キャプション必読
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「愛されてぇなぁ…」
そう弱々しく呟いた独り言は、誰の耳に落ちることも無く風にさらわれていった。
自分は昔から、愛された事がなかった。愛やそれに似た感情を向けることはあったが、そのどれもが投げ払われ踏みつけられ押し返された。親は声すら知らない。兄に向けた親愛も、昔馴染みで腐れ縁である隣国に向けた友愛とも取れるものも、元弟に向けた恩愛も、元相棒に向けた信愛も、全て受け取って貰えなかったか、途中で受け取るのを拒否されて終わった。
其れ故か、いつの間にか愛されることへの期待をする事は無くなっていた。期待したところで、結果は全て目に見えているのだ。愛されないと分かって、一人哀しむ。そんな光景が脳裏に浮かんだ。自分が相手に向けた好意を踏み潰される事も、受け入れて貰えない事も、とうの昔に慣れている。驚きも、絶望しもしない。しかし、慣れているからといって、悲しまない心がない訳では無い。どうしても、心の片隅で悲しんで泣いてしまう己がいる事が何よりも嫌で仕方がなかった。
裏切られて、捨てられて哀しむならば、いっそ最初からそれを望まないようにした。相手からの悪意にまみれた行動も言動も、 “ 俺相手なら仕方ない”と言い聞かせて、喉につっかえるものをグッと飲み込んだ。「俺は沢山の奴を傷つけたんだ、嫌われたって仕方がない」そう言い聞かせた。つい本音が口から零れ出そうになれば、左腕を右手の爪で引っ掻いて半強制的に正気にさせた。おかげで、左腕には無数の傷が出来ていて、なんとも汚らしかった。
兄達には何時だって作り笑顔で対応した。どんな無理難題にだって笑顔で答えた。どれだけ暴言を吐かれても、自分の存在を拒絶されても、笑顔で言葉を返して、最終的には「すみません」と笑顔で返して終わった。昔馴染みかや元弟から吐かれる暴言や、己の存在を否定するような言葉にも、傷つく心を隠して対応した。唯俺の心と腕に傷が増えていくだけで、それ以外にはなんの代わり映えもない。おかげで、随分取り繕うのや泣き我慢が上手くなれた。どれだけ辛くても笑顔を保てたし、一人になるまで目尻に涙を貯めることすらしない。それくらいには上手くなれた。
誰も俺と仲良くなろうとしないのは、俺が誰とも本気で関わろうとしないからだ。全て自分のせいである。そもそも、俺という存在が生まれた時点て、間違いであり失敗だったのだ。即ち、俺が愛されたいと願うのは罪というのだ。
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「おい愚弟、紅茶はどうした」
「ああ、すみません。資料をまとめるのに集中していて」
「もー、紅茶も入れれないなんて、イングランドったら気ぃ抜けてるんじゃないの?」
「すみません。すぐ入れますね」
腕に痛みが走る。また自身を落ち着かせる為に何時ものように腕を引っ掻いた。取り繕うように笑みを浮かべれば、兄は気付いていないであろう態度を見せる。きっとバレてはいない。兄にこれがバレればより暴言が飛び交うだろう。「何が不満なんだ」とか「文句でもあるのか」とか。言われるものは何となく想像できた。
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「あーもう!君は本当に鬱陶しいな!俺はもう子供じゃないし、君の弟でもないんだぞ!ほっといてくれよ!」
「あーあー、坊ちゃんったらまーたぁアメリカに構ってんのぉ?そんなんだから何時まで経っても仲が悪いんだよ。いい加減学習しろよバーカ」
「言うてやったらアカンてフラン。どーせクソ眉毛のことや、友達もおらんくて寂しいから弟に構ってもらいたいんよ。無理やろうけど」
「うるせぇよ全員ドーヴァーに沈めるぞ」
ああ、また腕が痛い。胸もツキりと痛む。こうなることなんて分かっているのだから、関わらなければいいものを。それなのに、一人は寂しいからなんて自分に言いつけては関わって、哀しみに浸り泣く。それの繰り返し。痛い。腕が酷く痛い。帰ったら新しい包帯で巻かないと、流石に血がダラダラと流れてきてしまいそうだ。
