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#コメディー
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「やれやれ、まーたフラーゴル大陸に
戻る事になるとは」
恰幅のいい赤毛の女性が、
愚痴るように語ると、
「仕方ありませんや。
こういうのは獣人族の方が向いて
おりやすけど、
連中、目立っちまいますからねえ」
チンピラのような細身の男が彼女に返す。
「そうですよぉ♪
ブロウさん、ジャーヴさん。
それに私どもの実力を見込んで、
と言われましたらねぇ。
人気者は辛いってところですか♪」
ピエロのように、顔に★マークを付けた
リコージが二人の会話に割って入る。
「俺たちは夜間、それも警備が厳重な
地点を任されているからな」
「だがまあ確かに、昼も夜も人間がたくさん
いる場所ってのもある。
そこはさすがに俺たちは入れねぇからよ」
彼らの仲間だと思われる獣人たちも、
その話に続く。
ここはクアートル大陸・ランドルフ帝国を
経由し、フラーゴル大陸・ザハン国に向かう
船内―――
そこに集まった『見えない部隊』メンバーは、
とある作戦を前に語り合っていた。
「しかし、あの訓練の目的……
確かにそんな事になりゃ、連中を
震え上がらせるには十分だろうけどさ」
「『お前らの動向なんてお見通しだぜ』
『それより、身の回りに気をつけな』
って言い放つも同然―――」
「あのシンって人、結構えげつない性格を
しているんですねえ」
ブロウ・ジャーヴ・リコージの三人がそう
話すと、
「余も付き合ってそこそこ長いが、
奥方や周囲の人間の話を聞くに……
思わずうなる事もある。
だがあのように清濁併せ吞む者こそ、
この世に必要なのであろう」
そうシンの人物を評したのは―――
この場には似つかわしくない、
ベージュのような薄い黄色の撒き毛をした、
五・六才くらいの少年で、
その両隣りには、やや外ハネしたミディアムボブの
パープルの髪をした女性と、
褐色よりも黒い肌に白髪をなびかせた、
ダークエルフのような女性が控えていた。
「でもねぇ、魔王・マギア様と……
その腹心であるイスティール様、
オルディラ様まで来るなんて」
元裏社会の組織のボスである女性が、
呆れるように反応すると、
「仕方があるまい。
何せ連中、あの大陸全土を支配下に
置こうと企んでいたらしいからな。
フィリシュタをなだめるためにも、
余直々に動くしかなかったのだ」
外見は少年の魔王も、ため息をつきながら
答える。
タクドルの、あの一千隻の船団来襲は、
同盟諸国にも当然伝えられ、
それは魔族領経由で魔界に―――
そして魔界王であるフィリシュタの耳にも入り、
未遂ではあったものの、すでに地上との交易や
つながりが密接であった彼女は……
そのバトルジャンキー的な性格も手伝って、
さっそくフラーゴル大陸への侵攻を行おうと
したが、
まずは地上の方で威嚇・けん制行動を取るので、
待機してくれと返していたのである。
「あちらに『ゲート』を作り、いつでも
攻め込めるようにしておくからと言って、
やっと落ち着いてくれたんですよね」
「フィリシュタ以外にも血の気の多いアホ―――
もとい、猛者たちがいますから。
何とか今はそれで大人しくしていますが」
イスティールとオルディラも、互いに顔を
見合わせながら、眉間にシワを寄せる。
「しかし一番の被害者というか、苦労人は
ミッチーだな。
今のところ、彼女にしか『ゲート』の
維持管理は出来ないし」
ミッチーというのは魔界王・フィリシュタの
秘書的な部下であり……
現状、世界各地にある『ゲート』設置は、
彼女一人によるものである。
そこでジャーヴが首を傾げ、
「話を聞くに―――
そのお人だけしか出来ないんですかい?」
「制度というか運用的には、ちょーっと
不安が残ると言いますかぁ」
次いでリコージも指摘すると、
「もともと魔界と地上を結ぶために作った、
いわば例外的な魔法ですからね」
「まさかこんな使い方をされるとは、
当人も思って無かったでしょうけど。
ただ魔族ですから、人間と比べればとても
長生きですし……
彼女に何かあればフィリシュタが黙って
いないでしょうから。
一応、『ゲート』の使い手を探したり
育成したりはしているようですけどね」
魔族女性二人の答えに、『見えない部隊』の
