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本人様とは一切関係ありません。
含まれる要素:微センシ、別れ話、体調不良、ハピエン
以下本文
半年前、ぽろっと漏れた俺の気持ちから始まった小柳くんとの恋人関係。実は最近一つ気になることがある。
「ふ、ん…♡ほし、るべ…っ♡」
行為中、そう必死に名を呼ぶ彼は愛おしい。そう思う。けれどその呼び名は本当に俺に向けられているだろうか。夜空に浮かぶ満ちた月のように美しいその瞳には、今の俺が映っているのだろうか。
普段の配信内にもそれらしい発言はあった。極力不安を表に出さないようポーカーフェイスを努めていたが、胸の痛みは増していく一方。昔の話題になると決まって彼は悲しそうな顔をする。まるで晶の存在を再確認したみたいな。 そして俺が謝ると困ったように眉を下げて笑うのだ。
その度に思う、本当は俺より晶の方が良かったんじゃないかって。
一度考え出すと駄目だった。近頃は鑑定業の仕事にまで支障が出始めている。このままではいけないと分かっているけれど、彼と面と向かって話す勇気も無い自分を誤魔化すように、仕事を無理矢理詰め込んで会えない理由を作った。おかげで頭痛にも悩まされるようになってしまい、比例するように市販薬を使用することが増えていった。
初めの方は本人も気にしていなかったのか時たま連絡が来るくらいで済んでいたが、流石に違和感を感じたのだろう。収録が被った日には必ず待合室に待っている姿を見かけたし、疲れ切った任務後でも向こうからご飯の誘いがあったりした。勢いに押され何回か付き合ったこともあったが、やっぱり思い出してしまう。会えなかった分の話を楽しそうに話す彼を見ていると苦しかった。そしてそれと同等に、恋人との時間を楽しめていない自分に腹が立った。
「小柳くん。別れませんか、俺たち」
何度目かの食事の場でそう話を切り出す。目線は合わせなかった。どんな顔をするかなんて、この半年の間に想像がつくものになっていたから。手元のグラスを傾けると中に入った氷がカランと音を立てる。
「…んだよ急に、酔ってんのか?」
彼は変わらない口調でそう言った。でも俺は気付いている。その言葉を発する前の空白の時間や、いつもより少し堅い声色に。不安を感じただろうか。それとも打って変わって、俺への怒りの感情だろうか。
「酔ってませんよ。本気です」
「は?本気?お前自分で何言ってるか分かってんの」
彼の言葉にどんどん焦りが滲んでいく。身を乗り出しているのか視界の端に机につかれた手の甲が見える。それでもそちらを向くこともせず、グラスを見つめて淡々と話した。
「もう、疲れちゃって。ほら最近仕事の都合で会える日も少なくなってましたし」
「これって付き合ってる意味あるのかなって」
「…嘘だな、俺を騙せると思うなよ、」
強がった彼の震えた声を聞くのが辛い。傷付けたい訳じゃないのに。…仕事も、全部俺が仕組んでやった事なのに。
「…目すら合わせたくないって言いたいのか」
「……俺じゃ小柳くんを満足させてあげられません」
最後の言葉は心からの本心だった。
俺では彼を幸せにできない。だってもう、俺の中に晶は居ないのだから。
そこで初めて彼の方を見れば潤んだ瞳から涙が伝っていくのがハッキリと見えた。拭おうともせずに真っ直ぐに俺の目を射抜く視線は次第に伏せられ、分かった、と小さく呟いた彼は荷物を持って早足で個室を出ていく。
これで、全て終わりだ。何もかも。
家へ帰った後、疲れ切った身体をベッドへ投げ出した。微睡に身を任せ目を瞑れば彼との思い出が脳裏に浮び上がる気がして。
水を掛け合った海、水族館で並んで見たクラゲ、強がる彼に無理矢理付き合わされたお化け屋敷、クリスマスイブに寒いからと理由付けして絡ませた手の温もり。
彼が与えてくれた幸せな時間が目元から溶け出していく。
「ぁー…ほんと格好悪、俺…」
部屋には俺の声だけが響いて、隣に愛おしい体温が無いことに寂しさを覚えて再度枕へ顔を埋めた。
