テラーノベル
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<しにがみside>
ra「いいか、よく聞け。ここに食材が入っている。」
看守が扉脇にあるチェストを、ガパリと勢いよく開ける。
そこに押し込められるように並んでいるのは、小麦や野菜などの体に良さそうな食材たちだ。
肉類はその日に畜産に寄って、手に入れるらしい。
「畜産に寄ってもらうが、鍵を渡すわけにはいかない。……その為、この扉のロックを一時的に解除する。」
驚嘆の声を出すと、聞け_と言うには強すぎる威圧が掛かる。
「お前は自由に出入り出来ることになるが、二度開閉すれば、自動的にロックが作動する。」
どうやら、開いた数秒後に重さで閉じてしまうような扉らしい。
仮のストッパーを置くにも、目の前にある監視カメラに捉えられることを考えると、現実的じゃない。
看守は説明だけし終わると、ロックを解除したような音と共に歩き去ってしまった。
sn「必要な一回の運搬の為ってことか。」
一度肉類を持ち込めば、完全にいつもの刑務作業場所になるということだ。
しかし、別に気難しく考える必要はない。
手元から取り出した木の剣は、革を付ける予定の持ち手部分が、妙に輝かしい剣と不釣り合いに素朴だ。
ぺいんとさんから涙交じりの肉類と、そこに忍ばせた革をチェストに入れる。
これなら看守が今目の前にいても、何も言われまい。
厨房にもう一度入れば、カチャリと音が響いた。
<ぺいんとside>
pn「しにがみ~。どう?いけそう?」
ブタと徒競走をしていた足を止めて、意識を音に向けた。
「何?めっちゃ食ってる音してるw」
ひたすら食べる音が続いた後、覚悟の決まった声が降った。
sn《今日の夕飯、無しでいいです?僕がステーキ食べないといけないんで。》
頭を高速で回転させる。
その中で掠めた思わぬ出来事に、牛への小麦を仕舞う。
pn「え?……
……お前これから事件起こそうとしてんじゃん!注意真に受けて!」
sn《フッハハッwww、黙れ黙れw》
もう、食材が燃える音もまな板を叩く音もしない。
どうやら、勝手に満足したらしい。
kr《何でそんなお腹空いてるの?まだ朝の内だよ?w》
sn《まぁ、僕今日貰ったご飯食べてないから。》
威風堂々と、鼻をならして放たれた言葉に吹き出した。
pn「wイヤ、威張ることじゃねぇんだって、それ」
「コイツ相当変な尖り方してるわ…w…」
呆れを滲ませた声にも臆せず、芯のある声が通る。
sn《いや、これは、こだわりだから。》
pn「wwwエコー掛けんなよwそんなことにw」
その妙に自信満々な態度は、もっと別の場面で発揮して欲しい。
そんなことを思いながら、胸の片隅にあった”心配”の二文字を誤魔化した。
<クロノアside>
生け簀はしにがみ君の思惑通り、厨房にあった。
トラップドアが付いていて、大型の人間は通り抜けれないようだ。
怒られるから言わないが、しにがみ君に任せて良かったと思った。
sn《くしゅんっ……誰か噂しましたぁ?》
kr「してない。してない。」
服の擦れる音から、篭った足音や小さな物音も止まって、ギィッとチェストが軋む。
何となくの想像に任せて、ミッションを完了したとの報告に耳を傾ける。
──耳に入ったのは、身の毛のよだつあの声だった。
<しにがみside>
手に汗を握る思いで入った生け簀は、当たり前だけど閑散としていて静かだ。
どこかしら懐かしいような気配もする。
置かれたチェストに向かって、手持ちから剣を選び取る。
そうしてチェストに手を掛けた時、僕は信じれない恐怖を感じた。
sn「……は、」
“押されている”のだ。 チェストが自ら開こうとしている。
変なことを言ってるのは百も承知だが、そうとしか言いようがない。
全身の血管が強く脈打って、胃の辺りが一気に重苦しくなる。
蓋の下から血走った眼が僕を捉えた。
僕は考えるより先にチェストを抑え込んだ。
その拍子に、剣が床に転がる。
本物ではないからか、小さな乾いた音だった。
「……ッ、っ”!」
ガコッと強い衝撃と共に、チェストの蓋は簡単に開いてしまった。
縛られた手足を曲げて、チェストに隙間なく横たわった男。
固く塞がれた布を通した、荒く詰まったような息。
そして、充血してまで凝視する眼が僕を射抜く。
僕の頭は真っ白になった。
(え、誰コイツ。僕の記憶力の問題??)
