「なぁ立場、逆転してみない?」
時期的にもテストが目前で、大変な立場である太郎から放たれた言葉に、ぎゅっと眉根を寄せてやる。
(立場を逆転させるって、いったい!?)
勉強のし過ぎで頭の一部が可笑しくなったのかもと、夕飯を食べてる手を止めるべく、箸をテーブルに置いた。そのまま立ち上がり、向かい側にいる太郎の額に手を当ててやる。
(熱はないな、よし――)
「ちょっ、何のチェックしてんだよ。タケシ先生」
「お前がワケの分からない、日本語を口走ったからだ。心配するに決まってるだろ」
胸の前に腕を組んで太郎を見下ろしてやると、唇を尖らせて文句を言ってくれる。
「ワケの分からない日本語なんて、言ってねぇし。ただちょーっとばかし、息抜きしたいんだってば」
――着ぐるみを着て、子どもたちと散々遊んでるクセに、なにを言ってるのやら。
その言葉に顔を引きつらせると、右手人差し指を立て、偉そうな顔して俺に提案しだす。
「あのさ、タケシ先生が患者になって、俺が医者になるんだ。優しく診てあげるから、やってみようよ」
「(;゜д゜)。oO(ぇ・・・)」
ナニを優しく診る気なんだ、コイツ――
「たまにはさー、患者側の目線から医者を見るっていうのも、大事だと思うんだよね」
そもそもお前は医者じゃないだろ! そんなヤツから、何を学べというのだろうか。
胸の中にモヤモヤを抱えながら席に戻り、夕飯の続きを食べはじめた。
「ねぇ、タケシ先生ってば」
「分ったよ。だったら後片付け頼んだよ。準備してくるから」
残ったご飯をかき込み、リビングから下の病院に移動。クリーニングに出す白衣と、滅菌済みの聴診器を手に戻った。
それらを持ってソファで待機してると、後片付けを終えた太郎がワクワクした顔で傍にやって来る。
「ほら、医者だろうが何だろうが、好きにやれば」
押し付けるようにそれらを手渡し見上げると、喜びながら白衣を着て聴診器を首にかけた。
「ねっ、どう? 医者っぽい?」
白衣を着ただけでみんなが医者っぽくなったら、それこそ詐欺だろ。だけど――
「ま、いいんじゃないの……」
どきまぎしながら俯く俺の前に太郎は跪き、そっと右手を取った。
「周防さん、今日はどうされましたか?」
「えっ!? あ、その……」
「顔がほんのりと赤いですよ。熱があるかもしれません、胸の音を聞いてみましょう」
耳に聴診器をかけて、今すぐに聴くぞとアピールしまくるニセ医者の太郎。
「(*・-`ω´-*)ゞやらなくても……」
「医者のいうこと、ちゃんと聞いてくださいね周防さん」
「(。・-_-。)……分ったよ」
すごく恥ずかしかったけど、仕方なく着ているシャツのボタンを外していった。外しながらチラッと目の前に視線を移すと、物欲しそうな顔をしたニセ医者が、目をランランとさせているではないか!
――アブナイ医者にしか見えない……
渋々前を肌蹴させて太郎にお披露目したら、心臓の辺りに聴診器を当てる。
「うおっ、バクバクした音がハッキリと聴こえる!」
「そうかい、よかったな」
「しかも何気に早くね? 心音」
そりゃそうだろ。目の前にアブナイ医者がいると思ったら、落ち着いていられないからな。
「……心拍数の数だけ、お前への想いが溢れてるってことだよ」
適当な言葉を言ってやると、太郎は突然白衣を脱ぎだした。
「じ、じゃあ、さ。その想いに応えるべく、今ここで更に想いを深め合おうじゃないか、タケシ先生!」
「ハッ!!Σ(ll゜Д゜ノ)ノ」
(どうしてそうなる!?)
白衣は脱いだけど聴診器を耳にかけたまま、何故か襲ってきた太郎になす術がなくて、固まってしまった。てか何のプレィなんだ、これ――
歩目線につづく(・∀・)