メンバーはうなずき、
「そこはまあシン殿も、何かしらお土産を
用意しておくと言っていたしな。
我々は我々で―――
任務遂行にあたろう」
そして彼らを乗せた船は……
静かに海面を進んでいった。
「連中、今頃はランドルフ帝国かな?」
「まだ早いと思うッス。
ティエラ王女様がいれば話は別ッスけど」
アラフィフの、グレーの白髪交じりの頭をした
マッチョなギルド長と、
次期ギルド長である、黒い短髪の褐色肌の
青年が語り合う。
あの後、『見えない部隊』のメンバーは、
三日ほど訓練を受けた後、ランドルフ帝国へ
向けて出港。
そこを経由してフラーゴル大陸に向かい―――
ザハン国、ひいてはメナスミフ自由商圏同盟へ
とある工作を行うため、潜入する予定だ。
「そういやシン。
児童預かり所のチビたちへの差し入れ、
ありがとうな」
「いえ、ミッチーさんへ手土産を送る
ついでみたいなものでしたから。
自分も久しぶりに、いろいろと料理
出来ましたしね」
今回、また『ゲート』を作ってもらう
ミッチーさんに、甘味セットのような
物を作って送った。
各国でも畜産関係が盛んになり、
牛乳の供給量も増えて来たので、
主にクリーム系でクッキーサンドやプリン、
ロールケーキを作成。
また鬼人族の里から羊かんが、天人族の里とも
和菓子のようなスイーツが取り引きされており、
それらを詰めてフィリシュタさん、そして
ミッチーさんにも個人宛で送付したのだ。
「しっかしまあ、あの訓練か?
まーたえげつない事を考えたなぁ」
「相手のとらえようによっちゃ、
『いつでもお前なんか殺せる』って
事ッスからねえ」
ジャンさんとレイド君が息ピッタリに
私に視線を送る。
「し、仕方が無いじゃないですか!
私だって結構無茶ブリされたんですから!」
私が『見えない部隊』に課した訓練、
それは……
『要所や施設に忍び込み、あえて潜入した
痕跡を残して来る事』
である。
そしてそれは警備が厳重であればあるほど、
効果も高い。
いつ見つかってもいいし、さらにこちらから
『〇〇の奥を調べてみろ』と言って、
発見させるのがベストだろう。
少なくとも、『戦って一方的に勝てる
相手ではない』という認識は植え付けられる
はずだ。
「まあ、後は結果待ちか。
しかしそろそろ肌寒くなってきたなあ。
昼は何食う?」
そう言いながらジャンさんが背伸びをして、
「定番なら騎士団セットッスけどね。
(ラーメン+チャーハン+ギョーザ定食)」
「私も、今日は妻たちが児童預かり所で
お昼を食べるでしょうし―――
あ、そういえばパイコーメンを担々麺で
出す店があったような」
すると二人はその言葉に反応し、
「おー、いいなソレ」
「そこにするッスか!」
そこで昼食のメニューが決まり……
私たちはそこへ向かう事となった。
「ギルドマスター、御覧になりましたか?」
「ああうん、自分も今見たところ」
ピンクヘアーの巻き毛をした女性に、
中肉中背だが目付きの鋭い、シルバーの短髪の
男性が答える。
ここはランドルフ帝国帝都・グランドール―――
そこの冒険者ギルド本部。
そこのギルドマスターの部屋で、とある話題が
交わされていた。
「この帝国と、ドラセナ連邦……
モンステラ聖皇国と大ライラック国。
クアートル大陸の四大国の同盟発表。
まさに歴史の転換点!
って気がしますね」
ギルドの受付職員カティアは、興奮気味に話す。
「四ヶ国の共同声明で、大陸中央の未開拓地を
開発しているけど、
あれから半年くらい経っているのか。
それで互いの現状がそれぞれの国に
知れ渡れば、まあこんなものかもね」
ベッセルギルドマスター―――
その正体はエルフ族であり、モンステラ聖皇国の
スパイも務めていた彼は、感慨深げに語る。
「これもやっぱり『境外の民』―――
シンさんのお力によるものでしょうか」
女性職員が何気なく疑問を口にすると、
「影響は極めて大きいだろうね。
彼が帝国に来てからというもの……
娯楽や料理は言うに及ばず、奴隷の待遇改善、
亜人・人外への差別緩和―――
それらが受け入れられ、浸透した事も
原因の1つだろう」
ギルドマスターはうなずきながら返し、続けて、
「『境外の民』とはこういう存在なんだよ。
歴史が大きく変わる時……
その変化の原動力になっている事が多い。
表であれ裏であれ、ね」
「そういえばアウリス様は、『境外の民』に
何人か会っているんですよね?
