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「……くぁは〜……ねみぃ〜……」
午前3時。
事務作業をやっとの事で終え、大きなあくびをしながらデスクから離れる。
今日は珍しく1人で、少し広すぎるこの家をまじまじと眺めた。
いつもならぐち逸は日付を過ぎたあたりに返ってくるはずなのだが、今日に関しては忙しくて帰りが遅くなってしまうらしい
一瞬面倒ごとに巻き込まれているのかと思い慌ててメッセージを送ったが、「事務作業に誘拐されそうになってるので助けてください」と冗談混じりの答えが返ってきたので問題は無いと思って気にせずソファに横になる。
本当はぐち逸が帰って来るまで起きていようと思っていたのだが、あいにく自分もギャングのボスなのだ。
組織をまとめるうちの1人としてやる事があり、明日の朝も早い
それに明日は他ギャングとの接触もあるだろうし、寝不足な状態で向かうことは避けたかった。
そうして大きなあくびをして目を閉じれば、案外あっさりと眠りについた
ふにふに。
右手を何かに触られる感触がして目が覚める。
パチリと目を開けて手元を伺うと、いつの間に帰ってきたのだろうか。ぐち逸がソファを背もたれにして床にちょこんと座っていた。
いつもと変わらないスンとした表情だったが、目元にはクマができていて身体も少し細くなっているような気がする。
相変わらず表情筋を硬くしてふにふにと俺の手を押したりぎゅ、と握ったり。よく分からなかったので、しばらく観察してから口を開く
「ぐち逸」
ピク、と少しだけ肩を跳ねさせて俺の方を見ると、「起こすつもりはなかったんです」だなんてゴニョゴニョ言いながら手を離してしまった。
「ん、おかえり」
「…ただいま、です」
少し名残惜しそうに俺の手を見つめたままで、視線に気づいて手を出してやるとまたぎゅっと握られた
「どしたの」
「なんでも」
よっこいしょと体を起こして座り、もう片方の手をぐち逸の細くて小さくて冷たい手に被せてやると、彼の表情が少しだけ柔らかくなる
「……撫でて、ください」
「いいよ」
彼の固められた髪が崩れることを気にせずに撫でると、猫のように目を細めて気持ち良さそうにしていた
「今日は甘えたなの?」
「……どうでしょう」
「甘えんぼさん」
ん、と手を広げると、離れていった手と俺の顔を交互に見つめて、本当にいいのかとオロオロし始める。
「おいで」
手をさらに広げてやると、少し戸惑いながらもきゅ、と足の間に座って首の後ろに腕を回した
すんすんと時々匂いを嗅がれるからくすぐったい。彼の柔らかい匂いと、少しのタバコの匂い。
それが相まって、抱きつかれる側もとっても居心地が良かった
「…どしたの」
いつもはこんなことしないくせに。とは言わずに、何があったのかを彼に優しく問いかける。
「嫌なことでもあった?」
「別に、普通です」
「嘘。なんかあったでしょ」
「疲れてるだけです」
「疲れてたらお前すぐベット行くやん。睡眠が大事だからとかどうたらこうたら言って」
「…気分です」
「………だからどしたのって」
さっきから一言でしか返事をしないぐち逸にさらに違和感を覚えて問い詰めると、きゅ、と抱きつく力が強くなって首元に頭が埋められた。
何も言わずにただ髪を解くように撫でていると、はふはふと吐息がかかって来る。
次第に肩にじんわりと温かい涙が落ちて来るのを感じて、すぐにこいつは泣いてるんだとわかった
「……えだ、さ、」
「ん、なぁに」
「……、…えだぁさ、…っ」
「はいはい、大丈夫大丈夫」
ぽんぽんと頭に手を置いて慰めれば、すりすり首元に擦り寄られる
彼のさらさらした髪の毛が頬を撫でてきて少しくすぐったい
「、……一緒、いてくれますか、」
「うん、いるよ」
「……離れないでくださぃ」
「離れないよ、大丈夫。」
きゅ、と抱きつく力を強くされたので俺も抱き返してやれば、満足したのか体が離れていく。
相変わらず濡れてしまっている瞳を拭い、気持ちよさそうに目を細めて甘えていた
「甘えたさんだね」
「……」
頬を撫でながら彼の濁っているのか透き通っているのかわからない瞳をじぃっと見つめると、一瞬目線を泳がせたものの、そうだと言わんばかりに見つめ返してきた。
「……一緒にいてくださいよ」
「はいはい(笑)言われなくても居ますよぉ」
その言葉に安心したのか、先ほどから撫でていた手に擦り寄ってきてウトウトし始める。
彼がこうなってしまった理由は明日聞けばいい。
俺たちにはまだまだ沢山愛し合う時間があるのだから。
「一緒に寝よ」
そう言った頃には彼はもう寝落ちていて、俺の服をきゅ、と掴んで気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「全くお前は……笑」
時々、甘えるくらいで良い。
そんな猫のような彼を大事に大事に抱き留めてやっと分かるその温もりは、やけに安心するものだった。
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