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#大正
奏楽雅
331
#勘違い
かませ犬S
455
#男主人公
パラレル・ゲーマー
173
にとり
1
少女を助けた次の日の夜。
バドは、黒崎蓮に呼ばれた。
和風家屋の奥まった一室。
畳の匂いが漂うその部屋は、不気味なほど静まり返っていた。
正座するバドの前に、一人の男がゆっくりと腰を下ろす。
黒崎蓮。
バドを拾って育てた、バドの先生である。
彼は穏やかな笑みを浮かべていた。
だが、瞳だけは違う。
底の見えない闇が、静かに揺れていた。
「……聞いたで」
柔らかな声が響く。
「お前、目撃者を見逃したんやて?」
バドは何も答えなかった。
ただ唇を固く結び、視線を落とす。
すると黒崎は小さく笑い、指先でバドの顎を持ち上げた。
バドは、無理やり目を合わせられる。
「感情は弱さや」
静かな声。
「感情を持つな」
その言葉と同時に、黒崎はくわえていた煙草をバドの腕へ押し付けた。
ジュ……っ。
熱が走る。
焦げたような苦い匂いが、バドの鼻をついた。
だがバドは眉一つ動かさない。
黒崎は満足そうに目を細めた。
「お前は道を誤った」
「だが、……俺もお前を信用しすぎてたみたいやな」
「もっと監視しとくべきやった」
そして軽く肩をすくめる。
「こんなお説教だけじゃ、身に染みんやろ?」
黒崎は部屋の奥にある襖を指先で叩いた。
しばらくして。
襖がゆっくり開く。
現れた人物を見て、バドの目が大きく見開かれた。
「……っ!」
以前、共に任務に就いていた仲間だった。
やつれた顔。
ふらつく足取り。
今にも倒れそうな姿。
(生きていたのか……?)
胸の奥がざわつく。
(死んだと聞いていたはずなのに……)
困惑するバドを見て、黒崎は愉快そうに笑った。
「よかったな」
「そいつ、生きとるで」
一拍置いて、続ける。
「まあ、もう長くはないやろうけどな」
黒崎は懐から拳銃を取り出し、バドへ差し出した。
無理やり握らされた冷たい金属の感触。
「今から俺は、そいつを始末する」
淡々とした口調だった。
まるで天気の話でもするように。
「どうせもう助からん」
「別に構わへんやろ?」
バドの手が震える。
その様子を見ながら、黒崎はさらに言った。
「――嫌やったら」
「その銃で俺を撃て」
空気が凍り付く。
バドの手の中にある拳銃が、異様に重く感じた。
仲間が顔を上げる。
青白い顔。
やつれた頬。
「……バド……」
掠れた声だった。
バドの肩が震える。
「生きて……たのか……」
思わず漏れた声に、仲間は弱々しく笑った。
「ああ……まあな……」
その笑顔は、見ているだけで胸が苦しくなるほど痛々しかった。
黒崎は面白そうに二人を眺めている。
まるで劇場の観客のように。
「感動の再会やなぁ」
「ほらバド、早う決めろや」
バドは拳銃を構えた。
銃口の先には黒崎。
育ての親ともいえる存在だ。
誰よりも恐ろしく。
誰よりも尊敬してきた男。
(撃て)
頭の中で声が響く。
(撃たなきゃ)
仲間を助けられない。
分かっている。
そんなことは分かっている。
それでも――。
指が動かない。
(なんでだ……!)
額から汗が流れる。
呼吸が乱れる。
引き金にかけた指が震える。
黒崎は笑っていた。
まるで最初から分かっていたかのように。
「どうした?」
「撃たへんのか?」
その声が、さらに迷いを大きくする。
(撃て……!)
(早く……!)
だが、照準が定まらない。
もし撃ったとしても当たる保証はない。
外せば終わりだ。
いや――。
本当にそれだけだろうか。
違う。
バドは気付いてしまう。
自分が撃てない理由に。
(俺は……)
(先生を撃ちたくない……)
その事実を認めた瞬間。
胸の奥が凍り付いた。
仲間が苦しそうに息を吐く。
そして、小さく呟いた。
「……気にすんな」
「え……?」
「お前は……悪くねぇよ……」
弱々しい声。
それでも責める気配は一切なかった。
「僕は……組織を裏切ったんだ……」
「…だから…な?」
仲間は笑う。
泣きたくなるほど優しい笑顔だった。
その瞬間。
バドの迷いは最大になった。
撃つのか。
撃たないのか。
助けるのか。
見捨てるのか。
答えは出ない。
ほんの一瞬。
バドが目を瞑った時だった。
グサッ……。
「ほらな」
黒崎は、バドの仲間の胸を刺した。
黒崎は嬉しそうに笑った。
次の瞬間。
仲間の体が崩れ落ちる。
静寂が戻る。
黒崎は何事もなかったかのように息を吐いた。
そして、バドへ視線を向ける。
「お前のせいやで」
優しい声だった。
だからこそ、余計に恐ろしい。
「お前の大事な仲間がこうなったんは」
「お前が、すぐ俺を撃たんかったからや」
バドは何も言えない。
黒崎はしばらく彼を見つめたあと、小さく笑った。
「まあ」
「お前に俺を殺すことなんか、できひんやろうけどな」
そう言って立ち上がる。
去り際、黒崎はバドの肩にそっと手を置いた。
まるで励ますように。
まるで教師が生徒を導くように。
「守りたいなら、まず奪えるようになれ」
「奪えへん奴に、守る資格なんてあらへん」
静かな声が部屋に響く。
そして最後に。
「次はないで」
襖が閉まる。
部屋には再び静寂だけが残った。
バドはその場から動けない。
拳銃を握ったまま。
「くそ…」
バドは、動かない仲間をただひたすら見ていた。
バドが高校へ入学するのは、この六年後のことである。それは黒崎蓮が下した、一つの命令だった。
普通の生活。
普通の友人。
普通の青春。
光の中で生きる人間たちを、その目で見ろ。
その温かさを知れ。
その上で尚――。
闇を選べるか。
血に染まった道を歩み続けられるか。
それが黒崎の試験だった。
もし乗り越えられたなら。
バドは初めて、黒崎に認められる。
もっとも――。
当の本人は、その真意を知らない。
高校での生活が、試験台にされていることを。
光か。
闇か。
その答えを出す日まで、運命は静かに時を待つ。
華×乃愛【アナログイラスト】
コメント
3件
みぅです🥀読んできたよ、第11話。 黒崎蓮、めっちゃ怖い……。優しい口調の裏にある狂気がたまらない。バドに銃を撃たせようとしたり、最後に仲間を刺すところ、本当にゾッとした。「お前のせいやで」って言うセリフ、心に刺さる……。 それでもバドが先生を撃てなかった理由が「撃ちたくないから」って気づくところ、切なすぎて泣きそうになったよ。守るために奪う覚悟、重い……。 六年後の高校編が楽しみでもあり、怖くもある。次も絶対読むね🤍