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今回はutzmですー
切ない系大好き
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教室の空気はどこか浮き足立っていた。
転校生が来るらしい、という噂だけで、十分だった。
一方で、教室の後ろ。
窓際の一番奥。
そこだけ空気が違う。
緑のパーカー。
深く被られたフード。
机に投げ出された長い脚。
誰も近づかない。
視線が合えば終わり。
そう言われている存在。
ゾムは面倒くさそうに窓の外を見ていた。
「はいはい静かにー。転校生やで」
担任の声。
教室の前に立ったのは、背の高い男だった。
青みがかった黒髪。
前髪が長く、片目にかかっている。
シワのあるスーツ姿。
妙に落ち着いた雰囲気。
「鬱言います。よろしく」
関西弁。
低く、よく通る声。
女子がざわつく。
担任が席を示す。
「ほな……あそこな」
よりにもよって。
ゾムの前の席。
教室が一瞬静まる。
(終わったな)
誰かが小さく呟いた。
鬱は気にした様子もなく歩いていく。
机に鞄を置き、くるりと振り向いた。
「よろしくな」
真正面。
ゾムは視線を上げない。
「……」
「無視?」
少し笑う声。
「名前、なんて言うん?」
教室の空気が凍る。
ゾムはゆっくりと顔を上げた。
フードの影。
見えるのは口元だけ。
「……ゾム」
低い声。
普通なら、それで終わる。
けれど鬱は、にこりと笑った。
「ゾムな。覚えたわ」
その一言が、妙にまっすぐだった。
休み時間。
周囲は距離を取っている。
鬱だけが、普通に話しかける。
「腹減らへん?」
「は?」
「俺めっちゃ減ってんねんけど」
そう言って、購買で買ったパンを机に広げる。
「食う?」
差し出される。
ゾムは目を細める。
「俺、大食いやけど」
「ええやん。いっぱい食うやつ好きやで」
軽い調子。
ゾムはパンを受け取った。
一口。
二口。
あっという間に消える。
鬱が目を丸くする。
「はや」
それでも引かない。
むしろ楽しそうに笑う。
「もっといる?」
次々に差し出される。
ゾムは無言で食べる。
視線を感じる。
怖がる目じゃない。
面白がる目でもない。
純粋に、嬉しそうな目。
「そんな腹減ってたん?」
「別に」
口の端についたパンを、鬱が指で拭った。
教室がざわつく。
ゾムの動きが止まる。
「ついてたで」
自然すぎる仕草。
心臓が、どくりと鳴る。
こんな風に触れられたこと、なかった。
怖がられることはあっても。
その日から、鬱は毎日話しかけた。
挨拶も。
どうでもいい雑談も。
「ゾムって運動できるやろ」
「なんでや」
「なんとなく」
放課後。
校庭でボールを投げてみろと言われ、適当に投げた。
遠くまで飛ぶ。
鬱が口笛を吹く。
「やっぱな」
嬉しそうに笑う。
その笑顔が、胸の奥をじんわり温める。
怖がられない。
避けられない。
普通に話しかけられる。
それだけで。
ゾムは気づかないうちに、鬱の姿を探していた。
昼休み。
廊下。
放課後。
目が合うと、鬱は必ず手を振る。
「ゾムー」
その呼び方が、やけに甘い。
ある日。
「なあ、放課後暇?」
「別に」
「ほな、付き合ってや」
校舎裏。
鬱がタバコを取り出しかける。
ゾムの目が鋭くなる。
「吸うん?」
「あー……」
一瞬迷う。
「嫌いなん?」
「嫌い」
即答。
鬱は数秒黙って、ポケットに戻した。
「ほなやめとくわ」
あっさり。
ゾムは目を見開く。
「……ええん?」
「別に今すぐ吸わな死ぬわけちゃうし」
肩をすくめる。
その何気ない優しさが、痛いほど嬉しい。
