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いつの日だったか、日本で世界会議があった時の事か。その時は丁度、日本の伝統的行事である《七夕》という日だった。短冊というものに願い事を一つ書き笹に吊るせば、願い事が叶う…そんな行事らしい。折角だから皆さんも、と。日本は笑って俺達に短冊を渡してきた。皆はまるで渡される事を分かっていたかのように、すぐさま願い事を書き綴っていった。唯一人、俺だけが何もかけずにいた。願うものなど、何も無かったのだ。それでも、周りがどんどん笹に短冊を吊るしていくのを見て、何か、何でもいいから何かを書かなくてはと思って、パッと思いついたものを綴った。
「イギリスさんは、どんな願い事を書かれましたか?」
何とか周りと同じようなタイミングで笹に吊るせた時、不意に日本にそう聞かれた。内心聞くものなのかとも思ったが、日本の行事を欧州の自分が勝手に探るのもどうかと思って、それも呑み込んだ。
「自国が繁栄しますように、って書いたよ。俺達が願う事なんてそれくらいしかねぇしな」
「ふふっ…国民想いのイギリスさんらしいですね、私はいいと思いますよ」
日本にそう笑いかけらとき、何故だか胸がツキりと傷んだ。別に悪口を言われた訳でも、酷い扱いを受けた訳でもないのに、意味も分からず胸が傷んだ。だからバレないように「サンクス」と言い微笑んだ。それと同時に、後ろ手にそっと隠しておいたもう1つの短冊が、クシャ…と音を立てて皺を作ったことは、きっと俺以外誰も知らない。知られたくもなかった。だってきっと、その短冊に書かれていた願い事を見たら、みな俺を笑うだろう。
『誰かに愛されますように』そう綴られた短冊は、近くのゴミ箱にソッと捨てた。
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俺には誕生日というものはない。俺はあくまでブリテン島に存在する一つの国でしかないのだ。故に、生まれたことを祝福される事などなかった。否、例え誕生日があったとして、誰も祝福なんてしてはくれないだろう。嫌われ者の誕生日など、誰が祝いたがるのだろう。他国の誕生日やクリスマスイブといった行事にも、俺が誘われることなんて滅多にない。そんな奴に誕生日があったところで、無駄なだけだ。それでも、自分以外の人達は、生まれたことを祝福され、喜ばれているところを見ると、どうしても羨んでしまった。俺はそんな事一度もなかったし、きっと今日以降もない。生まれたことを、妬まれ、恨まれる事は何時だってあった。しかし、喜ばれることなどなかった。誕生日でよく聞く「生まれてきてくれてありがとう」なんて言葉は、俺にとっては夢のまた夢である。
唯一人、ポルトガルだけは誕生日のない俺が可哀想だといい、何かと理由を付けてプレゼントをくれる。見返りなんて求めず、只々善意に染まった感情でくれるのだ。こんな俺に。それだと言うのに、俺はその善意すら素直に受け取れる者じゃなかった。「ポルトガルは優しいから、きっとみんなにこうしてる」なんて自虐的に考えて、また腕の傷を増やす。俺の心身共の傷の一番の原因は自分なのだ。どんな善意にも素直に喜べないから、皆俺を嫌う。わかっていると言うのに、捨てられて哀しむ自分を想像してしまえば、自然とそうなってしまうのだ。
俺自身も、そうなくなれるのなら迷わずなりたい。人からの善意を、純粋に喜び、笑える者になりたい。願っている、それなのに出来ないのだ。受け取れないのだ。
頬を湿った何かが伝って行く。そして大事に抱き抱えているテディベアやクッション、俺をそっと包むシーツにシミを作っていく。こんな風になるのならいっそ、一生家に引き篭っていれば良いというものを、俺はそうできない。
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「なんやクソ眉毛、今回の会議も来たん?お前みたいなボッチ君は来たところでやること無くて暇やろ?帰ったらどないや?」
