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住宅街だし、まだ時間も早いから人が歩いていたって珍しい事ではないのだけど、なんと言うか歩くペースが同じなのだ。
(……後、尾けられてる?)
気のせいかとは思ったのだけど、どうしても気になった私が一度立ち止まると、もう一つの足音も止んだので私は確信する。
(やっぱり、尾けられてる!)
怖くなった私は全速力で走り出す。
もう少し行けばコンビニがあるのでそこまで行けば安心と、ただひたすら走って行く。
「はあ、はあ……」
そして数分後、何とか無事にコンビニに辿り着けた私は店内へと入って雑誌コーナーへ行き、外の様子を窺いながら雑誌を読むフリをするも、怪しい人物の姿は見当たらない。
(やっぱり、気の所為だった?)
勘違いだったのかもとは思うも、確かに私以外の足音も聞こえたし、走っている時も誰かが付いてきている気配があった。
(どうしよう……外出るの怖い)
仮に暫くコンビニで時間を潰したとしても、アパートに帰る為にいずれは外へ出なければならない。
(どうしよう……)
アパートまで後十分程の距離ではあるが、また後を尾けられたりしては怖い。
お金は勿体ないけど、安全を取ってタクシーを呼ぶか迷っていると、
「おい」
「ひゃあ!?」
後ろから声を掛けられ、肩を叩かれた私はぴくりと肩を震わせて声にならない声を上げた。
「驚き過ぎ」
「こ、小谷くん……」
声を掛けてきたのは小谷くんで、彼の姿を見た事でここが彼のバイト先だった事を思い出した。
「もう帰るとこ?」
「う、うん……小谷くんは? バイト終わり?」
「そ」
私の問い掛けに短く頷く小谷くん。バイト終わりという事はこれからアパートに帰るはずだ。
「あ、あの、小谷くん……一緒に、帰らない?」
一人で帰るのが怖い私は回りくどい言い方をせず一緒に帰る事を提案すると、
「……別に、構わねぇけど」
一瞬驚きの表情を見せつつも、私の提案に賛成してくれた。
これでひと安心と安堵した私は手にしていた雑誌を棚に戻しながら「じゃあ、帰ろうか」と言って店を出ようとすると、
「つーか、何か買いに来たんじゃねぇの?」
何も買わないで出ようとしている事に不思議そうな表情を浮かべている。
「あ、うん、特に何も……」
「じゃあ何しに来た? 立ち読みが目的……の割には、適当なの取った感じだけど」
ついさっきまで私が手にしていた雑誌をちら見しながら言う。
そう思うのも無理はない。私が咄嗟に手に取っていた雑誌はメンズのファッション誌だったから。
(きちんと話した方が、いいよね)
こうなったらきちんと理由を話すべきだと考えた私は、
「その……実はね――」
小谷くんにここへ来るまでの出来事を話始めた。
私の話を聞いた小谷くんは辺りを警戒しながら店外へ。
危険だからと雑誌コーナーに留まっていた私は彼の合図を受けて外へ出た。
「誰も居る気配はねぇから、とりあえず平気だろ」
「そ、そっか……」
その言葉に安堵した私はそのまま彼と並んでアパートへの道を歩いて行く。
「心当たりはねぇの?」
「え?」
「後、尾けられたんだろ? 相手に心当たりない訳?」
「うん。確認しようにも怖くて後ろ振り返ったり出来ないもん、分からないよ」
「……まあ、それもそうか」
私の言葉に納得した小谷くんは何かを考えているのか黙ってしまう。
暫く無言の状態が続き、アパートが見える位置までやって来た頃、
「尾けられたのって今日が初めてか?」
「うん」
「たまたま通りがかったお前を狙ったのか……それとも、最初からお前を狙ったのか……」
「やだ……怖いこと言わないで……きっと、たまたまだよ……」
私の言葉を聞いているのかいないのか、彼は考え込むように俯いている。
「……小谷くん?」
「まぁ、ひとまず今日はもう大丈夫だろ。けどまぁ、暫く気を付けた方がいいぞ」
彼の中で考えが纏まったのか、顔を上げて言った。
「う、うん、そうだね。気をつけるよ」
とは言ったものの、何をどう気をつければいいのか分からないのだけど、今はそう頷くしかなかった。
翌日、講義を終えた私はバイト先の本屋へ向かう為に歩いていた。
昨日の事で不安はあったけれど、昼間だし人通りはそれなりにある通りだからと大した警戒もせず、それこそいつも通りに歩く。
そのまま人通りのあまりない通りへ差し掛かった時、昨日と同じく何者かの気配を感じた。
(……また、尾けられてる?)
昼間だと油断したのがいけなかった。
今歩いているのは人通りのあまりなく、車が入れないような細い道だ。
(とりあえず、早く大きな通りに出よう)
昨日の出来事を思い出した私は少しずつスピードを速めていく。
すると、やはり後ろを歩いていた人物も私を追うようにスピードを速めて付いてくる。
(バイト先、知られたくないから……撒かなきゃ……)
バイト先の本屋は繁華街を通り抜けた先にあるのだけど、このまま場所を知られてしまっては帰りも危険が増えてしまう。
私は繁華街で上手い具合に人混みに紛れ、何とか撒くことに成功して無事に本屋へ辿り着けた。