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「ヴェ〜、い、イギリス…ごめんなさいごめんなさい、何でもするからぶたないで〜!」
「い、イギリス様っ…!きょ、今日はなんの御用なんですか、コノヤロー…」
「…別に、ただ観光しに来ただけだ」
痛い。腕も心も、これでもかというほど痛む。ジクジクと痛む。針に次々と刺されていくような感覚だ。
イタリア兄弟には、本当に何かした覚えはない。別に植民地にした訳でも無ければ、拷問紛いなこともしていない。だからこそ、純粋に普段の俺だけを見て”恐怖の対象”として覚えられ、恐れられる。それが酷く悲しくなって、より強く腕に傷をつける。ツゥ…っと腕に水のようで少し違うそれがゆっくりと腕を伝って行く感覚がして、イタリア兄弟の横を通り過ぎて、急いで近くの路地裏に逃げ込む。
嗚呼やはり、強く引っ掻き過ぎた。引っ掻いた爪にも濃い赤色が着いている。これでは観光など出来ない。否、イタリア兄弟に見つかった時点で、観光など出来なかろう。なにせ俺はあちらからしたら招かれざる客で、土地そのものに足を踏んで欲しく無い者なのだ。
今日は諦めて帰ろう。家に帰って腕の手当をしよう。なにも珍しい事ではない。どの土地に行ったって、「お呼びじゃねぇよ帰れ!」と吐かれて、相手によって怒った振りをしたり笑みを返したりする。しかしその裏は全て哀しいという感情しか隠れてはいない。本気で怒ることもそうそうない。全てが泣くのを我慢する為の演技でしかないのだ。
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家に帰ったとて、心休められる訳では無い。例え家であっても、小さな物音がしたら警戒態勢に入ってしまうし、寝ていたのなら目を覚ましてしまう。浴室にいる時に目を瞑った事は無いし、本来晴れていれば暖かな日差しが入るリビングも、常にカーテンを閉めている。俺はどこに居ても、なにかに怯えている。俺に、安心して休息できる場など無いのだ。否、あっては行けないのだ。罪にまみれた己には、その資格すら無いのだ。
最近常々思うのだ。こんな、誰からも愛されず、必要とされず、寧ろ、嫌われ拒まれ恐れられ―――そんな自分が生きる意味は何か。自国繁栄のためなのか。皆のストレス発散機になるためなのか。自分の存在意義すら、俺には分からない。分かることが出来ない。知ろうという気にすらなれない。そうなる為には、少し、長く生きすぎてしまった。諦めを身につけすぎてしまった。だから今回も、何時ものように諦めよう。それが、己の為でもあり皆の為だ。
いつの日かだったか、日本で書いた願い事が叶う日など、きっとこの先も永遠にないだろう―――。
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漸く風邪が治ってきました。長かったです。
アーサーはとにかく愛に不慣れであって欲しいと思っております。ほくべー兄弟のお陰で” 愛する”ということはある程度理解しているでしょうけど、如何せん類は友を呼ぶの通り、ツンデレアーサーの周りにはツンデレばかりで素直にアーサーを愛してくださる方は片手で数えられる程しか降りませんことですよ。 ポルや菊さん、コモンウェルスの子たち…嗚呼少なくて涙が出てしまう。
私の書く話は大体暗いお話ですが、最終的にはハッピーで終わることが多いので、安心してください。このお話もおそらくハッピーです。
それでは、次回も頑張らせていただきます。
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コメント
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うわぁ!、フォローありがとうございます!素敵な作品を読ませて頂きました!ツンデレなアーサーも好きですが、闇を抱えてて心のどこか寂しげなアーサーも大好きです、、! 次回楽しみにしています!