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深夜に書いたやつ
病み赫と紫の紫赫です。 主の大好きなやつ。
血見たな表現は一応、無い。
いじめ表現は少しある。
♡┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈♡
「メンヘラな俺も、愛してくれるんでしょ?」
不安を誤魔化すみたいに笑って、そう聞いた夜のことを、今でもはっきり覚えている。
あいつは一瞬も迷わず、優しい声で答えた。
「あぁ、もちろん。」
その言葉を、俺は信じた。疑う余地なんてなかった。
それなのに。
気づいたら、あいつは平気な顔で嘘をつくようになっていた。 スマホを伏せて置く仕草。
遅くなる理由の曖昧さ。 名前を呼んだとき、ほんの一瞬だけ走る罪悪感の影。
浮気。 その二文字を認めた瞬間、胸の奥がぐしゃりと潰れた。
とんでもないクズだ。
そう思うのに、嫌いだと何度も言い聞かせるのに、心は離れてくれない。
別れようって、何度も考えた。
頭の中では何度も別れてる。
でも、現実の俺は指一本動かせない。
だって、怖い。
あいつがいなくなる夜を想像する方が、裏切られる痛みよりも怖かった。
カーテン越しの街灯が、床にぼんやりと影を落としている。
俺はソファに沈み込んだまま、呟いた。
「……今日も、帰ってくんの遅いのかな」
俺は、ドアの音を待っている。 愛してくれると言った、あの声を、まだどこかで信じながら。
「薬、……」
そう呟いて、ゆっくりと体を起こす。
眩暈が少しだけして、壁に手をつきながら棚に近づいた。
そこに置いてある、いつもの薬。
赤と白のカプセル型。危なくなんてない、ただの頭痛薬。
最近、体調が悪いって伝えたら、あいつは面倒そうな顔をしながらも病院に連れていってくれた。「 ほっとくと悪化するだろ」なんて、ぶっきらぼうに。
そういうところが、ずるい。
結局、何だかんだで面倒を見てくれる。
裏切るくせに、手を差し伸べてくる。
そんなあいつが、どうしようもなく大好きだ。
薬と水を口に含み、喉を鳴らして飲み込む。 カプセルが落ちていく感覚が、やけに現実的で。
「……」
息を吐く。
少しだけ、胸の奥が落ち着いた気がした。
この薬が効く頃には、あいつは帰ってくるだろうか。 それとも、また知らない誰かの隣で笑っているんだろうか。
考えるほど、頭が痛くなる。
それでも俺は、空になったコップを握りしめたまま、 玄関の方を見つめていた。
帰ってきたら、何て言おう。 怒る? 泣く? それとも、何事もなかったみたいに笑おうかな。
「横になろ……」
小さく息を吐いて、俺はそのままソファに身を沈めた。 クッションが身体の重さを受け止めて、少しだけ楽になる。
リモコンに手を伸ばして、テレビをつける。
でも、こんな昼間っからやってるのは、ほとんどがコマーシャル。 やたら元気な声と、幸せそうな笑顔ばかりが流れてくる。
その合間に、たまに挟まるドラマ。 内容はよく分からないけど、画面の空気だけで察せる。
(ドロドロのやつだ…)
ちょうど、浮気がバレるシーンだったらしい。
泣き叫ぶ女と、言い訳ばかりの男。
見覚えのある構図に、胸の奥がちくりと痛んだ。
「……ほんと、最低」
テレビの中の男に向けた言葉なのか、 それともあいつに向けたものなのか、自分でも分からない。
それでも主人公の表情に、嫌になるほど共感してしまう。 裏切られても、憎みきれなくて、
それでもそばにいてほしくて、縋ってしまう目。
俺は黙ったまま、画面を見つめ続けた。
ドラマは他人事のはずなのに、 まるで俺の部屋をそのまま切り取ったみたいで、目を逸らせない。 ソファに横になったまま、 薬が効き始めるのを待った。
だんだんと、まぶたが重くなっていく。
薬の副作用で眠くなるって、医者が言ってたな、なんて、ぼんやりと思い出す。
テレビの音は聞こえているはずなのに、言葉が頭に入ってこない。 登場人物の口が動いて、感情的な音楽が流れているのに、それが意味を持たなくなっていく。
意識が、ゆっくりと沈んでいく。
見覚えのない映像が、突然流れ込んできた。
暗い場所。
上から、水の入ったバケツをぶちまけられる感覚。 冷たさと衝撃に、息が詰まる。
蹴られる。
体が丸まる暇もなく、また衝撃。 誰かの笑い声が、耳に刺さる。 服を引き剥がされる感触。
逃げようとしても、身体が動かない。
シャッター音。何度も、何度も。
やめて。 痛い。 苦しい。 怖い。 助けて。
言葉にならない叫びが、胸の中で暴れ回る。
「あ”ぁ”ぁぁぁ”っ!!!!」
喉が裂けるみたいな声を上げて、俺は飛び起きた。 心臓が暴れるように脈打っていて、息がうまく吸えない。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
ぁ、夢だ_
そう思った瞬間、視界に飛び込んできた光に現実へ引き戻される。 テレビは、つけっぱなしだった。
さっきまでのドロドロしたドラマはもう終わっていて、 今は深夜特有の、やけにテンションの高いバラエティ番組が流れている。 スタジオの笑い声が、不自然なほど明るくて、胸に刺さった。
「……あれ、」
かすれた声が、誰もいない部屋に落ちる。
