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第19話:「中村颯太 ―最初の事件―」
画面に映った男は、静かで整った顔立ち。
「#真相をお話します」チャンネルを運営し続けてきた、中村颯太。
これまで姿を見せることのなかった彼が、ついに語り始めた。
「私がこのチャンネルを作ったのは、ちょうど三年前。
ある事件をきっかけに、“情報が握り潰される恐怖”を、身をもって知ったからです」
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中村が当時、報道関係の下請け制作会社にいたことが明かされる。
その会社には、警察や検察から“裏で流れる情報”が集まっていた。
ある夜、中村は誤って未編集の映像ファイルを見てしまう。
そこには、ある女子大学生が自室で泣きながら語る様子が記録されていた。
「私……あの人に、撮られてました……でも警察は“示談にしろ”って……」
その映像の相手は、テレビにも出ていた“教育評論家”だった。
大スポンサーの広告塔。
「俺はその映像を上司に報告した。
でも、翌日、その映像は削除されていた。
そして、その女性が“自殺した”というニュースが流れた」
「報道とは、真実を伝えるものではなかった。
スポンサーと契約が守るのは、“加害者”だった」
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「真実は、録音されても、記録されても、誰かに止められる。
でも、“ライブ”なら止められない。
リアルタイムで数万人、数十万人が見るなら、誰にも潰せない。
だから俺は、このチャンネルを作った。“記録されなかった真実”のために」
「だが……それは同時に、“歪み”も生んだ。
真実と嘘の境界が曖昧になり、“劇場”として消費され始めた」
「そして気づいた。“暴露”だけでは、人は救えない”って」
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中村は、もう一つのファイルを再生する。
「これは……田中蒼さんが、自分を責め続ける原因となった“夜”の、音声記録です」
美月のスマホから抜き取られた自動録音データ。
そこには――
伊藤悠真の声:「お前、俺が潰されると思ってるの? 無理だよ。
俺は“あの人”と繋がってるんだよ。
田中蒼にでも罪をなすりつけとけって言われてる。
どうせ、あいつ喋んねえよ」
音声はそこで途切れた。
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画面が切り替わる。
一人の男が、高層ビルのラウンジでワインを手に笑っている。
その男の顔には、どこか見覚えがあった。
「こいつは……まさか……」
蒼の瞳が見開かれる。
「小林悠斗――!?」
かつての親友で、蒼を裏切った張本人。
表では女好きの仕切り屋を演じていたが、裏では情報屋として暗躍していた男。
「彼が“告白ノ間”最大の黒幕です。
すべての視聴者データを管理し、
最も投げ銭の多い話題を裏で仕込んでいた」
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中村はゆっくりと言う。
「今から最後のスピーカーに登場していただきます。
この配信の最終回――そして、全てを締めくくる語り部です」
画面が切り替わった。
そこには、スーツに身を包んだ――田中蒼。
静かにマイクの前に立ち、視聴者に向かってこう言った。
「これは、僕の人生を壊した“あの夜”の真相――
そして、それでも僕が“この配信”を通して見つけた答えです」