全く無関係だと思われる人間が、箱の中でこちらを凝視している。
思わず身を僅かに引くが、目線はその男から剃らすことが出来ない。
ドッ、ドッ、ドッ──。
一瞬心臓の音が漏れ出たのかと思ったが、違った。
重い革靴の音が止まり、目の前の男ではない人の気配が背に立つ。
引っ張られるような感覚でゆっくりと振り向こうとして、止めた。
背中にある尖った感触は、きっとキラキラと輝いてるんだろう。
一々、僕たちを見下した台詞ばかり吐く声の主の方へ向くことは、叶わなかった。
「道化師……ッ、。」
手足を縛られていたチェストの男は、突き上げていた脚を降ろして、まだ僕の方を視ている。
dk「残念だったな。お前らは用済みだ。」
背中に突いていた感触がふっと消え、床を突き破るような勢いで何かが視界を覆った。
風を切った轟音と甲高い音が辺りに飛び散って、思わず体をびくつかせる。
僕は牢屋の中に居る。扉のない牢屋に。
(デジャブだ……。)
突き刺さった鉄格子は、万が一にも抜けそうもない。
まさかと驚いたよ_と、鉄格子を挟んで立った道化師が、手に持った剣をじっくりと眺めて、床に放り投げる。
「俺のペンキを使うとはな。流石だよ、PKST団。」
道化師によって、パタンと呆気なく閉じられたチェストに安堵が襲う。
今の今まで常に視線を感じていた。_
道化師がおもむろに何かを取り出し、チェストの上に置いた。
蛍光灯の光にキラリと反射したのは、鍵だ。
ドンドンと内側からの振動で、音を立てて鍵が地面に落ちる。
(くそ、届かない……!)
道化師は特に何を言うでもなく、手を必死に伸ばす僕を眺めている。
その手には─ボタン式の機器が握られている。
sn「また爆破でもする?」
睨み付ける僕に、道化師が感情がない仮面の裏で呟いた。
dk「アイツの象徴だったからな。……もう、必要ない。」
pn《しにがみ!大丈夫か!?》
裏から聞こえるズドドドと低く激しい音が近付いてきて、生け簀が一気に水かさを増し、床を浸水していく。
鍵も奥へと流れて行ってしまい、打つ手を失った。
(このまま、溺死させるつもりか)
道化師は軽々と天井へ向かって梯子を上り、薄暗くついていた蛍光灯と共に消えた。
sn「クロノアさん、ぺいんとさん。僕ここで多分溺死する、ごめん!」
pn《は??!溺死??》
kr《何、どういうこと!?》
音がこもって視界がボヤけていくのを、水の中で感じる。
sn「…~〟゜……コポコポ…」
目も開けれずに必死で踠いているが、一向に足が着かない。
(なん…で…足挫いたかも)
気付いた時点で息が漏れ、どんどん沈んでいく。
(…これ…ヤバ……)
<クロノアside>
会話は途切れて、膝から力が抜け落ちた。
kr「俺のせいだ……」
全身からともなく震えが侵食してくる。この作戦を決行させる時、俺は何て言った?
