・ 桃赤 ・
・ 苦手な方はUターンお願いします ・
・ ご本人様とは一切関係ありません ・
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「ん、、…」
窓に厚くかぶさったカーテンの隙間から注がれる光に気づき、重い瞼を上げた。
もう8時か、と壁にかかっている桃色の時計に目を移し時間を確認する。
そろそろ起きて朝ごはんを食べよう。
そう思いくしゃくしゃな布団の中から起き上がろうとする
が、
「、?…..」
思うように身体が動かない。
ふと、襲いかかる寒気。
上手くいかない呼吸。
重いからだ。
「ッ、…ゴホッ、ッゲホッ…」
風邪、だ。
こんなのいつぶりだろう、
久しぶりなこの感覚に朝の平穏な空気はとっくに頭の中に無かった。
風邪をひいたという事実に気づいた瞬間にさらに重くなる身体とぼやける視界。
「…くる、し、..ッゴホッ、…」
肺まで届きそうな喉の痛みとこの場に一人でいることの不安が、被っている毛布よりも重かった。
しん、と静まり返った部屋の中、ただ俺の情けない嗚咽だけが響いている。
いつもなら彼に看病をしてもらうところだけど、運の悪いことに今週は彼の作業をする週だった。
俺と彼で喧嘩しないように決めた大切なお仕事の時間。
もし邪魔をしてしまって怪訝そうな表情をされることを想像すると、とてもじゃないが「一緒に居て」なんて言えない。
「今日は、ゆっくり寝てよ….」
嫌な程止まらない咳と、一人でいることの虚しさに、時間が経つにつれて胸のあたりが苦しくなっていく。
「ッ、…..ももちゃん、…」
情けない声と共に零れた雫。
枕元が濡れていた。
目覚めたときからさらにぼやけた視界は、風邪だけのせいでは無いことなんて、自分が1番分かっている。
“カチャカチャカチャ”
薄暗い部屋の中に唯一光り続けるパソコン。
無機質な音を鳴らし続けるキーボード。
気づけばもう朝になっていた。
全然寝れてないなぁ、と思いながらも、俺の意識は目の前の画面に向いている。
はやく、終わらせないと。
今週は毎月やってくる俺が作業に集中すると決めた週。
とはいえその間は大事な彼女を1人にさせてしまっているわけで、…というか俺がただ一緒に居たいだけだけど、。
はやく終わらせてはやく一緒に過ごしたい。
このペースで行けば今日中にノルマは達成できるな、と7日間のうち2日を持て余す自分の仕事の速さに満更でもなく口角が上がる。
赤、そろそろ朝飯食う頃かな。
だんだんと疲れが溜まってきているのなんて気にもとめず、ただキーボードを打ち続けた。
ふと、目が覚める。ああ、苦しい。暑い。
時計は9時35分を指している。
少しは、気休めになったかな、…。
そんなことを考えながら、重いからだを無理やり動かす。
さすがに俺のからだも限界を迎えそうだと感じた今、飲み物と冷えピタを取りに行こうと言うわけだ。
がんばれ、おれ
重い足をゆっくり運びながらリビングへ向かう。
冷蔵庫を開けると、ふわっと冷たい空気が頬を撫でる。
冷たくて気持ちいい。
少しの間冷蔵庫に頭を突っ込んで、その後はさっさと必要なものを取り出す。
今ここにいても何も出来ないし、自分の部屋に戻ろう。
さっき通った道を同じように進む。いつもはすぐ着くのに、こんなにも長く感じるのはなんでだろう。
ふと、足が止まる。
無意識に視線をずらすと、そこは彼の部屋の前だった。
「…..ッ….、」
このドアを開けてしまえば、彼がいる。
きっとすぐ俺の異変に気づいて、駆け寄ってくれるだろう。
心配してくれるだろう。
少しだけ、開けてしまおうか、
助けを求めてしまおうか、
そしたらきっと、_
「っ、…」
そんなの、わからない。
邪魔をしてしまうんだから、どんな思いをさせるかなんて、わからない。
普段なら考えないこと。
頭の中で色んな思いがぐるぐる回り続けて、思わずその場にしゃがみ込んでしまう。
「っ、!…はぁ、はぁ、っ」
苦しい、
「ぅ”う、..〜〜っ、ッ」
苦しい、苦しい、
桃ちゃん、
「ッ、ももちゃん、っ、…..!」
少しの間の後、目の前のドアが開く。
「赤、…?」
桃ちゃんの姿を見た瞬間、ふっ、と暖かい安堵に包まれるのが分かる。
その安堵に身を任せ、俺は意識を手放した。
「ん、、…」
目を開けると、見慣れた天井が見える。
反射的に時計を確認すると、12時少し前を指していた。
あれ、俺ずっと寝てた…、?
「お、おはよ、赤」
「少し楽になったか?」
いきなり横から飛んでくる声に思考が止まる。
それと同時に今こうなった経緯を理解した。
……..まずい
「ごめ、っなさぃ」
喉が痛く上手く声にならなかった。
「作業、の邪魔っ、しちゃって」
隣に居る彼の顔が見れない。
「っ、俺、もう全然大丈夫、だから」
「作業、戻っていぃ、よ、..」
…………。
しばらくの沈黙の後、彼が口を開く。
「ふーん。じゃ、俺行くよ?」
「..っへ、ぁ、うん、…ごめ、ありがと。…」
ばか、
自分で言ったくせに、なんで傷ついてんの。
あたりまえじゃん。
邪魔、しちゃったんだもん。
嫌な思い、させちゃったんだもん、。
俺が横たわる隣で立ち上がる彼。
ほんとに、行っちゃうんだ…、。
鼻の奥が つん とほのかに痛んだ。
やだ、やだ、行かないでよ
ひとりは、さみしいの
でも一緒にいるのは、桃ちゃんがいいの
他の人じゃいやなの 桃ちゃんがいいの
喉の奥がきゅっと閉まるのがわかる。
自分勝手で我儘で、俺ってほんとサイテーだ。
「ぁ…」
思うように喉が機能せず、咄嗟に桃ちゃんの服の袖を掴んでしまう。
「っ、ごめ、なさい…」
「今日だけで、いい、から、っ、」
「一緒に、いて欲し、ぃ…の」
桃ちゃんの顔を見る。
彼は少し目を丸くしたあと、にっと笑いながらこちらに向かってきて、俺の頭をくしゃくしゃと撫で回してきた。
「ばーか。最初からそう言えよ」
「素直じゃねぇなあ笑」
ああ、暖かい
「次はもっと早く言えよ」
すっと真面目な顔で俺に言う言葉に、優しさが溢れていて。
その優しさの中に溺れてしまいそう。
「うん、」
「桃ちゃ、ぎゅーして、」
「ん、」
嬉しさのあまりとめどなく零れる涙を隠すように、彼の腕のなかに包まれた。
END.
コメント
5件
めちゃめちゃ好きです︎、、!フォロー失礼します🙇♂️
はわ、、はわわわわ、、、😭🙏… とってもとっても好きです……😭❤💖
ブクマ失礼します!