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狐十@アイコン変えた!!
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あの夜から、ひと月が経っていた。
首筋に残っていた傷跡は、もうだいぶ前にすっかり見えなくなった。なぜか消えていくのが惜しいような、そんな気持ちを仁人に抱かせていた。
「今日も来たんだ」
閉店間際、いつものカウンターに腰掛ける仁人を見て、勇斗が声をかけた。
以前と変わらないやり取りのはずなのに、声色にすら愛おしさと柔らかさを感じるのは自惚れだろうか。
「別に、他に行くところもないので」
「俺のところに帰ってきてくれて、ありがと」
「いや、ここ、家じゃないですし」
その声色には、以前のような刺々しさはもう、ほとんど残っていない。
「──なぁ、仁人くん」
「なんですか」
「後悔してない? 俺なんかに、捕まっちゃって」
ふと、勇斗が冗談めかして試すように尋ねた。仁人は少しムッとするような表情を浮かべれば、しばらく黙って、その横顔を見つめていた。
「後悔なんて、してるわけないでしょう」
きっぱりとした声だった。
「俺、人と近い距離になるの、ずっと苦手だったんです。それが今は、こうして毎日、誰かの顔を見に来るのが、当たり前になってる。こんな変化、自分でも予想してなかったので」
「──閉じ込めてるようなものだけどな、このお店の中に」
「それは、最初から、そういうつもりだったんでしょう?」
「うん。ちゃんと、囲い込みたかったから。他の誰にも渡したくなくて」
その率直な告白に、仁人は小さく笑った。以前なら、そんな独占欲を向けられることに、息苦しさを覚えていたかもしれない。だが今は、その言葉の重みが、むしろ心地よく感じるのは、なぜだろう。
「──俺、別に、この店の外の世界に、そんなに未練ないですよ」
「そう?」
「はい。ここで、勇斗さんの顔を見て隣にいられれば、それで十分満たされてるので」
その言葉に、勇斗は目を細めた。誰かをこれほどまでに、自分の世界の中だけに留めておきたいと思ったことは、これまで一度もなかった。だが、仁人がそれを自ら望んでくれることに、言いようのない充足感を覚えていた。
「なら、ちゃんと、証拠残さなきゃ」
「証拠って?」
「これ」
そう言って、仁人の左手を取り、薬指の付け根に、そっと唇を寄せた。柔らかな熱が、いつかのあの夜と同じように、そこに落とされる。
「──また、それですか」
「だって消えちゃうから、何回でもするよ」
呆れたように言いながらも、仁人は手を引こうとはしなかった。
上手についた薬指の後を、空にかざしてしげしげと眺める。次の瞬間、何を思ったか、仁人は不意に勇斗の左手を掴み取った。
「お返し、しないと」
そう囁くと、仁人は勇斗の薬指に、自らの唇をそっと押し当てた。あまりに不意な行動に、勇斗は珍しく言葉を失う。薬指に感じる唇が熱い。何度か試したもののうまく吸えずに痕が付かなかったのか、軽くガリっと嚙まれた。ぴりっとした痛みにすら、ぞくっと背筋に感じるのは重症か。
「仁人くん、痛い」
「──たまには、俺からもいいでしょう」
悪戯っぽく目を細めるその表情には、どこか小悪魔じみた色気が滲んでいた。唾液で濡れた唇から、視線が外せない。勇斗はその変化に、思わず喉を鳴らす。誘惑を避けるように、視線をずらせば、緩んだシャツの襟元から無防備な白い首筋が、視界に入った。
──っ。
勇斗の視界が、一瞬、くらりと揺れた。
不意に晒されたその白さに、あの夜がフラッシュバックして、理性が微かに軋む。
「勇斗さん? どうしたんですか」
「……いや、なんでもない。ちょっと、目眩がしただけ」
「変な人ですね」
くすりと笑う仁人の顔には、自分がどれほど危うい仕草をしたのか、まるで気づいていない無邪気さがあった。だからこそ、余計に始末が悪い。囲い込んだはずの相手に、いつまでも心を乱され続ける。そんな甘やかな均衡の上で、二人の夜は、静かに更けていった。
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