時は春になり、寒さから生き延びた小さな芽が、ピンク色の花を咲かせた。
桜の道を1人歩いていると、ふと、まだ忘れられないあの人の顔がちらついた。
強い風が吹き、荒い桜吹雪に紛れて、あの記憶も曖昧になってゆく。
…、忘れたくない。そう思った。
自分がどれだけ後ろを向くことになっても、あの人だけはいつまでも、心の中にいて欲しい。
桜の花びらが散る度に、大切な思い出が消えていってしまう。
そんな、気がした。
敦「お願い、もう、…散らないで」
掴んだ花びらを胸に強く握りしめた。
…、そんなとき。
乱「敦…、やっぱりここにいた」
敦「…、乱歩さん?」
どうしてここに、と聞こうとしたけれど、その前にぎゅっと抱き締められてなにも言えなくなった。
乱「ダメだ敦」
敦「何が、です」
乱「嫌な、予感がした。証拠は何も無いけれど、敦がいなくなる予感」
帰ろう、と手を差し出される。
今はその手を取れなかった。
敦「ごめんなさい。僕はもうあの人をこれ以上忘れたくないんです。」
…申し訳なかった。
僕を思ってくれる探偵社のみんなに。ごめんなさい、と、背を向けた。
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