自分だけに向けられている気がして。
胸が、苦しくなる。
でも。
鬱の目は、あくまで穏やかだ。
そこにあるのは、友情。
ただそれだけ。
ゾムはまだ、その違いを知らない。
鬱が隣にいるのが、当たり前になった。
朝、教室に入ると最初に視界に入る背中。
休み時間になれば、自然とこちらを向く顔。
「おはよ」
軽い調子。
「……おはよ」
最初は返さなかった挨拶も、今は返している。
それだけで、鬱は少し嬉しそうに笑う。
昼休み。
「今日も食うやろ?」
机に並べられるパンと弁当。
「多ない?」
「ゾム用や」
悪びれもなく言う。
周りが距離を取る中、鬱だけは堂々と隣に座る。
ゾムはいつも通り一気に食べる。
鬱は頬杖をつきながら見ている。
「そんな見るなや」
「食いっぷりええなぁ思て」
目が細められる。
その視線に、胸の奥がざわつく。
苦しそうに食べる顔が好きなはずなのに。
今は、自分が見られているだけで息が詰まる。
「なあ」
「ん?」
「俺とおるん、嫌ちゃう?」
ふと出た言葉。
鬱は瞬きをして、笑った。
「なんでやねん」
即答。
「おもろいし、話してて楽しいし。ええやつやん」
さらっと言う。
それが、どれだけ重いか知らないまま。
放課後。
体育館裏で、他校のやつらに絡まれた。
「お前、調子乗ってるらしいやん」
ゾムは無言で睨む。
相手が一歩引いた、そのとき。
「何してんの?」
背後から声。
鬱だった。
スーツ姿のまま、ポケットに手を突っ込んで立っている。
「ゾム、帰るで」
当たり前のように肩に手を置く。
相手は一瞬迷って、去っていった。
静かになったあと。
「一人で行けた」
ぶっきらぼうに言う。
「知ってる」
鬱はあっさり返す。
「でも、俺が一緒に帰りたかっただけ」
その言い方が、ずるい。
校門を出て並んで歩く。
鬱がポケットからタバコを出しかける。
ゾムがちらりと見る。
「……あ」
目が合う。
鬱は少し考えてから、また戻した。
「我慢や」
「別に吸えばええやろ」
「嫌な顔されるの嫌やし」
軽く笑う。
その言葉が、胸に刺さる。
自分のために我慢している。
それが、どうしようもなく嬉しい。
でも同時に、怖い。
こんなに優しくされる理由は、友情だ。
それ以上じゃない。
ある日。
鬱が女子に囲まれていた。
笑っている。
軽く肩に触れられている。
ゾムの胸が、妙にざわついた。
目を逸らす。
なのに足が止まる。
視線が、勝手に追う。
「ゾムー」
鬱が気づいて手を振る。
女子たちが一斉にこちらを見る。
ゾムは無言で踵を返した。
放課後、屋上。
落ち着かない。
ドアが開く音。
「なんで逃げるん」
鬱が隣に立つ。
「逃げてへん」
「嘘」
沈黙。
鬱が前髪をかき上げる。
「嫉妬?」
軽い声。
でも、目は真面目だった。
「……ちゃう」
本当は、そうだった。
鬱は少し考えてから笑う。
「安心せえや」
「なにを」
「友達やろ」
その一言で、胸がきゅっと縮む。
友達。
そうだ。
それだけ。
それ以上を望んでしまっている自分に、気づく。
帰り道。
鬱が隣で話している。
その声が遠く感じる。
「ゾム?」
「……なんでもない」
好きだと気づいた瞬間、
全部が苦しくなった。
優しさも。
笑顔も。
自分のための我慢も。
全部、友情の範囲。
それでも。
鬱が肩に触れると、心臓が跳ねる。
「また明日な」
いつもの言葉。
ゾムは小さく頷く。
明日も、隣にいる。
好きになってしまったまま。
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学パロなのになんでスーツやねんみたいなのはAIだから許して
さいならー