俺のせいで死にかけている。大切な友達が。
「何が任せろだよ…ッ、…。何が!!」
早くしないと、本当に死んでしまう。でも、助ける方法は……。
pn《クロ、ノア…さん。》
絞り出された声が、俺の震えを止めた。
《……リーダー。6番なら、許してくれますよ、あの時のクロノアさんみたいに。》
グッと何かを堪えた赤い瞳が、彩度を落とした黄色の髪から垣間見える。
俺の言葉に、フッと顔を上げて隠れたけど、いつもの目で笑った。
─そうだ。一刻の猶予もない。
何か助ける方法は……看守……それから溺死?
kr「ぺいんと!!今すぐ看守を呼んで!俺の所は避けて。」
俺が座り込んでいたら、しにがみ君は死にまっしぐらだ。
俺は自分でも最高記録だと思う速さで、水に流れた──。
<しにがみside>
フワフワと体が離れていく。
全身が寒い……どこだ……ここは。
何かが手に当たって、反射的にそれをグッと掴んだ。
手首に巻き付いた何かが、ぐんっと力強く体を持ち上げる。
直感的に助けられていることに気づき、強い力で腕を引いた。
sn「ん、ぶハッ!!ゴホゴホッ」
熱い鼻奥に涙目になりながら咳き込むと、肺に勢いよく打ち付ける空気が苦しくて、肩で息をする。
sty「6番!!」
sn「スティ…ッ!ゴホッ…」
何を思ったのか看守は、胸元に僕を受け入れるように抱き寄せる。
看守の体温に身を任せて周りを確認すると、床は水浸しだが、収まってきている。
ra「所長!!」
所長……?
釣られてリアム看守の方を向くと、そこにはあのチェストが開いた状態で露にしている。
ぐったりと力を抜いてずぶ濡れの男は、まさかこの刑務所の所長だったのか……。
(所長に成り代わる必要が無くなった、?)
漠とした視界の隅に、鍵がジャラリとぶら下がった。
「この鍵は、お前が持っていた。……話して貰おうか?」
sn「え、いや、」
そして目線が上がった所で、異物を捉える。
水のせいで木の色が剥き出しになった剣が、看守の背の壁に立て掛けられていた。
──”楽しい工作の時間はおしまいか?”
道化師の高笑いが、すぐ傍で引いていく水の音に消えていった。
……………………
「爆破されたメデューサ号の全貌」
当初メデューサ号の舞台に予定されていた「囚われの戦士」。
とあるサーカスの演目の物語が原作だとされ、現在は閉業となっているが熱烈な要望により、雲の上の舞台で再現されることとなった。
しかし、今回の事件で予定がキャンセルになったと非難の声が相次いでいる。
爆破により確認された負傷者は一人も居らず、脱出用の装置を使ったと思われる。
客を乗せる前だった為に、迅速な対応が行われたようだ。
演者用の非常口は梯子が付けられたまま、壁の砂岩で塞がれていた。
メデューサ号の上部に位置する部屋は、爆発の影響も少ないようだった。
現在、隠し通路についての調査も順調に進んでいる。
メデューサ号爆破事件の犯人は、未だに公表はされていないが、事件当日に搭乗していた”PKS団”の仕業ではないかと、未だ囁かれている。
▽
『黄泉通り』完
二章へ続く──。
#リアぺい
なちゅ
297
#誘拐 監禁 拘束
コメント
1件
うわっ、第15話、めっちゃ緊迫してた……!しにがみくんがチェスト開けた瞬間の“押されてる”感覚、あれ本当に鳥肌立った。しかも中にいたのがまさかの所長で、しかも背後から道化師って……追い詰められ方が半端なかった。 水没して“これヤバ”って諦めかけたところをスティアが引き上げてくれたの、本当に助かった……と思ったら、最後の“楽しい工作の時間はおしまいか”でまた背筋冷えた。まだ終わってなかったんだな、この悪意の感じ。 一章完おめでとうございます!二章もめっちゃ気になる……!