蘇ってくる。
『なぁ日帝、この軍服の構造
どうなってるんだ?
全くわからん…!!』
『日帝~、聞いてくれよ…!!
俺の絵が新聞に載ったんだ!
優秀賞だってさ!!』
『…俺、絶対に画家になる!
だから、俺が画家になったら
日帝、お前にまず初めに
絵を売るからな!!』
そんな、ナチの声が聞こえてくる。
「…日本……?
大丈夫、か?」
「…へ?」
視界がにじむ。
ぼろぼろと、頬を水が伝う。
「ッ、どうした!?
なんか嫌なことでも思い出したか!?」
「どうしたんね、日本!?」
イタリアとドイツが慌てた様子で
私の顔を覗き込んできた。
私は、泣いていた。
「あ、い、いえ…
ちょっと、絵を見て…思い出して…
それで、うっかり」
「…思い出した?」
こくりと頷いた。
私は、ドイツの顔をまっすぐに
見つめた。
どことなくナチの雰囲気が残る、
その顔を。
絵を見つめ、私はそっと
呟いた。
『今はもう居ない、親友の事を』
ナチ、聞こえてるか?
お前が死んでから…俺は、もう二度と
お前に会えないと思ってた。
でも、時代を超えて。
お前の絵を通して、また
お前に会えた。
ナチ。
俺がこうやって空を見上げている
間にも、お前は俺の隣に
居てくれるんだろう?
だからもう、俺は寂しくないよ。
これから先、何十年かかるか
わからないけどさ。
ナチ、待っててくれよ。
俺がたくさんのお土産話を持って
そっちに逝く、その日まで。
Fin.