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유리
ガタガタッ、と派手な音を立てて木兎はその場に尻もちをついた。
「っっっ!!」
声にならない悲鳴が喉の奥で潰れる。
ロッカーの上で死んだように寝ていたはずの男子が、突然むくりと起き上がったのだ。心臓がバックンバックンと暴れていて、本気で寿命が縮んだ気がした。
「び、ビビった……」
木兎は胸を押さえながら呆然と呟く。
一方、起こされた本人はというと、酷く冷めた目をしていた。
「……うわ」
玲央はそれだけ漏らすと、ぐしゃりと枕代わりにしていた上着を掴み、気怠そうに羽織り直す。
長い前髪と眼鏡の隙間から見える目は眠たげで、完全に“面倒なものを見た”という顔だった。
首にヘッドフォンを掛け、欠伸を噛み殺しながらそのまま音楽室を出ようとする。
「あっ!! 待て待て待て!!」
木兎は慌てて立ち上がった。
「お前、名前なんだっけ!?」
突然呼び止められた玲央は、扉の前でぴたりと止まる。
少しだけ考える素振りを見せたあと、面倒臭そうに口を開いた。
「……織田信長」
「絶対違うだろ!?」
木兎のツッコミが音楽室に響いた。
流石に木兎もクラスメイトの苗字くらいは把握している。
月城、だったはずだ。織田ではない。ましてや戦国武将でもない。
だが玲央は真顔だった。
「俺は信長だから」
「いや意味わかんねぇって!!」
木兎が叫ぶが、玲央はそれ以上説明する気など一切無いらしい。
眠そうに目を擦りながら、そのままスタスタと音楽室を出て行ってしまう。
木兎はぽかん、と口を開けたまま扉を見つめた。
しばらく沈黙。
——ふっ。
小さく漏れた笑いは、徐々に大きくなっていく。
「っははは!! なにアイツ!! 面白っ!!」
静かな音楽室に木兎の笑い声が響き渡る。
月城玲央。
いや、“織田信長”。
うるさくて騒がしい木兎にとって、大抵の人間は自分に合わせるか呆れるかの二択だった。
けれどあの男は違う。
嫌そうな顔を隠そうともしないくせに、妙にマイペースで、意味不明。
木兎はニヤニヤしながら立ち上がった。
「信長かぁ〜」
面白いやつ見つけた。
そんな顔をしていた。