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<蒼side>
「昨日帰っちゃって良かったのか? 彼女、生徒会の仕事全然分からないのに……」
「こっちは金払ってるんだからそのくらいの仕事してもらわなきゃ割に合わねぇだろ」
心配そうにする洸黄に呆れながら、昨日のことを思い出す。
夏城赤奈。
一通り軽く身辺調査をしたが、まぁ平々凡々な家庭だ。
毎日バイトにあけくれて成績も平均、空手と身体能力自体は高いが球技やスポーツセンスはからっきし、芸術点も壊滅的。
とりあえず憂さ晴らしに仕事を押し付けてみたが、今日あたりにわんわん泣いて辞めたいと言い出すに決まっている。
「なんだ? あの騒ぎ……」
やけに人だかりができていて、その中心には夏城赤奈がいた。
「はーい押さなーい、フルーツピザはまだあるんでー。私に学食一食分奢ってくれるならあげちゃいまーす」
「きゃー!ハート型、可愛い!」
「ラテアートもすごい!」
群がる女子生徒にパック詰めされたフルーツピザとラテアートされたコーヒーを渡し、代わりに学食を奢ってもらうという商売を始めている。
「うちの別荘も掃除してくれる?」
「学校外のことは業者さんに頼んでください……オススメの業者紹介するんで」
「家にあるサッカーゴールの方も修繕頼めますか?」
「私のバイト先紹介するんでそこで頼んでください」
「湯豆腐! 湯豆腐が食べたいわ!」
「レシピ教えるんでコックさんにでも頼んで貰えます? あぁこれ私のクックパッドアカウントです」
昨日の冷めたような生徒の反応から打って変わり、俺をも凌ぐレベルの人気者になっていた。
「おいおい、昨日の一日で何があったんだよ……」
少し遅れてやって来た勇黄と桃音も戸惑っている。
普段周りにいた俺達のファンが根こそぎアイツ……夏城赤奈に持っていかれている。
「あら、会長! 新入りの夏城さん素晴らしいですね! あんなに可愛いスイーツを作れるなんて!」
「廊下が一瞬でピカピカに……!」
「会長が夏城さんを生徒会に入れた意味が分かりましたわ! さすが人を見る目がありますわ」
やっと人が来たかと思えばこれも夏城赤奈の話でもちきり。
当の本人はボケーっとだらしない顔をしながら「湯豆腐はもう作りません」とか訳の分からないことをぼさいている。
「お、冬星に垂春! 昨日の書類なんだが……」
ちょうど校舎前を通った生徒会顧問の日向先生に呼び止められ、俺たち3人は振り向いた。
どうせ昨日適当に押し付けた書類に不備があったのだろう。
なにかあれば夏城のせいにでもするか、なんて思っていたら。
「いつもより見やすくデータもしっかり記載されたレポートになっているな! 君たちも生徒会入りしてまだ日は短いが、ここまで上達するとは。特に垂春の資料は前回より確実に良くなっている」
「なっ、昨日の資料は……!」
桃音は一瞬悔しげな顔をしたが、すぐに表情を整えて「ありがとうございます」と一礼した。
勇黄はへらへらと笑っている。
「へー、あの雑用係やるじゃん」
「うっざ。ちょっと庶民が雑用したらチヤホヤされて……調子づいてるだけでしょ」
「……ちょっとじゃ、ねぇだろ」
自然と拳に力が入る。
「昨日の資料は俺達4人が3日かけて出来る量を放課後全て的確に終わらせた。それに終わらず校内で謎のスイーツ&カフェラテブームを作り出してちゃっかり学食を奢ってもらって、黒ずんだ床を甦らせ、おまけにそれをバイト先の宣伝に繋げやがった。雑用を自分の利益にしやがった、アイツ」
悔しい、ただただ悔しかった。
俺はアイツより勉強ができる。スポーツもできる。芸術センスがある……けどそれが何かを生み出したり、人の役にたったことなんて一度もない。あそこまで学院を賑わせるなんて出来ない。
経験の差が、出た。