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───冒険者
それは人に害をなす魔力を持つ生き物、魔物を討伐する。または助けを必要とする人のもとへ駆けつける。あるいは未知なる場所を探索し、調査する。
このようにして届いた依頼を受け、様々な問題を解決する職業のことである。
ここ大きな大陸の中央部に存在するシャルトルーズ王国には、国中の冒険者たちをまとめ上げる『冒険者ギルド』という組織が存在していた。
そんな冒険者ギルドには『冒険者ランク』というF~SSランクに分けられた階級というものが存在しており、これによって各冒険者のレベルに合った適切な依頼を斡旋しているのである。
そんな冒険者ランクの上から2番目に位置するSランクには国内で100人程しかいない。そんなランクに到達した若きパーティが最近、このシャルトルーズ王国の第二の都市『オリブ』に新たに誕生した。
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「Sランク冒険者パーティ『業火の剣』の皆さん、少しお話しよろしいでしょうか」
「…ん?どうかしました?」
冒険者ギルドの受付嬢がとある4人組冒険者パーティに声をかけていた。受付嬢である彼女の面持ちからは何やら深刻そうな雰囲気を醸し出しており、声をかけられた冒険者パーティの面々も思わず真剣な表情になっていた。
「実は先ほど緊急の依頼が入ってきたのですが、内容がドラゴンの討伐という難易度Sランクのものになっていまして。本来、火山地帯にのみ生息しているドラゴンなのですが何故かとある一頭が生息域を離れ近くの街や村を襲っているらしいのです。早急に解決しなければいけない事案なのですが、現在すぐにでもお声掛け出来るSランク以上の冒険者があなた方しかいないのです」
思っていた以上に緊迫した状況を聞かされて思わず息をのむ業火の剣の面々。そんな中、リーダーと思わしき赤髪の両手剣使いの青年が立ち上がった。
「一刻を争うんですよね。僕たちがすぐに向かいます!!」
「ちょっと!?」
突然の発言に長い青紫色の髪をした魔法使いの少女が言葉を挟む。青年のきりっとした表情とは反対に少女は表情を曇らせていた。
「私たちはついこの前Sランクパーティになったばかりなのよ!?そんな、ドラゴンなんて荷が重すぎるわよ!」
「…だからって困っている人を見殺しにするのか?」
「そ、それは…」
どうしても魔法使いの少女にはこの依頼は不安しかなかった。
彼ら『業火の剣』は新進気鋭の冒険者パーティとして一躍有名となり、瞬く間にSランクにまで上り詰めた実力のあるパーティである。しかし彼らはまだ冒険者としては非常に若く、Sランクとはいえ他のSランクパーティと比べればまだまだであった。
そして今回の依頼対象であるドラゴンは熟練のSランク冒険者パーティでようやく倒せるかどうかの強敵である。魔物の中でも最強格の存在に今の彼らが太刀打ちできるとは魔法使いの少女には到底思えないのだった。
「たしかにユリアの言う通り、この依頼は俺たちには危険だ」
「なっ?!ベルガまで…」
すると大盾を背負った茶髪の男が魔法使いの少女ユリアの肩を持った。まさか彼まで反対するとは思っていなかったようで青年は苦虫を嚙み潰した表情をしていた。
「…だがな、俺たちはこれでもSランク冒険者パーティだ。助けを求めている人を無視するわけにもいかないだろう」
「ちょっとベルガ!あなたまで?!」
「だからこういうのはどうだ。俺たちはドラゴンとは戦わない。他の実力のある冒険者が応援に駆けつけてくれるまで被害状況や情報の収集、そして被害にあっている人たちを助けることに専念する。セルト、ユリア、これならどうだ?」