「アヘンはなんで何時もくるあるか!来たところで美国や法国と喧嘩して終わりなんあるから来ないでもいいよろし!お前なんか居なくても、我が居れば解決するあるよ!」
「毎度毎度内職してるペド野郎には言われたくねぇよバカァ!中国も、お前いっつも何も言わず座ってるだけじゃねぇか!」
やはり、世界会議とて、俺は誰のお呼びでもない。会議室に着いてそうそう浴びせられる罵詈雑言。もう慣れたものだ。その筈なのに、腕が痛む。気を抜けば喉から言葉が出なくなって、呼吸さえ忘れてしまうそうだ。何故だろう。自分でも理解ができない。
でも、今回は世界会議。途中で辛いことや泣きたい事なんて、きっと山ほどある。普段の生活よりずっと腕を引っ掻くことが多い。でも、引っ掻き過ぎれば当然ながら血が流れてしまう。普通の会議の中でそうなってしまえば、流石に疑問の目を向けられてしまう。だから引っ掻くのは極力我慢しよう。心の中で、何とか落ち着かせなくてはだめだ。別に難しい事では無い。今までも世界会議など沢山開いて、その度それで乗りきっていた。難しくない。きっとできるのだ。
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「―――で、つまり、俺がヒーローさぁ!」
「おいアメリカ!いい加減俺の計画通り進行させてくれ!」
「全く、お前ら全員うるさいあるよ!」
今日も今日とて、会議は踊っている。四方八方からアレヤコレヤと聞こえてくる。一人は楽しげに、一人は呆れげに、一人は怒り気に…他国多様の声色が聞こえてくるが、俺の頭は妙にクリアだった。いつもならうるさいだの早く進まないかだの、何かしら思う事はあるのに、今回はそれが無い。皆の声も、心做しか途切れ途切れに聞こえる。それはきっと、腕に傷を作らない為に、無意識に周りの声を必要最低限遮断しようとしているからだろう。
そうやって、ボーッと天井に吊るされたシャンデリアを眺めていれば、不意に左肩に手を置かれた。肩が跳ねそうになるのを堪えて、ソッとその手の主を見る。何か伺うような眼差しで、フランスが俺を見つめていた。
「おい…お前なんかあったのか?」
「別に…何も無いが、何でだ?」
「いや…なんか今日のお前、大人しいっていうか、心ここに在らずみたいな感じだから…アメリカの事もほったらかしだし…」
そう言われて、俺は今回の会議で初めてアメリカの事をしっかりと目視し、今ようやくアメリカがまた騒いでいることに気がついた。
俺の体は、俺が思っている以上に周りの音を遮断している様子だった。
「…俺だってそう毎回アメリカに構ってられるほど暇じゃねぇっての、今回はドイツが止めてくれてるし、ほっときゃいいさ」
そうヘラりと笑ってみせるが、フランスは変わらず心配そうな―――まるで今にも泣き出しそうな子供をあやす様な目で俺を見つめてくる。何故俺相手にそんな目をしてくるのか、理解できなかった。そんな目を向けるのは、イタリアや、悪友にだけで十分だろうに。何故、よりによって俺なのか。考えるだけ嫌になる。心配されているんだと、心の何処かで期待してしまう自分が見えてしまう。そんな訳は無いのだ。頭をフルフルと横に振って気を紛らわせたい。しかし横から感じる視線は未だ消えない。頬には冷たい水が伝う。どうにかしてその手と目を離したい。期待してしまう前に、腕にまた傷をつけたい。こんなちょっとやそっとの事で舞い上がってしまう浅はかな自分を嫌いたい。
そう思って、手と視線をどかしてもらうための言葉をはこうとするよりも先に、俺の視界が暗くなった―――。
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病み上がりの運動ってマジでキツイですね。いつもよりずっと疲れました。ので、途中からは見学に徹してました。あのまま続けてたら倒れてたかも…位には結構辛かったです。
闇深アーサーからしか得られないものは存在すると思っておる所業です。
またノベル以外にも絵を進めないとな…と思っております。
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