ああ、あれは冷たく量の多い雨が激しく降っていたときのことだったか。
近くのバス停で雨宿りしていた彼は睡魔に襲われ少しばかりか、眠っていたのだ。
雨の音で何もかもがかき消され、他人の足音や呼吸、声などもすべて聞こえなかった。
でも心地よい水が弾く音。
だから、深い眠りに入ってしまったのかもしれない。
気がついた時には既に手遅れだった。
14歳の初夏。丁度梅雨の季節だろう。
重い瞼を上げて目を覚ますと知らない部屋にいた。寝起きだったため、状況を把握できなかったが、 だんだん、思い出してきた。
バス停で眠った自分を恨んだ。
自分は知らない男と3人でホテルらしきところにいた。
男の息の荒さ。膨れ上がった股間に目をやるとすぐさま私にがっついてきた。
初のディープキスはアルコールの味がし、ほんの少し、寄ってしまっていたかもしれない。
その後のことは思い出したくない。
何度もイかされ、気絶し、気づくとまた、路地裏にいた。
─────そう、14の初夏の話だ。
「本田さん」
「はい」
「ちょっと、この資料、高山先生に渡しといてくれない?今急いでてさ。」
「…わかりました。」
「ありがとう。本田さんて本当にいい子で助かる。」
「………いえ。」
「はは。……あ、あと。
放課後、理科準備室に来てね。」
「……、はい」
今考えれば、いい経験だったと思う。
このむさ苦しい世界での私の生き方を教えてくれたなと。
14歳までの自分が純粋すぎたのだ。
私は可愛いから、世間は何をしても許してくれる。
別に、人を騙すことが良いとことは言いきれないが、私が騙す分には……いい、よね
「なんの話~?」
「ああ、日本史の高山先生にこの資料を。と。」
「そっかそっかー!菊ってば頼られてんね!」
「それほどでもないですよ、笑」
「……………ホンダキク…」
ー放課後
「失礼します。」
「ああ、よく来たね。本田さん。」
「それじゃあ、始めようか。」
「はい」
「脱いで。あ、それとも脱がされたい?」
「…自分で脱ぎます//」
「照れてる?可愛いね」
「うるさいです」
「…笑」
この人は別に私の事なんか好きでも嫌いでもないだろう。私の身体を愛しているのだ。生まれつき感じやすい身体。その人のブツを覚えやすい身体。かわいい顔。
私には愛が分からない。
愛って、なんですか。
そんなの、表面上の物じゃないですか
どうやって示すんですか。
気持ちが伝わらないと意味がないじゃないですか。
こんなこと、本当はやりたい訳でももやりたくない訳でもなんでもないけど、その人の機嫌が良くなるなら、私にとって利益があるのなら、やったっていい。
自分を傷つけてまで相手に貢献する。
昔からそういう自分だったから慣れている。
言葉よりも体の関係の方が後々自分が不利の立場になったとして、記録がしっかりと残るから楽なのだ。
「はあ、っ♡ねえ、午後の授業、おれのことばっかかんがえてた?♡♡ 」
「はい、せんせ、のっ♡すごいのかんがえてたらッ♡♡ずっとせっくすしたくなってつらかったです♡♡♡」
「そっか、じゃあ、早く挿れてあげるn」
ピコンッ
「……………は、?、」
急に動画を撮る音が聞こえた。
誰だ。
こんなことバラされたら…もう。
「なんか聞こえんなーって思ったらよお、ンなことしてたのかよ、桐谷センセ?」
「っ!せ、生徒会長!?!」
「よォ、本田菊。テメェもここで何してんだ?随分と気持ち良がってたが…戦犯はお前か?」
「ち、ちが「そうだ!!!こいつが急に俺にッ──」はぁ!?!?」
「そうか、真面目で優秀な生徒だと思っていたけどな。見損なった。」
「待ってください!わたし、こんなはずじゃ─」
「……ふぅん…?」
「おおおおお俺は帰るッ!!!」
ガゴンッ、ゴンッと、焦って物に当たり、準備室を出ていく。
「……少し、話をしよう。」
「……………………」
こんなはずじゃなかった。
私が責められるなんて。
おまけになんですか、あの態度。
まるで、私が悪いみたいな。
こんなに可愛いのに。
怒られた。
「おい、」
「…」
「……オイ」
「……」
「おい!!」
「…」
「こっち向けっつーのッ!!!」
グイッと強引に頬を掴んできた。
もう、もういい。
なんとでも言って欲しい。
疲れた。
「……なんれしゅか」
「お前、他の先生とも関係持ってるだろ。」
「…はい」
「お、意外とアッサリ認めるんだな。認めなかったらこの写真全部ばら蒔いてやろうと思ったのに。」
今までのセックスをした時の写真が分厚い封筒から溢れ落ちてきた。
「…いつの間に、!?」
「んー、いつだろうな。…それより、教えろよ。どうしたんだ?優等生」
「……これが、正義だと思ったので」
「…イカれてんな」
「……っ、はァ、!?!」
今までの努力が全部、否定されたような気がした。
「私のどこが変だと言うのです!私は一生懸命悪と戦いながら生きていました!!…でも、それに疲れたんです…ええ、疲れたから悪になりました!……仕方ないじゃないですか、私の悪が、社会では、このドス黒い気持ち悪い世界では普通なのですから。」
「…………………そうか。」
「なあ、俺、お前に何があったのか知りたい。教えてくれよ。何があったんだ?」
「まだ心も開いていない人に言えますか」
「…きっと、辛い過去があったっつーのは分かるんだよ。…教えて。」
「………………言いません。友達じゃないですもん。」
「ともっ……だ、…」
「??」
「ああ、いや!何でもねえ…!」
「友達、いらっしゃらないのですか?」
「…ははははははは、はあ!?んな事ねえよ!ボッチじゃねぇ!栄光ある孤立だ!」
「…そうですか」
「っおい!そこは友達になる流れだろ!」
「…面倒臭い方ですねえ。」
「おい!!…ま、まあ、お前がどうしてもって言うなら?友達になってやらんことも……」
「結構です。」
「…くっっ…!」
「……………はあ、仕方ない。友達になりましょう。」
「ほ、本当か…!?」
「ただし条件が…私の友達の前で私が色んな人と関係を持っていることを言わないでください。あと、なるべく近づかないでください。」
「1つ目は分かるが…2つ目はなんでだよ!」
「だって、あなたと友達…となると……周りから変な目で見られるというか…」
「どういう意味だコラ」
「とりあえず、お願いします。」
「フン。」
「…………」
「………ぁ、…あーさーさん、////」ゴホンッ
「…!!!!ほ、ほんだぁ…!!」
「…ン”ン”ッ。…それでは、また明日。」
「…お、おう!またな。あっ、その前にちょっと待て!」
「…?」
振り向くと彼のブレザーが飛んできた。
「そ、ソレ…羽織って帰れ。はしたない…//」
「……アーサーさん……」
「…ありがとう、ございます…」
その日の帰りの天気は予報に反して、鮮やかなオレンジのあたたかな夕日が水たまりに綺麗に反射し、まるでみかんのようで美味しそうだった。
コメント
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あ、あの、ほんと、まじで、控えめに言って、ものすごく好きです…🥲🥲💕💕💓フォロー失礼します…💕💕🥹🙇♀️
ԅ( ิټ ิԅ)グヘヘヘ