そんな生活をしばらく続けていた頃。先に悲鳴を上げたのは身体の方だった。打ち合わせで家を出なければいけない時、玄関の時点で気分が優れないことに気付く。直近の予定は既に埋まっているため休みを貰うのは諦め、念のため薬を持って行こうとリビングへ足を進めた…はずだった。
上手く踏み込めなかった足はもつれ、大きな音を立てて廊下に倒れ込む。床の堅い材質が身体に響いて、起き上がろうと試みるも力が入らない。それに頭痛が酷い。頭が割れるように痛むことに遅れて気が付いた。状況の深刻さとは真逆に、このまま死ぬのかなぁなんて呑気に考える。 心配しているのか俺の周りをぐるぐる飛んでいるオトモを目にした後、暗闇に引っ張られるようにして次第に意識が薄れていった。
目が覚める。目前に広がるのはいつもと変わらない自室の天井。ゆっくり身体を起こすとズキンと頭が痛む。思わず手で頭を押さえるとドアの方から物音が聞こえた。
「…起きたか」
物音の正体は小柳くんだった。どうして彼がここに居るのだろうか。鍵はどうやって、ああ、そういえば合鍵を渡したままだったか。ぼんやりそう考えているうちに彼はベッドの縁に座る。
「オトモ、俺のとこまで来てすげぇ必死に伝えてきて。見に来てやったら返事ねぇし入ったら中で倒れてるし」
「…はあ」
「寝てる間にマネに確認したよ。お前自分から仕事詰め込んだってな」
そこまで行かれてしまうと認めるしかなくて素直に肯定する。それ以上も以下も聞いてこない彼の表情は、位置的に見えなかった。
「…もうこの際言うけどさ、なんであんな嘘付いたんだよ」
そう話す声色は思っていたより振り切ったような感じだった。あんな嘘とは最後に話した言葉だろうか。もう別れてしまったんだし、弱くて格好悪い俺の話をしてもいいかと回らない頭で考え、ずっと内に秘めていた不安を吐き出した。
「ずっと、怖かったんです。小柳くんは俺じゃなくて晶を見てるんじゃないかって」
「俺は…俺はこんなに好きなのに。晶の代わりになんてなりたくないし、俺の想いが一方通行なのが嫌でした」
振り回してしまってすみません、と最後に謝罪を付け、もう出て行って欲しいと伝える。立ち上がった彼は出口へ向かうかと思えば俺を跨ぐように馬乗りをし、胸ぐらを掴んできた。病人になんてことをするんだと文句を言ってやろうと開いた口は、彼を見て何も言えなくなってしまった。
「何、言ってんだ。そんな訳ないだろ、馬鹿なんお前、」
歪んだ顔に大粒の涙がボロボロと伝って落ちていく。そんな様子に咄嗟に手が伸びた。拭っても拭っても溢れる涙を見て、泣かないでよ、と小さく声を漏らす。
「晶じゃなくて星導ショウが好きなんだよ、俺は。まさか、そんなんで振ったとか言わないよな」
だったら今すぐに撤回しろ、と弱々しく縋り付くように胸へ顔を埋めてくる彼に胸が締め付けられる。できるだけ力を込めて、いくらか細くなったその身体を強く抱き締める。背中に回った手は俺と同じくらい強く握られていて、俺たちがすれ違っていたことを実感させた。
「…すみません、一人合点して。ちゃんと話し合えば良かったですね」
「ほんとだわ、この大馬鹿野郎が」
力を緩めると少し温もりが離れる。 未だ止むことを知らない涙を啜り、額をくっつけて感情を流し込むように目線を合わせた。久しぶりにまともに目を合わせたのもあって少し気恥ずかしい。
「好きです小柳くん」
そう呟けば柔くほころばせる彼が居る。ちゃんと言い直せ、と口調こそ不機嫌そうに言うも、表情はどこまでも嬉しそうなのが愛おしくて。
「俺と付き合ってくれますか?」
「当たり前」
愛のあるキスを交わして、今更おかしくなって二人で笑い合う。
ねぇ、小柳くん。今になって分かったよ。昔の俺も、今の俺も、変わらず愛してくれていたんだね。いつも悲しそうな顔をするのは、あなたのことだから俺を思って気を遣っていたからでしょう。気が付くのが遅くなってごめんなさい。ずっとずっと大好きです。