テラーノベル
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訝(いぶか)しげに首を傾げるナッキとメダカの群れに対して、モロコのカーサは言うのであった。
「なあ、『メダカの王様』とメダカ達よぉ、俺たちモロコを助けてくれないか? 同じ魚類のよしみで力を貸してくれよぉ! な? 一緒に戦って上の池を開放して欲しいんだっ! こ、この通り、頼むっ!」
何やら穏やかならぬ様子である。
更に訝しさを増すメダカ達を代表するように、ナッキが神妙な面持ちでモロコのカーサに問う。
「それって君たちモロコが、誰かと戦っているって事だよね? 一体誰と戦っていると言うんだい?」
カーサは粗雑だった態度を一掃させて低い声で答えた。
「陸上から死を齎す怪物、悪魔だよ……」
『っ!』
「あ、悪魔?」
その単語を聞いた瞬間、ナッキの脳裏に浮かんだのは、ミミズを食べたあの日の授業後、教師役の鮒から聞かされた恐怖の存在、『ニンゲン』、まだ見ぬその巨大な姿であった。
深刻そうな話だと判断したナッキと年長のメダカ達の判断によって、モロコの危機に際して救援の依頼を届けに来たカーサを築地、メダカ城に招いて詳しい話を聞いていたのであった。
ナッキは言う。
「なーんだっ、『ニンゲン』じゃないんだねぇー、んもうっ、絶望しかけっちゃったじゃないかぁー! 陸にいる事も有るけど、同じ水生生物、言葉だって通じるんでしょー? だったら、正真正銘、血も涙もない生粋の怪物、恐怖と死を|弄《おもてあそ》ぶ悪魔の如き存在、『ニンゲン』とは全然違うじゃないかぁ! んもうっ、全くぅっ!」
カーサは心外そうな顔と声で言う。
「だ、だけどっ! あいつ等だって十分悪魔なんだよぉっ! こうしている間にも無辜(むこ)のモロコが…… まだ孵化もしていない、小さな命たち…… 我々の卵達が、その命を奴等の暴挙によって散らされているかもしれないんだよぉ! なあ、頼むよぉ、俺たちモロコに力を貸してくれよ! 『メダカの王様』ナッキ様、メダカ達ぃ!」
『王様?』
メダカ達に促されたナッキも神妙な顔つきで即座に答える。
「うん、判ってる…… 最凶最悪な『ニンゲン』の仕業ではなかったけれどね、これから孵化する子供たちを襲って食べてしまうなんて…… 見逃す訳には行かないよっ! 助けに行かなくっちゃね、それか戦っても勝てそうもないなら、カーサがここに来たみたいにさっ、卵や子供たちも連れてここに避難させるとかね? 何とかしなくちゃイケないでしょぉ? 取り敢えず、皆はこの池で待っていてよ! 僕がカーサを抱いて上の池に飛び上がって行って来るからさっ! 留守ヨロっ! って感じで頼むね♪」
『むむぅ……』
メダカ達は揃ってナッキの身を案じている様だったが、他に方策も思い付かない様で唸り声をあげただけであった。
この姿を容認と取ったナッキは、モロコのカーサに視線を向けて、堂々とした表情で言う。
「んじゃそう言う事で、カーサ、上の池に向かおうよ! 僕だったらこの池と上の池を行き来出来るからさっ! 早く行って君の仲間達、他のモロコさん達の意見も聞いて、今後の方針を決めよう? そうだろう? 僕が君を掴んで飛び上がるからね! さぁ、行こうっ!」
何だろうか?
先程まで必死に支援を求めていた筈のカーサが、急激に温度、熱量を失しながら俯いて黙りこくっていた。
ナッキに掴まれて飛び上がる事がそれほど恐ろしかったのであろうか?
そう感じたナッキが、優しい表情を浮かべながら、カーサの顔を覗きこみながら声を掛ける。
「えっ? 大丈夫だよカーサ、僕って凄くジャンプ力あるんだよね、こう見えて♪ だからさ、心配しなくて良いんだよぉ? ねっ?」
モロコのカーサは、幾度か首を振りつつ、表情に絶望を浮かべながらナッキに答えたのである。
「いや、ナッキ王の能力を疑っている訳じゃないんだけどね…… えっとぉ、あのさぁ…… 上の池に戻った後なんだけどさぁ…… 聞かなきゃ駄目かな? 他のモロコの意見、ってか主張をさぁ? やっぱ聞くぅ?」
ナッキは当然の事だろう? そんな感じで答える。
「当然でしょ? それに何か問題でも有るの?」
カーサは酷く億劫(おっくう)そうな様子で答えたのである、その言はこうであった。
「そうか…… 仕方ないな…… 多分だけどな、嫌な思いをすると思うよ…… 先に謝って置くな、済まない……」
「? う、うん、判ったよ、って、ハテナ?」
こんなやり取りを経て、気乗りし無さそうなままだったカーサを胸鰭に掴んで、『メダカの王様』ナッキは、勢い良く、上の池に向けてビックジャンプを敢行したのである。
勢い良くナッキが言った。
「それぇいぃっ! 空に届けっ! 僕の思いぃぃっ!」
「ひぃえぇっっぇっ! お、お助けぇっぇ!」
胸鰭に抱かれたカーサの恐怖に震える声を残して、二匹は餌場の上方へとその身を消して行ったのである。
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