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「は?」


糸師凛は自分の家のキッチンでエプロン姿の兄と姪(仮)を発見し、唖然とする。


「わりぃ。兄貴。もっかい言って。」

「ちょっとパン焼いてみる。」

「は?」


再びそう淡々と告げる兄。そしてその横で目を輝かせているすいを見て凛は頭が痛かった。

オフシーズンに入ったら手を付けようと思っていたB級映画を一通り網羅した昨晩。最高の状態で睡眠に付き、いつもより少し遅めに起きて、モーニングルーティーンとも言える珈琲を飲もうとキッチンに足を運んだ時の事だった。

いつもならまだ寝ているであろう時間帯なのに、キッチンに立つ兄の姿が目に入った。

恐らく、今までの人生で一度もキッチンに立ったことが無いであろう兄がエプロンを着て、何やら試行錯誤しているのだ。声を掛ければパンを作るのだとか。巫山戯るにも程がある。さすがの凛も意味が分からなくてよろよろと近くの椅子に腰を掛けた。


「せめて自分ちのキッチンでやってくれよ。」


その呟きは冴の耳に届かず、広い家のどこかへと消えて行った。






「ところで、なんでいきなりパンなんだ?」

「ん」


尋ねると、謎の物体をこねるのを止めて、スマホを向けてくる。画面に映っているのはよくスポーツ選手をゲストとして招いている挑戦系のバラエティー番組の一部だった。再生すると見覚えのある顔があった。


「本日のゲストは世界的にも有名なサッカー選手の潔世一さんと蜂楽廻さんでーす‼」

「「今日はよろしくお願いしまーす!」」

「はーい。今日は!お二人に今話題の絵本をリスペクトして巨大料理を作ってもらいまーす!」


おお。と番組がどよめく中、画面越しにそれを見る凛は苦虫を噛み潰したような顔だった。


「突然ですが、潔さん!今話題の絵本と言えばなんですかね!?」

「えぇ?絵本…?」


笑顔で尋ねる司会者と悩む潔の顔が順番に写され、潔の隣では蜂楽が考えるようなしぐさをしている。


「ぐりと〇ら…?」


数秒間空いて潔はそう呟いた。するとどっと会場に笑いが起こる。


「惜しい…!今回お二人のお題となるのは…今人気のパ〇どろぼうです!!」

「にゃは!楽しそう!!」


いや、全然惜しくないだろ。

画面越しで蜂楽が声を上げる中、凛は冷静に突っ込んでいく。


「それでは~レッツスターティン!!」


引き気味の凛を置いて、番組の決まり文句のそれで番組が移り変わる。CMを挟んで潔と蜂楽がトークを交えながらパンを作っている様子が映し出された。それがしばらく続き、最終的には巨大食パンが出来上がった。

出演者たちと二人が談笑しながらパンを食べてそこで番組は終わった。

パ〇どろぼう関係なくね?と思った凛だったが、要するに兄たちは巨大パンを作る潔たちの光景を見て、パンを作る。という考えにいたったのだろう。という仮定を考えた。

全くその通りである。


「潔や蜂楽みたいにすいもパン作りたい。」

「なんか簡単そうに見えるし俺でもできると思う。」


いつの間にか作業の手を止め、一緒に動画を見ていた二人はぽつりとそう呟く。


「…俺は手伝わねぇからな。」



こうしてパンを作り始めた二人。だが、キッチンを任せるのは流石に怖く、凛はリビングでその様子を眺めているのだった。そこで凛はふと、思う。兄は昔から面倒見が良かったな、と。ダークスノー以来、疎遠になっていた二人だったが、サッカーを通してまた繋がることができた。そして今、兄はパンを作るほど心に余裕がある。あのブルーロック時代からは考えられないこの幸せな状況に凛は安堵の息をつく。

そしてそんな兄なら料理くらいできてしまうのでは無いか、と少し考えた。

どっかーん!!