大盾の男ベルガはこのパーティで一番の年上なのだろう。上手く青年セルトと少女ユリアの意見を取りまとめていた。
「まあ、確かにそれなら…」
「うん、私もそれなら問題ないけれど」
「ルナはそれでいいか?」
するとベルガは話し合いに上手く参加できていなかったパーティ最後のメンバーで銀髪ポニーテールの支援魔法師の女性、ルナに尋ねる。彼女は先ほどのまでのセルトとユリアの言い争いに気圧されてなかなか発言できないでいたのだ。
「あっ、うん!私もそれなら問題ないと思う」
「受付さん、そういうことでも大丈夫ですか?」
「ええ、こちらとしてはお願いしている立場ですので大丈夫です。ただ報酬に関してはドラゴンの討伐後に貢献報酬として本来の報酬の一部をお支払いという形になりますが、大丈夫ですか?」
「ええ、もちろんです」
結果的に彼ら『業火の剣』はその依頼の先行部隊という形で参加することとなった。ドラゴンと直接戦わないとはいえ、何が起こるか分からない危険な依頼のためしっかりと準備を念入りにするために翌朝の出発ということになった。
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「な、なんだよこれ…」
オリブを馬車で出発し約1週間、業火の剣は依頼書に書かれていた被害を受けた町に到着した。しかしそんな彼らが目にしたのは、町とは言えないほどにまでボロボロに破壊されている光景がだった。
かつて建物であった瓦礫の山や一部マグマ化している地面、そして辺り一面に立ち込める木や肉が焼け焦げたような臭い。まさに地獄絵図であった。
「…と、とりあえず生存者がいないか探すわよ!」
「そ、そうだな!よしっ、ルナとユリアは探知魔法で生存者の反応や魔物の反応を確認してくれ!俺とベルガは生存者を発見出来たら救助に向かう!」
この悲惨な光景に唖然としていた彼らだったがユリアの一声で我に返り、生存者の探索役と救助役に分かれて行動を始めた。
まずはユリアとルナの探知魔法によって周囲km以内にドラゴンはもちろん、魔物がいないことを確認をする。確認でき次第、生存者の小さな魔力反応を頼りに探知魔法で探し始める。
しばらくしてルナとユリアが瓦礫の下から微かな魔力反応をいくつか発見。そしてセルトとベルガが瓦礫を掘り起こし、数人の生存者を救出することに成功した。
その途中で何体かの遺体も同時に発見することになったり、人だったものの残骸など非常に悲惨なものを目にしたりもしたが、彼らは自分たちに出来ることを一生懸命続けていった。
「おそらくここの反応が最後よ!」
「よしっ、踏ん張っていくぞ!!」
救助を開始してからおよそ5時間が経過していた。ようやく町全体の探索が完了し、最後の魔力反応のある場所をユリアが報告してセルトとベルガが一生懸命掘り起こしているところであった。
ルナは初級の回復魔法を使えるので救助した人たちの応急処置を行っており、彼女のおかげで瀕死状態であった人も辛うじて一命を取り留めていた。
あともう少しで救助が完了しようとしていたその時、ユリアが自身の魔力探知に異様な魔力が接近しているのを検知した。
「何これ?!ヤバい魔力反応がすごいスピードでこっちに近づいてきてる!!」
「何だと?!魔物か?!」
「このスピード、それに魔力反応は…まさか、ドラゴン?!」
ユリアの探知魔法は半径約5㎞、同年代の中でもかなりの範囲と精度を誇る探知技術がその存在の異質さを猛烈に感じ取っていた。
そんな彼女の額に冷汗が流れる。
「やばい、あと数十秒ぐらいでここに来る!早く逃げよ!!!」
「でもまだ生存者が…!」
「今は救助できた人の命が優先だ!行くぞ!!!」
ユリアとベルガはセルトを無理矢理連れて急いでその場を離れた。先で治療をしていたルナと合流し、救助できた人たちをセルトとベルガが背負った状態でルナが身体強化や加速魔法といった全力のバフを付与して全力で逃げ出した。