じゃあ、ギルドマスターに取っては、
何度か経験している事で、そう珍しい
事でも無いって事ですか」
(■261話
はじめての きみつかいじょ参照)
カティアがそう言うと、彼は首を左右に振り、
「大きな変化は何度か見たけど、こういうのは
珍しいかな。
それに変化って別にいい事だけじゃない。
当然、悪い方向にも働く場合がある。
『境外の民』の力が大きければ
大きいほど―――」
そこでギルドマスターは女性職員の方を向いて、
「少し、昔話をしようか。
辺境大陸……
かつてこのランドルフ帝国と同じく、
帝国を名乗っていた国の事だ。
そこに1人の『境外の民』が現れた。
彼はとてつもない威力の魔法の使い手で、
戦争ともなれば無敵。
そんな彼が目指したのは何だったと思う?」
「世界征服、とか?」
カティアが首を少し横に傾けると、
「彼はシンさんと同じ世界から来たのだろう。
ただ、大規模な戦争が終わってから、
間もない頃の時代だったらしい。
そして彼はこの世界に来て―――
様々な差別や迫害を目の当たりにした。
特に獣人族のね」
そこでアウリスは飲み物に口をつけて、
「彼にはそれが耐えられなかったのだろう。
そして救う『力』も持っていた。
彼はその帝国の参謀として、あるいは
戦力として……
周辺諸国に戦争を吹っかけた。
『奴隷解放・亜人差別撤廃』という
スローガンを掲げてね。
結果、どうなったと思う?」
「あれ?
それって、シンさんがやっている事とあまり
変わらないんじゃ」
女性職員が聞き返すと、
「そうなんだよ。
ただ問題はその方法、やり方だった。
メリットがあれば反面、デメリットも
存在する。
それに対する配慮が全く無かったんだ」
そこで彼は少し視線を彼女から外し、
「各国を支配下に置いた後―――
いきなり奴隷止めろ、亜人差別止めろ、
だったからねえ。
いきなり奴隷から解放された人たちは、
職も住むところも失った。
亜人も、差別だと指摘される事を恐れた
取引先が、一斉に関わるのを止めて
しまったんだ」
「うわあ……」
その答えにカティアは思わず口を開ける。
「気の毒なのはその子供たちさ。
人間も亜人も問わず孤児が急増。
しかも獣人は少数種族だったから、
人間優先で孤児院にも入れない。
餓死が嫌なら盗賊とか、犯罪者に身を堕とす
しかない。
確かにその『境外の民』は―――
奴隷や獣人を幸せにしたかったんだろう。
そしてそのために戦う力も持っていた。
だけど、それだけじゃダメだという事を
考えるには、彼は若過ぎたんだよ」
アウリスは遠い目を何も無い空中に向ける。
「以前、3人ほど『境外の民』に会ったと
言ったけどさ。
残りの2人はまあ……
この世界にきちんと適応したというか。
1人はとある国の王となり、もう1人は
ハーレム作って好き勝手にやっていたけど。
皮肉なのは―――
こっちの方がまだ全然被害が少なかったって
事だよ」
そこで彼はフー、と大きくため息をつくと、
「えっと、じゃあシンさんの場合は……」
「例外中の例外だねえ。
直接的な要求はせず、まず損得で利益を
提示し、実行した後の影響まで考えて、
着実に段階を踏んで進めていく。
それに理解者に恵まれたという事もある。
施政者が非常に優秀なんだろうねえ。
発展とリスクを天秤にかけて、ちゃんと
制御している。
シン殿が『境外の民』という異能な存在なら、
それをスムーズに受け入れる方もまた、
異質の天才だ」
そこでようやくアウリスは、カティアの方へ
視線を戻す。
「正直、シン殿が出現した国が、覇権主義で
なくて良かったと心の底から思うよ」
「わかってはいるつもりでしたけど、
シンさんって結構すごい人だったん
ですね―――
あ、そういえば、他の『境外の民』って
結局どうなったんですか?」
興味津々な目で聞いて来る彼女に対し、
「最初に話した『奴隷解放・亜人差別撤廃』を
掲げた彼だけど、
獣人や奴隷解放後の人たちの現実を知った後、
全財産をその補填に充ててくれと言って……
その後は歴史の表舞台から姿を消したよ。
自分が引き起こしてしまった結果に、
耐えられ無かったんだろうなあ―――」
「あ~……」
さもありなん、というふうにカティアは返す。
「王になった男は寿命を全うしたし、
ハーレムを作った方もまあ幸せな
人生だったんじゃないかな。
当人は、だけど」
「?? と言いますと?」
彼女の質問にアウリスは、
「だって基本、その『境外の民』が異様に
強い魔法や力を持っているってだけで、
そいつの周辺はそれより弱いか、
『ただの人』だもん。
それが調子に乗っていれば、他から恨みを
買っている場合もあるわけでさ。
そりゃあ『境外の民』がいなくなれば―――」
「あ~……」(2回目)
しばらく微妙な沈黙が続いた後、
「あの、じゃあシンさんは」
「彼はそんな事無いと思うよ?