その安堵の息をついた次の瞬間だった。


「は?」


急ぎ駆けつけると、キッチンは、兄は、すいは、とんでもない状況になっている。幸せな状況?そんなの前言撤回。

薄力粉だらけのすいに、謎の液体でベトベトになっているオーブントースター。驚いた顔のまま硬直する兄。

様子から見るに、レシピを無視してパンの生地を作り、オーブンに入れたものの、バットなどで形どらず金網にそのまま生地を乗せたため、元々べちょべちょだったパン生地が熱でさらに柔らかくなり、発熱部分に付着それがさらに熱せられ、爆発したのだろう。

そうしてこの地獄のような状況になった。すいに関しては驚いた拍子に薄力粉とぶつかって頭から被った。というところだろうか。

全て憶測だが何となく想像がつく。


「わりぃ…」

「ごめんなさい…」


珍しく謝る二人を見ると、叱る気にもなれず、片付けを手伝う。とだけ言って凛は小さくため息をついたのであった。








その夜。糸師冴のSNSに一枚の写真が投稿された。

パンを頬張っているすいと珈琲を片手にそれを眺める凛の様子だった。

『潔と蜂楽のバラエティー番組を見てパン作りに挑戦したが失敗。

そしたら昼寝している間に凛がパンを作ってくれていた。うまかった。』






【すい】

最近ハマっているのは潔たちがゲストとして出ていた例の番組を見ること。

凛がB級ホラー映画を見ている時に別室で冴と見ていた。たまたま潔たちが出ていて、しかもでかいパンを作っていて大興奮。

番組が終わって、布団に入った後も気になってなかなか眠れず…そして今朝冴に強請ると意外にもあっさり了承してくれた!

が、出来上がったパンはどろどろ。

料理って難しい…


【糸師冴】

朝はご飯派だけど、昨日の番組のことがあって急にパンが食べたくなった。そんなとき、すいに強請られ作ることにした。

が、意外と難しい。

強力粉と薄力粉の違いってなんだ?

どらいいーすと?どっかのチームの名前か?

全卵?家にある卵全部入れればいいのか?


【糸師凛】

冴とすいがお昼寝タイムに入った後、こっそりパンを焼いた。スパダリ。

凛も不器用な気がするけれど、この話の中では朝食や昼食は凛が作っている設定。


【潔世一】

滅多に動かない冴のSNSが動いてびっくり。

通知から飛んで急いで内容を確認してみたらあらほっこり。

びっくりほっこりで表情が豊かないさぎさんでした。






番外編 米


オーブン爆発パンどろぼう事件(以下、パン事件)から一週間経ったある昼のことだった。

「凛、俺実は、もしかしたらサッカー以外なにも出来ねぇかもしれねぇ。」

平日の昼で、すいはいない。いつも通りキッチンで凛が昼食を作る中、冴はリビングでお昼に放送されるお決まりの料理番組を見ていた。そんな中いきなりぽつりとつぶやいたのだ。まだパン事件のことを引きずっているのだろうか。

「そんなことねぇよ。(多分。)兄貴は面倒見良いし、容量も良いし、サッカー以外してねぇからそんな極論に辿り着くんじゃねぇの。やってこなかっただけでやったらどうせすぐできるのが兄貴だろ。」

なるべく間が空かないように、凛は冴の長所を並べた。だが、冴の表情はまだ不満げだ。

「あ、今ちょうど米ねぇわ。兄貴、米炊くの任せていいか。」

ちらりと顔を伺いながらそう声を掛けると、微妙に口角が上がったのが見えた。冴はソファーから立ち上がり、手を洗って凛の隣に並んだ。

「任せろ。で、米ってどうやって炊くんだ?」

「え、?あー」

驚いて咄嗟に出た声をカバーしようと、説明を考えるふりをする。まず、米を釜に入れてほしい。と、口を開いたところでチャイムが鳴る。遠目にインターホンを確認すると、宅配御者だった。多分、先週頼んだすい専用の椅子だ。

凛たちが使っている椅子だとすいにはまだだいぶ大きく、足が届かない。そこで冴がすいに合わせた椅子を購入したのだった。

凛は急いで米を釜に突っ込む。見てないところで分量を量らせるのは怖い。洗って貰おう。そう考えた凛は早口で冴に頼む。

「兄貴、米は釜に入れておいたから、洗っといて。無洗米だけど、日本のじゃねぇし軽く。」

「おう。」

冴が釜をシンクに持って行ったのを確認してから凛は玄関に向かった。



「兄貴、すいの椅子届いた。すいが帰ってくる前に組み立てて驚かしてやろう、ぜ……?」

は?

思わずそう声が出そうになって凛は口を抑える。視線をシンクにある釜に向けると、大量の泡が発生していた。

「え、兄貴。どうしてこうなった?」

「は?お前が言ったんだろ。洗え・・って。」

恐らく、洗う=洗剤をつける

だと思っているのだろう。

もこもこになった米を一生懸命洗う兄を見て凛は頭を抱えた。

「そういうことじゃねぇ…」

END




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