「やばいかも!あいつ、こっちに向かって来てる!!」
どんなに全力のバフを受けて全速力で走ったとしてもあの魔力反応は徐々に彼らとの距離を縮め続けていた。そしてついには彼らの位置からでも目視できる位置まで接近してきていたのだ。
「あ、あれは…!やはりドラゴンか!!」
強固な鱗に覆われた巨体にそれを支える太い足に大きな二つの翼を持つ最上位の魔物。これだけ離れた距離なのにすでにセルトやベルガにもあの異質で膨大な魔力が感じ取れていた。
「このままじゃ追い付かれる!!!」
「…っ」
全速力で走っていた彼だったが途中でセルトが走るのを止め、運んでいた救助者を置いてドラゴンの方へと剣を構えた。それに気づいた他のパーティメンバーが少し進んだところで急停止してセルトの方を振り返る。
「何してるの!!!早く逃げないと!!!」
「お前らだけでも早く逃げろ!!ここは俺が食い止める…!!」
彼女たちはセルトが言っている理解が全くできなかった。いや、理解したくなかったのだ。
「このままじゃ追い付かれて全滅だ!だからお前たちだけでも逃げろ!!!」
「そんなことできるわけないじゃん!早く逃げるわよ!!!」
「そうだよ!みんなで逃げれば何とかなるかもだよ!!!」
ユリアやルナが必死に呼びかけるがそれでも覚悟が決まったような表情でこちらを睨みつけるだけのセルト。そのとき、彼女たちの隣にいたベルガが同じように地面に救助者を置いてセルトの隣に立った。
「お前ひとりじゃ時間稼ぎにならないからな。俺も一緒させてもらう」
「ベルガ、お前…」
ベルガの予想外の行動にルナとユリアは唖然とし、セルトは何だか嬉しそうに微笑んでいた。
「ユリア!ルナ!早く行け!!!お前たちが救助した人を無事に送り届けろ!!!」
「セルト、ベルガ….」
彼らの後ろ姿から決死の覚悟が伝わってきたのかユリアもルナも自然と目から涙が溢れかえっていた。
彼らの決意は揺らがない。
「ぜ、絶対生き残りなさいよ!!!死んだら許さないんだから!!!!!」
「待ってるから!!絶対、待ってるから!!!」
そうして涙を振り払ってユリアとルナは救助者たちをルナの身体強化と軽量化する魔法を付与することで全員を担いで走り出した。彼女たちはその間一度も振り返ることはなかった。
「さあベルガ、ドラゴンとの初戦闘だが…俺たちだけで倒せると思うか?」
「まあ、ルナたちの魔法があってもほぼ勝てないだろうな。せめてあいつらが逃げ切るだけの時間だけは稼ごう」
「…そうだな」
そうして彼女たちの走り去った後、しばらくして後方で大きな爆発が発生した。大きな音が連続して発生した直後、その場は一気に静まり返った。
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「はぁ、はぁ、はぁ…」
ユリアとルナは救助者たちを担ぎながら全力で森の中を走っていた。彼女たちの体力はもうすでに限界を迎えていたが、生き残るために無我夢中で前へ前へと足を進めていた。
足の感覚も薄れ、少しでも気を抜けば足が絡まって転びもう二度と立ち上がれないだろうというほどにまで二人とも消耗しきっていた。
「る、ルナ!はぁ、はぁ、い、生き残るわよ!!!」
「う、うんっ!はぁ、はぁ、も、もちろん!!!」
互いに鼓舞し合い、絶対に生き残ってまた四人で合流するんだと彼女たちは心に強く誓っていたその時、背後から物凄い轟音がこちらへと迫ってきているのが二人の耳に入ってくる。
すぐに魔力探知で状況を確認したユリアはすぐに大声を張り上げた。
「ルナ反対に避けて!!!!!!」
その言葉が響いた直後、二人の背後から特大の火球が襲い掛かて来た。二人は何とか間一髪で左右に飛び込む形で火球から回避することが出来た。