人助けをいっぱいしているようだし、
メルビナ大教皇様の救出も、彼の力による
ところが大きい。
何より当分死なないんじゃないかな?
ドラゴンが奥さんだしね」
ギルドマスターの言葉に女性職員は首を傾げ、
「??
奥さんがドラゴンだと長生き出来るん
ですか?」
「あー、結婚すると交わるからか、影響を
受けるんだよ。
それでたいてい、寿命が長かったり、
魔力が強い方に引きずられるんだ。
例えば自分とカティア君が結婚したとする。
すると君はエルフ族の寿命と同じに―――」
するとカティアは目を輝かせ、
「いっ今の!
プロポーズって事でいいんですよねっ!?」
「……はい?
い、いや今のはただの例えであって」
「じゃあ私、さっそく職員たちに報告します!
これから結婚式に向けていろいろと予定を
調整しなければなりませんし!!」
「いや、あの、ちょ」
「えっと両親にも連絡して、後友人知人―――
あと式場の選定とか日取りも……!
うひゃっほおぉうううっ!!
こりゃ忙しくなりそうだぜえぇええっ!!」
そしてベッセルギルドマスターが止める
間もなく、彼女は嵐のように部屋を退室した。
「んで、お昼は何食べたの?」
「ジャンさんとレイド君と一緒に、
担々麺のパイコーメンを食べたよ」
「おお、それはうまそうじゃのう」
童顔の、アジアンチックな顔立ちの妻と、
欧州モデルのような彫りの深い顔をした妻が、
料理を食べながら会話に興じる。
屋敷に戻った私は、家族と一緒に夕食の時間を
過ごしていた。
「あ! ダメダメ!
シンイチもリュウイチも、これはまだ
食べちゃダメなのー!」
黒髪ショートの、真っ赤な瞳を持つ娘が、
弟たちが自分の食事に手を伸ばすのを
注意する。
「離乳食を食べ始めるようになったからなあ。
こっちが食べているのは気になるよな」
二人とも、産まれてからすでに8か月くらい
経過しており―――
少しずつだが離乳食も始まっている。
「でもシンイチはともかく、リュウイチは
大丈夫なの?
ほら、ドラゴンの方が成長は遅いんだし」
メルが心配そうにアルテリーゼに聞くと、
「しかし、産まれた時から人間の赤ちゃんの
姿だしのう。
一応、シャンタルと一緒にレアンドロと
キアーラに聞いてみたが……
外見で判断しても構わないのではないか?
という事であった」
レアンドロさん・キアーラさんというのは、
アルテリーゼと同じくドラゴンの夫婦で、
すでに自分たちの子育ては一段落しており、
今は公都で警備パトロールをしてくれている。
「そういえばのう。
パック殿とシャンタルが、シンに相談したい
事があると言っておったが」
「ん? 何かあったのかな?」
私が聞き返すと、
「シンイチとリュウイチの定期健診に行く時に、
ちょこっと聞いただけだから。
でも緊急とかそういうんじゃないんじゃ
ないかな?」
「山羊がどうとか言ってた気がするー」
??
山羊がパック夫妻とどう関係してくるの
だろうか?
