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#学園
なつぱ
982
#日常
ももは
551
#主人公最強
足将軍
1,306
少女を助けた次の日の夜。
バドは、黒崎蓮に呼ばれた。
和風家屋の奥まった一室。
畳の匂いが漂うその部屋は、不気味なほど静まり返っていた。
正座するバドの前に、一人の男がゆっくりと腰を下ろす。
黒崎蓮。
バドを拾って育てた、バドの先生である。
彼は穏やかな笑みを浮かべていた。
だが、瞳だけは違う。
底の見えない闇が、静かに揺れていた。
「……聞いたで」
柔らかな声が響く。
「お前、目撃者を見逃したんやて?」
バドは何も答えなかった。
ただ唇を固く結び、視線を落とす。
すると黒崎は小さく笑い、指先でバドの顎を持ち上げた。
バドは、無理やり目を合わせられる。
「感情は弱さや」
静かな声。
「感情を持つな」
その言葉と同時に、黒崎はくわえていた煙草をバドの腕へ押し付けた。
ジュ……っ。
熱が走る。
焦げたような苦い匂いが、バドの鼻をついた。
だがバドは眉一つ動かさない。
黒崎は満足そうに目を細めた。
「お前は道を誤った」
「だが、……俺もお前を信用しすぎてたみたいやな」
「もっと監視しとくべきやった」
そして軽く肩をすくめる。
「こんなお説教だけじゃ、身に染みんやろ?」
黒崎は部屋の奥にある襖を指先で叩いた。
しばらくして。
襖がゆっくり開く。
現れた人物を見て、バドの目が大きく見開かれた。
「……っ!」
以前、共に任務に就いていた仲間だった。
やつれた顔。
ふらつく足取り。
今にも倒れそうな姿。
(生きていたのか……?)
胸の奥がざわつく。
(死んだと聞いていたはずなのに……)
困惑するバドを見て、黒崎は愉快そうに笑った。
「よかったな」
「そいつ、生きとるで」
一拍置いて、続ける。
「まあ、もう長くはないやろうけどな」
黒崎は懐から拳銃を取り出し、バドへ差し出した。
無理やり握らされた冷たい金属の感触。
「今から俺は、そいつを始末する」
淡々とした口調だった。
まるで天気の話でもするように。
「どうせもう助からん」
「別に構わへんやろ?」
バドの手が震える。
その様子を見ながら、黒崎はさらに言った。
「――嫌やったら」
「その銃で俺を撃て」
空気が凍り付く。
バドの手の中にある拳銃が、異様に重く感じた。
仲間が顔を上げる。
青白い顔。
やつれた頬。
「……バド……」
掠れた声だった。
バドの肩が震える。
「生きて……たのか……」
思わず漏れた声に、仲間は弱々しく笑った。
「ああ……まあな……」
その笑顔は、見ているだけで胸が苦しくなるほど痛々しかった。
黒崎は面白そうに二人を眺めている。
まるで劇場の観客のように。
「感動の再会やなぁ」
「ほらバド、早う決めろや」
バドは拳銃を構えた。
銃口の先には黒崎。
育ての親ともいえる存在だ。
誰よりも恐ろしく。
誰よりも尊敬してきた男。
(撃て)
頭の中で声が響く。
(撃たなきゃ)
仲間を助けられない。
分かっている。
そんなことは分かっている。
それでも――。
指が動かない。
(なんでだ……!)
額から汗が流れる。
呼吸が乱れる。
引き金にかけた指が震える。
黒崎は笑っていた。
まるで最初から分かっていたかのように。
「どうした?」
「撃たへんのか?」
その声が、さらに迷いを大きくする。
(撃て……!)
(早く……!)
だが、照準が定まらない。
もし撃ったとしても当たる保証はない。
外せば終わりだ。
いや――。
本当にそれだけだろうか。
違う。
バドは気付いてしまう。
自分が撃てない理由に。
(俺は……)
(先生を撃ちたくない……)
その事実を認めた瞬間。
胸の奥が凍り付いた。
仲間が苦しそうに息を吐く。
そして、小さく呟いた。
「……気にすんな」
「え……?」
「お前は……悪くねぇよ……」
弱々しい声。
それでも責める気配は一切なかった。
「僕は……組織を裏切ったんだ……」
「…だから…な?」
仲間は笑う。
泣きたくなるほど優しい笑顔だった。
その瞬間。
バドの迷いは最大になった。
撃つのか。
撃たないのか。
助けるのか。
見捨てるのか。
答えは出ない。
ほんの一瞬。
バドが目を瞑った時だった。
グサッ……。
「ほらな」
黒崎は、バドの仲間の胸を刺した。
黒崎は嬉しそうに笑った。
次の瞬間。
仲間の体が崩れ落ちる。
静寂が戻る。
黒崎は何事もなかったかのように息を吐いた。
そして、バドへ視線を向ける。
「お前のせいやで」
優しい声だった。
だからこそ、余計に恐ろしい。
「お前の大事な仲間がこうなったんは」
「お前が、すぐ俺を撃たんかったからや」
バドは何も言えない。
黒崎はしばらく彼を見つめたあと、小さく笑った。
「まあ」
「お前に俺を殺すことなんか、できひんやろうけどな」
そう言って立ち上がる。
去り際、黒崎はバドの肩にそっと手を置いた。
まるで励ますように。
まるで教師が生徒を導くように。
「守りたいなら、まず奪えるようになれ」
「奪えへん奴に、守る資格なんてあらへん」
静かな声が部屋に響く。
そして最後に。
「次はないで」
襖が閉まる。
部屋には再び静寂だけが残った。
バドはその場から動けない。
拳銃を握ったまま。
「くそ…」
バドは、動かない仲間をただひたすら見ていた。
バドが高校へ入学するのは、この六年後のことである。それは黒崎蓮が下した、一つの命令だった。
普通の生活。
普通の友人。
普通の青春。
光の中で生きる人間たちを、その目で見ろ。
その温かさを知れ。
その上で尚――。
闇を選べるか。
血に染まった道を歩み続けられるか。
それが黒崎の試験だった。
もし乗り越えられたなら。
バドは初めて、黒崎に認められる。
もっとも――。
当の本人は、その真意を知らない。
高校での生活が、試験台にされていることを。
光か。
闇か。
その答えを出す日まで、運命は静かに時を待つ。
コメント
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みぅです🥀読んできたよ、第11話。 黒崎蓮、めっちゃ怖い……。優しい口調の裏にある狂気がたまらない。バドに銃を撃たせようとしたり、最後に仲間を刺すところ、本当にゾッとした。「お前のせいやで」って言うセリフ、心に刺さる……。 それでもバドが先生を撃てなかった理由が「撃ちたくないから」って気づくところ、切なすぎて泣きそうになったよ。守るために奪う覚悟、重い……。 六年後の高校編が楽しみでもあり、怖くもある。次も絶対読むね🤍