火球はそのまま彼女たちの進行方向だった方角へと通り過ぎていき、遠くの山の斜面に激突して大爆発を起こしていた。その激しい爆風と熱波が彼女たちがいるところまで到達し、辺りの木々を軽々と吹き飛ばしていた。
「ルナ、大丈夫?!」
「うん、大丈夫…!」
互いの安否を確認し、とりあえず安心するが彼女たちの状況は最悪なものだった。火球が飛んできた方向へと視線を向けるとそこには先ほどセルトとベルガが足止めしていたはずのドラゴンの姿があったのだ。
「まさか…二人とも…嘘よね…」
ユリアはドラゴンを見て最悪の状況が頭をよぎり、顔から血の気が引いて絶望に陥っていた。それに彼女は先ほどまで限界を超えて走っていたこともあり、すでに足にも力が入らず全く動けずにいた。
「グルルルルゥゥゥ……」
彼女たちの元へと辿り着いたドラゴンはゆっくりと近づきながらユリアの方へと顔を向ける。まるで獲物を吟味しているかのようにじっくりと観察していたドラゴンは次の瞬間、口を大きく開いた。
「だめえええぇぇぇ!!!!!!!!!」
ルナはドラゴンが何をしようとしているかすぐに察し、急いでユリアのもとへと駆けつける。彼女もユリアと同じですでに足には力が入らず、とうに限界は来ているはずだがそれでも彼女は必死に仲間の元へと辿り着いた。
「魔法障壁、多重展開!!!!!」
僅かに残っていた魔力を振り絞ってユリアと自身の前方に魔法障壁を複数発動させる。そしてその直後、ドラゴンは大きく開けた口から新たに火球を彼女たちの方へと放ってきた。
その火球はルナの展開した魔法障壁に激突し、すぐさま数枚の魔法障壁を難なく破壊する。しかし破壊された直後にすぐさま新たに魔法障壁を追加し、何とか火球を食い止めようとする。
「ルナあああぁぁぁ!!!」
何とか我に返ったユリアはルナと共に魔法障壁をさらに何重にも展開させた。しかし目の前の火球は勢いが収まらず展開するたびに魔法障壁を割って彼女たちへと迫って来る。
「「はあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」」
二人ともすでに魔力は枯渇寸前にまで陥っているにもかかわらず、気力を尽くして魔法障壁を展開し続ける。時間にしてほんの数秒の攻防であったのに彼女たちにとっては数十分、数時間にも感じられるほどであった。
そしてあと1mほどにまで火球が迫ってきたその時、魔法障壁の防御力と火球の威力が拮抗して火球の勢いが行き場を失って爆発を発生させた。
「「きゃあああああぁぁぁぁ!!!!」」
その爆風で彼女たちは大きく吹き飛ばされていき、ルナは地面に強く叩きつけられ、ユリアは大きな木の幹にぶつかってしまった。
「うっ…」
「……」
ルナは全身に強烈な痛みを感じながらも辛うじて意識は保っていた。しかし彼女の少し前で倒れていたユリアは頭を強く打ったのか、彼女の意識はすでになかった。
「ユ、リア…ちゃん!返事を、して…!」
「……」
全く返事を返さないユリアにルナの頭の中には死という言葉が浮かんでいた。だが、ユリアからは本当に微かながら魔力が感じられたのでルナは安堵した。
しかしそんな彼女たちにドスンッ、ドスンッとドラゴンの足音が無情にも迫ってきていた。
もうすでに使える魔力もない、体も骨が折れているのか強烈な痛みで動かすことが出来ないルナにはどうすることも出来なかった。
「グルルアアアァァァァ!!!!!」
(…ああ、もう駄目なんだ)
そう死を覚悟して目を閉じた次の瞬間、物凄い轟音とともにドラゴンのうめき声が辺り一帯に響き割った。
何が起こったのか分からず恐る恐るルナは目を開けてみると、彼女の目の前には見知らぬ人影と倒れているドラゴンの姿がそこにあった。