コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「葉月~、こっちこっち~!」
翌日、約束の時間十五分前に待ち合わせ場所に着いた私は一番乗りかと思っていたのだけど、杏子の方が早かった。
男の人と二人きりで会うのはどうしても嫌だったから、杏子と紹介された男の人とその友達の四人で会う事になっている。
私の姿を見つけた杏子は、いつもの様に明るい笑顔を向けながら手を振っていた。
「杏子、早いね」
「そうなの。ちょっと早く来すぎちゃってさぁ~ってか今日の葉月、いつもより可愛い!」
「え、そ、そうかな?」
「うん! 葉月ってば大学は大体ジーンズとかパンツ系が多いじゃん? スカートとか滅多に見ないし、ワンピースとか初めて見た! 可愛いよ」
「あ、ありがとう」
可愛いを連呼され何だか妙に照れ臭くなった私は、とりあえずお礼を口にした。
杏子は相変わらずお洒落で私なんか到底適わないけど、可愛いと言われるのは素直に嬉しい。
そうこうしているうちに、
「お待たせ」
「どーも」
杏子の知り合いの男の人がやって来た。
二人は杏子の中学時代の同級生で、どちらももの凄いイケメンだ。
紹介してくれると言っていた男の人は、浦部 航太くん。
髪は明るめの茶髪で気さくというか少し女の子慣れしてそうで、軽いという印象を持った。
もう一人は浦部くんの友人、楠木 瑛二くん。
楠木くんは浦部くんとは対照的で大人しめというか口数が少ないというか、一言で言うなら小谷くんに近い印象を持った。
「ってか、葉月ちゃん? めっちゃ可愛いね」
互いの自己紹介を軽く済ませた私たちは気兼ねなく話せる所という事ですぐ近くにあったカラオケ店に入り、席に着いたタイミングで浦部くんがそんな事を口にして来た。
「いや、そんな事ないです……」
「でしょ? 可愛いよね!」
「ちょ、ちょっと、杏子……」
私が反論すると、言葉に被せるように浦部くんの言葉に同調する杏子。
私の事はともかくとして、浦部くんと杏子は何だか凄く仲の良さそうな雰囲気だ。
「みんな、何頼む?」
二人が盛り上がる中、マイペースにそう聞いてきたのは楠木くん。
「俺コーラ」
「あ、私も」
「この唐揚げポテトプレートってのも頼もうぜ」
「いいね! あ、後これは?」
「由井さんは?」
浦部くんと杏子が口々に注文する物を話し合っている中、気を利かせてくれたのか楠木くんが私にも聞いてくれた。
「あ、えっと……じゃあ、オレンジジュースで……」
だけど、緊張していた私はそう答えるのが精一杯で、何だか素っ気なく見えているのではと気が気でなかった。
暫くして、二人と話す事に徐々に慣れていき、カラオケ店で五時間程過ごした私たちが店を出ると、空は厚い雲に覆われて今にも雨が降り出しそうな天気に変わっていた。
「うわ、何か雨降りそう」
「今日雨予報だったっけ?」
「どうだろ? ってか、この後どうする?」
杏子たちが話し合っている中、私はボーッと真っ直ぐ前を見つめていると、バイトの帰りなのか駅の改札口に小谷くんの姿を捉えた。
ただ、何気なく彼の姿を目で追っていた私。
そんな私の視線に気付いたのか、それともただの偶然か小谷くんがこちらを向いて視線がぶつかった。
「どうかしたの、葉月?」
「え? あ、ううん、何でもないよ」
「ふーん? ま、いいや。これからご飯でも食べに行こうかって事で話纏まったんだけど、葉月は何食べたい?」
天気も悪くなりそうだし、もうお開きかなとも思ったけれど、どうやら違うらしい。
「何でもいいよ、みんなに合わせるよ」
食べたい物の候補も特にないのでそう答えた。
「じゃあファミレスでいいんじゃん?」
「そうだね」
杏子たちの会話を聞きながらもう一度小谷くんが居た方に視線を向けたのだけど、いつの間にか彼はいなくなっていた。
そして気づけば、私は流されるままにファミレスへ向かう事になった。
ファミレスに着いて少し経った頃に土砂降りの雨が降り、雨宿りも兼ねて暫くファミレスで時間を潰した私たち。
それから更に時は経って時刻は十九時過ぎ。
「俺、二十一時からバイトだからそろそろ帰る」
という楠木くんの言葉で、ようやくお開きになった。
「葉月だけあっち方面かぁ……」
「あ、俺送って行こうか?」
店を出て一人だけ帰る方角が違う私を心配した杏子の言葉に浦部くんが送ると言ってくれたのだけど、
「大丈夫です。人通りも結構ありますから」
申し訳無い気持ちと、二人きりは不安な気持ちから断った。
帰り際、連絡先を交換して欲しいという浦部くんにメッセージアプリのIDを教えた後、皆と別れて一人歩いて行く。
「……ふぅ……疲れた」
自宅までは歩いて約三十分ちょっと。
行きは電車で来たけど、雨も上がったし夜風が気持ち良かった事もあって徒歩で帰る事にした私は繁華街を抜け、出来るだけ明るい道を選びながら歩き進めて行く。
浦部くんも楠木くんも良い人ではあったけれど、気を遣いすぎて疲れてしまった。
(やっぱり、男の人と話したりするのって、苦手だな)
そう思いながらアパートへ向けて足を進めていくと、ふいに後ろから私のとは別の足音が聞こえてきた。