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「ねぇ、ねぇ西城さんの彼氏格好良くなかった!?」
「うんうん思った!」
「いつもあの陰キャと居るから、アイツと付き合ってるのかと思ってたー」
みんな、さっき遭遇した同級生の恋事情に浮かれている。
女子高生は恋バナが大好物なのである。さらには、町田のライバルが減ったのが単純に嬉しいのもあるのだろう。
かく言う私だって、相手が齋藤でなければ少しくらい恋バナに参加してもよかった。
なんで西城さんが、齋藤にいつもべったりなのかみんな不思議に思っていたが、齋藤の本当のスペックがアレだとわかれば納得だ。
変な虫が寄り付かないようにしているのだろう。ちなみに私が近づいたら・・・ダメなのかな。
後で、西城さんとは話す機会をもらって、私の気持ちを打ち明けよう。私は密かに決意を固めた。
そんな私を尻目に、町田ガールズ達は携帯を取り出し、何か企んでいるようだ。どうやら、先ほどの仲睦まじい姿をSNSにでもあげる気なのだろう。
町田がこれで諦めてくれると思ってるのだろう。それにしても、西城さんは大丈夫なのだろうか?齋藤のことがバレることは本意ではないのでは?
いや、誰も齋藤だとは思っていないか。
しばらく様子を見て、場合によってはフォローしてやるか。
ーーーーーーーーーー
あぁ、昨日のデートは楽しかったなぁ。
やっとハルくんと恋人になれたんだもの。
あぁ、こんな幸せな朝があっていいんでしょうか?
私は完全に浮かれていたが、朝の日課であるSNSを確認する。
ハルくんは、たまにバッチリきめて外出することがあるので、密かにSNSにあがることがある。
『お近づきになりたい』だとか、『格好いい!』だとか、とにかく女子達が騒いでいるのだ。これを見ると、どうしてもハルくんを自慢したくなってしまう。
だけど、誰もハルくんにたどり着けた者はおらず、ハルくんは私だけのハルくんだ。
ただ、最近不穏な影がハルくんに近づいている。そう大塚さんだ。彼女にはハルくんの顔も見られているし、カフェで会った感じ、好意を持っているのは明らかだ。
相手の出方をうかがうしかないが、味方が増えるのは魅力的である。別に変な女が来なければそれでいいのだ。数人で周りを固めるのはいいかもしれない。少し考えてみよう。
おっ、やっぱりハルくん目撃情報がある。
いつもならハルくん単体で撮られるのだが、今回は私も一緒に撮られていた。それもちゃんとカップルと書かれている。
町田ガールズ達か。
注意しようと思ったが、ちゃんとカップルと書かれているので許すことにした。今日の私は機嫌がいい。多少のことなら許せそうだ。
朝の支度を終えると、ハルくんを迎えに行き学校へと向かった。
ーーーーーーーーーー
学校に着くと、思っていた通りちょっとした騒ぎになっていた。ずっとハルくん(陰)とくっついていた私が、イケメンと付き合っているという情報が流れたからだろう。
たぶんそろそろ来るからかな?
おっ、噂をすれば。
「おはよう、西城さん、齋藤くん。2人とも、ちょっといい」
あいさつも程々に、私達は大塚さんに連れられ屋上へとやって来ていた。屋上って入れるんだ。いいこと知った。今度ハルくんと来てみよう。
屋上に着くと、彼女はすぐに本題へと入った。
「西城さん、ツイッターやってたっけ?」
「やってるよ、大塚さん。それがどうしたの?」
なるほど、大塚さんも見たんだね。
でも、こっそり聞くってことは心配してくれてるのかな?
「じゃあ、この状況は理解してるってことか」
「もちろん」
やっぱり。そして、ハルくんのことも気づいてるんだね。
でも、ハルくんは鈍ちんだから一筋縄じゃいかないよ?
「それならいいけど、齋藤は・・・知らなそうだね」
「ハルくんは知らなくていいの」
「らいしいよ」
私は、極力SNSの話はハルくんとしないようにしている。SNSなんかやり始めたら、隠し通すのも大変だからね。ハルくんは、その辺は知らなくていいのよ?
屋上でのやり取りは、すぐに終わり解散することにした。
しかし、私達は話をしなくてはならない。お互いに考えていることは同じようで、視線が絡み合い、一拍置いてお互いに頷きあった。
とりあえずハルくん抜きで話し合うために、放課後の時間を使うことにした。今日は、早く家に帰らなくてはならず、お父さんが迎えに来てくれると言っていた。なので、大塚さんを自宅に招くことにした。
最初こそ渋っていたが、家は今日1人だし、隣はハルくんの家だと言ったらあっさりついてきた。チョロい。
自宅に着くと、すぐに彼女を連れて自室へと向かった。お互い言いたいことはたくさんあるのだ。
そんな中、先に話を切り出したのは彼女だった。
「西城さん」
「なに?」
「えっと、その、齋藤のことなんだけどさ・・・」
「うん」
・・・。
なかなか、その後が出てこない。見た感じかなり緊張しているようだ。いつもハキハキとものを言う印象の彼女だが、顔を赤くしておどおどとしている。
ハルくんに告白するんだよね?私じゃないよね?こんな様子じゃ先が思いやられるよ。可愛いけど。しばらく見守ったが、助け舟を出してあげることにした。
「ハルくん、格好いいでしょ?びっくりした?」
「えっ、あ、うん。びっくりした。あんなイケメン初めて会った。それに」
突然のことに一瞬驚いたようだが、少しずつ言葉を紡いでいく。ハルくんのことを思い出しているのか、とても可愛らしい笑顔だった。こんな大塚さんは初めて見た。
「それに?なに?」
「えっと、一目惚れ?っていうか、人を好きになったのが初めてなんだ。だから、この気持ちがわからないんだ」
「ほぇー、初恋かぁ。それは難儀だねぇ」
「う、うるさいなぁ。まだ、好きかわかんねぇよ。これが恋なのか確かめたいんだ」
そう言う彼女の目は真剣そのものだった。
彼女は今まで浮いた話など全くなく、あるとすれば町田が流したどうしようもない噂くらいなものだ。
一途で、正義感がかなり強い。見た目のギャルっぽさに目がいきがちで誤解されているが、文武両道で模範的な生徒だ。先生からの信頼も厚い。そんな彼女ならば。
「そっか、まだその段階か」
「・・・」
「だったら、一日だけチャンスをあげる。今度デートして来なよ。そこで気持ちを確かめるといいよ」
「い、いいの?」
「うん。私大塚さんのこと好きだし。もし、本当にハルくんを大切にしてくれる人が増えるなら、嬉しいよ」
「あ、ありがとう」
少し驚いていたようだが、これが私の本音である。頑張って、大塚さん。私達はこの後連絡先を交換した。そして、お互いのことを『香織』、『綾乃ちゃん』と名前で呼ぶことになった。
この時は、ハルくんがモデルを始めたなんて知らなかった私達は、自宅に帰った後、ハルくんのツイッターアカウントを発見し、大層驚いた。
ハルくんめぇ。私に黙ってこんなことをするとは。これじゃあやっぱりハルくんから目が離せないよぉぉぉ。
私は心の中で、一緒に居なかったことを悔やんで叫んでいた。