「うーん、緊急ではないと言われても、
却って気になるなあ。
明日にでも顔を出してみるよ」
そうして私たちは夕食を終え、私は明日に
備える事となった。
「母乳代わり、ですか」
「はい。
牛乳でもいいのとは思うのですが―――」
「シンさんのお話ですと、1歳くらいに
なるまでは牛乳はダメだという事でしたので」
翌日、パック夫妻の屋敷兼研究施設兼病院を
訪問した私は、
中性的な顔立ちの、銀の長髪を持つ
パックさんと、
白銀の長髪の女性、シャンタルさんから
話を聞いていた。
「確かに、山羊の乳は母乳の代用になると
言いましたけど。
ただ畜産は始めたのが遅かったので、
どうしても数が足りないんですよね……」
話の内容はと言うと、ベビーラッシュに
なっている公都で、中にはあまり乳の出が
よくないお母さんもいるのと、
牛乳も確かに母乳の代用になるけど、
お腹が落ち着く一歳くらいまでは飲ませる事は
出来ない、という話もしていたので、
山羊乳に需要が集中した結果、足りなくなって
いるのだという。
「以前はそういうお母さんたちのために、
魔狼たちが乳を分け与えてくれていたん
ですけど」
「ただ母乳を提供出来る魔狼たちの数にも、
限りがあります。
彼女たちにも、乳を上げなければならない
子供もいますし……」
乳が出るというのはそういう事だからなあ。
引き受けるにも限度があるか。
「―――わかりました。
そういう事情でしたら、山羊の補充に
動きましょう。
チエゴ国郊外に、遊牧民がいたはずですので。
彼らに頼んでみます」
「お願いします」
こうして私は急遽、チエゴ国郊外まで
飛ぶ事となった。
『あそこに行くのは久しぶりじゃのう、
シン』
伝声管を通じて、アルテリーゼが『乗客箱』の
中に話しかけて来る。
かつてダシュト侯爵家に、ルクレセントさんの
屋敷を返却する運びになった際、
そのお礼として、侯爵家の料理を教えてもらう
事となり……
乳製品の原材料となる家畜を飼っていた、
遊牧民を紹介してもらった事があるのだ。
(■121話
はじめての にゅうせいひん参照)
「すまないな。
子供が産まれたばかりなのに、あちこち
付き合わせてしまって」
「そうは言われてもねー。
同じ赤ちゃんを持つ母親としては、
放っておけない話だよー」
私が謝ると、メルがそう返して来る。
『またラッチにシンイチとリュウイチを任せて、
置いてくる事になったのは、心苦しいがのう。
土産もたんと用意せねばな』
「そうだなあ」
伝声管を通じ、妻たちとお互いに苦笑すると、
「……んっ?
アルちゃん!!」
『うむ、わかっておる』
不意にメルとアルテリーゼが反応し、
思わず窓から下をのぞくが、そこは
砂漠が続いているだけで、
「違うよシン!
空!!」
人間の妻の指摘にハッとなって視線を上げると、
「何だ、ありゃ」
我ながら間の抜けた声を上げる。
こちらと同じくらいの上空に―――
ドラゴンのアルテリーゼより、一回りか
二回りほど小さな大きさ……
とは言っても尋常ではない大きさのそれが
羽ばたいていて、
見た目はというと、大きな曲がったクチバシを
持っていて、地球でいうところのサイチョウに
そっくりな姿をしていた。
それがこちらの進行方向に現れ、
「ドラゴンがいるのに向かって来るのか?
そんなに強いのか、あれは?」
私が疑問を口にすると、
『いや、多分あれはおこぼれ狙いじゃな』
「ドラゴンが持っている獲物―――
この『乗客箱』をそれと勘違いして
いるんじゃ?
で、ちょっかいをかけて『乗客箱』を
落とすか、かっさらう事が出来ればいいと
思っているんじゃないかなー」
妻二人の話に私は頭を抱え、
「念のために聞くけど意思疎通は?」
「え? 怪物サイチョウの事?
逆に聞くけど出来ると思うー?」
『そもそも我に手を出す時点で、
知能は絶望的じゃなあ』
そうメルとアルテリーゼにダメ出しされて、
「……仕方がない」
私は伝声管を手に取って、
『その大きさで飛行する―――
ましてや魔力によって飛ぶ鳥類など、
・・・・・
あり得ない』
私がそうつぶやくと、『ウォンッ!?』という
犬の鳴き声のような声が聞こえ、
窓を見ると地上に向かって落下していく……
怪物サイチョウの姿があった。