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天気予報では、午前中から夕方にかけて大雨」と出てたはずだった。でも、講義が終わって駅に着く頃になっても空は薄曇りのままで、結局折り畳み傘はずっとバッグの底に入れっぱなしだった。
「……傘、いらなかったな」
独り言のつもりだったのに、すぐ隣を歩いてたうりが「それな」って笑った。
「オレなんてわざわざ新しいやつ持ってきたのに。袋すら濡れてないっていうね」
帰りの駅のコンビニで買い物をしているとうりがちょうど入ってきて、一緒に帰ることになった、うりは珍しく一人で買い物に出掛けていたらしい。
「うり、あれも買った?」
「どれ」
「のあさんに頼まれてたアーモンドミルクのラテのやつ」
「あー、それはシェアハウスの近くの買い出し班に任せた」
「任せた、って」
「なんか“私の分は特別に冷えてるやつがいい”とか言い出して、家から近い方が冷えてる状態で帰れるだろうし」
「たしかにね、…」
うっすら笑ったえとは、ふと空を見上げた。雲は広がったまま、でも降りそうな気配は相変わらずなかった。今日は昼過ぎまで大学でのグループ課題だけだったし、これからは各自自由時間だ。夕飯はまだ先。みんなの買い出しは順番制になっていて、今週は男子組が担当らしい。
だから、えとは久しぶりに一人でちょっとだけ外を歩こうと思っていた。
……そう思ってた。
「えとさん、まっすぐ帰る?」
「……ちょっとだけ寄り道しようかなって」
「そっか。じゃあ気をつけて」
「うん、ありがと」
自然に別れたはずだった。でも、その時ふと、うりの足が止まったのに気づいた。なに?と振り返ると、彼は少し困った顔で笑った。
「ごめん、やっぱオレもついていっていい?なんとなく、そんな気分」
「え?……変なの」
「変じゃない。気まぐれ」
えとは笑った。よく分からないけど、ちょっと嬉しかった。
⸻
近所にある、少し開けた公園のベンチに座った。目の前には夏に子どもたちが水遊びするような浅い噴水広場がある。今は水が抜かれていて、少し殺風景だ。
買ってきた飲み物を開けながら、うりが隣で鼻を鳴らした。
「この感じ、なんか久しぶりだな」
「なにが?」
「こうやって並んで座って、なんも話さないやつ」
「話してるじゃん」
「……そうだった」
二人で笑う。ゆるくて、なんでもない会話。でも、こういう時間の積み重ねが、関係を作るのかもしれないとえとは思っていた。
その時だった。少し離れた遊歩道に、何かを大声で叫んでいる人影が見えた。酒に酔っているのか、まっすぐ歩けていない。何を言っているかまでは聞き取れなかったが、手を大きく振り回して、興奮しているのが分かる。
「……あの人、さっきからずっといる」
えとがそう呟くと、うりは少し姿勢を正した。
「えとさん、そろそろ帰ろうか」
変絡まれても面倒だ。なにげに駅から歩いてくるのに時間がかかり、夕飯の時間も近ずいてきた。
「うん、そうだね……」
ベンチから立ち上がろうとしたときだった。男の目がこちらに向いた。二人に気づいたのか、ゆっくり、でも確実に近づいてくる。
「うり……」
「大丈夫。後ろいて。」
えとの手を取って、うりが小さく言った。普段ふざけてばかりの彼が真面目な顔をしてると、少し安心する。
公園を出て、シェアハウスへ向かおうとしたそのとき。
「ねぇ、君たちさぁ」
酔った声。さっきの男だった。後ろから足音を立てて近づいてくる。
「ちょっとだけでいいからさ、話そ? さみしいんだよぉ、今日は」
うりがえとの肩をかばうようにして立ちはだかる。
「すみません、帰るんで」
「えー? そこの子、かわいいじゃん。なぁ、一緒に――」
「触んな」
低く、明確な声だった。うりの言葉に男が一瞬止まる。だが、次の瞬間――
「なーんだよ、若いくせにカッコつけちゃってさぁ!」
男が大きくうりに手を振りかざしかけた
その時遠くから名前を呼ぶ声がした、
「うりー!えとさーーん!!!」
この声は、じゃっぴ、とたっつんか
人が来て流石にまずいと思ったのか、静かに逃げていった。
「うり、えとさん!なにしてんのー?」
「さっきのおじさん、誰?」
「酔っ払いおじさんに絡まれてた」
なるほどね、と顔を見合わせるじゃぱぱとたっつん
「いやーさ、うりがえとさんの手掴んでたから、何事かと…」
「んな変なことしてないわ」
「最近治安悪くない?」
「ほんとそれ。オレも明日から筋トレしようかな」
「えとさんのため?」
「違うし」
じゃぱぱが笑ったあと、急にざーっと音を立てて大雨が降り出した
袋を見るとラテが入っていた、のあさんのを買いに出ていたのだろう。
じゃぱぱとたっつんは傘を持ってきていることもなく、えとの小さな折り畳み傘と、うりの傘で4人つめつめでシェアハウスまで向かう。
「えとさんちっちゃいから、おれが持つよ」
「ありがとう、だけど一言余計です!!」
そこでひと笑い起きて、 少し沈黙が続いた
「のあさんのラテ、冷えてないかもだけど……まあ、いいか」
「それは、あとで怒られて」
みんなで笑う。雨の音がザーザー鳴る中、傘の中で笑い声が響いた。
⸻
シェアハウスの玄関を開け、みんながいるであろうリビングへ向かうと
「あ!帰ってきた!おかえりーって」
「え、ちょ!4人ともびしょびしょじゃん!!傘は!!?」
「ふたつしかなくて、笑」
「えとさん!さきお風呂いきな!」
「そうする、ありがとう」
そこで思い出したようにのあさんが声を出した
「ラテは!!!」
「……ちょっとぬるい」
「ありえない…!!!!」
またみんなで笑う。
こういうのも、いいな、えとは心の中でそう思った。