壁の時計を見る。 短針はてっぺんを少し過ぎていて、長針は真下を指していた。
(12時をすぎてる…)
一瞬、目を疑った。
でも、どれだけ瞬きをしても、時間は変わらない。
「……12時間も、寝てたのか」
身体は重く、頭の奥がじんわり痛む。
夢の中の感触が、まだ皮膚に張り付いているみたいだった。
無意識に、玄関の方を見る。
静かだ。 鍵の音も、足音も、気配すらない。
「いるま……」
多分、帰ってきていない。 この時間で連絡もないなら、なおさら。 胸の奥が、きゅっと縮む。 安心と不安が、同時に押し寄せるこの感覚。
帰ってきてないなら、 あの夢の続きを、見なくて済んだ。 でも、帰ってきてないってことは、 今頃どこで、誰と。
考えかけて、俺は首を振った。 考えたって、どうにもならない。 ソファの上で、膝を抱える。 テレビの笑い声が、やけに遠い。
夢だったはずなのに、 あの映像は、まだ頭の奥で再生され続けている。
(あれ、…なんだったんだろう)
「っ”、…はぁ、はぁ…」
だんだんと、息が浅くなる。 肺がうまく広がらなくて、空気が喉で引っかかる。
手が震える。 足も、言うことを聞かない。
理由なんて分からない。ただ、耐えられない。
「っ、……くす、り……」
掠れた声でそう言って、俺はふらつきながら立ち上がった。 棚の方へ向かおうと、一歩踏み出した、そのとき。
視界の端に、金属の光が映る。
カッター。
「っ、……」
頭が真っ白になる。
考えるより先に、手が伸びていた。
刃を出す、かちりという音。
心臓の鼓動が、その音に重なる。
「ふーっ、……ふーっ……」
息を整えようとしても、全然できない。
怖さが、さらに怖さを呼ぶ。
その瞬間。
ガチャ、と玄関のドアが開いた。 空気が変わった。 現実が、一気に流れ込んでくる。
「っ、…」
俺は、はっとして動きを止めた。 玄関の方を見ると、 そこに、あいつが立っていた。
「なつ……? なにしてんの……?」
信じられないものを見るみたいな顔。
その声で、糸が切れた。
「ぁ、……ご、ご、ごめんなさい”っ……」
手から力が抜けて、カッターが床に落ちる。
「ごめんなさい”っ! ごめんなさい”ッ
ごめんなさい”っ! ごめんなさい”っ……!」
謝る言葉しか、出てこない。 理由も、説明も、何も言えない。
ただ、怖くて、苦しくて、 どうしていいか分からなかっただけなのに。
あいつは、しばらく固まったまま俺を見ていたけれど、 やがて、ゆっくりと近づいてきた。
「……なつ、落ち着こう。
大丈夫。今は……大丈夫だから」
その声は、久しぶりに聞く、低くて静かな声だった。
俺は、床に座り込んだまま、 震える体を抱えて、何度も何度も息を吸った。
まだ、怖い。 まだ、苦しい。
そのとき、ふいに 何かに包まれる感覚があった。 あたたかい。 さっきまで凍りついていた身体が、ゆっくりと溶けていく。
「なつ、もう、怖くないから」
耳元で落とされた声は低くて、静かで。
その一言だけで、張り詰めていた糸が切れた。
優しく抱きしめられる。 強すぎず、離れすぎず、逃げ場をちゃんと残した腕。 彼のこういう優しさは、いつも心地いい 。
「いる、……ま……」
声が震えて、うまく出ない。
「いるま”っ、いるま”っ……!」
必死に、何度も名前を呼ぶ。
呼ばないと、消えてしまいそうで。
彼は何も言わなかった。 ただ、黙ったまま、俺の背中をゆっくりとさする。
そのリズムが、呼吸を思い出させてくれる。
浅かった息が、少しずつ、深くなる。 テレビの音も、時計の針の音も、遠くなっていく。
「…?、すんすん、…」
「なつ…?」
香水の匂いが、しない。
胸元に顔を埋めたまま、ふと気づく。
あの、知らない甘ったるい匂いがない。
洗剤と、彼自身の、慣れた匂いだけ。
(浮気、今日はしてない…)
「……ほら、もう寝よう。」
優しく、諭すみたいな声。 責めるでも、問い詰めなかった。俺が、あんなことをしたのに。
いるま視点
「やっと寝たか……」
小さく息を吐いて、ベッドを覗き込む。
なつは、さっきまでが嘘みたいに、すやすやと眠っていた。 頬にはまだ涙の跡が残っているのに、呼吸は規則正しくて、 まるで糸が切れたみたいに、深い眠りに落ちている。
(…ほんと、限界だったんだろうな。)
「……ぁ、ゴミ」
視線を落とすと、床に薬の包装が落ちていた。
片付ける暇もなく、そのまま寝たんだろう。
拾い上げて、胸の奥が少しだけ痛む。
なつの病気は、正直言って厄介だ。 統合失調症。しかも、陽性症状。
妄想、幻覚。
本人にとっては現実で、周りが何を言っても、簡単には消えてくれない。
最近は特にひどい。 俺が浮気をしている、って思い込んでいるらしくて。 否定しても、説明しても、 不安が不安を呼んで、こういう発作みたいな状態になる。
今日も、危なかった。
カッターのことを思い出して、背筋が冷える。
間に合わなかったら、どうなっていたかなんて、考えたくもない。
「はぁ……」
深く、長い溜め息がこぼれる。
疲れていないと言えば、嘘になる。
正直、しんどい。 何度も繰り返される夜に、心が削れないわけがない。
それでも。
俺はそっと、なつの髪に触れた。
起こさないように、指先だけで。
「……俺は、浮気なんてしてねぇよ」
眠っているなつには、届かない声。
信じてもらえなくても、 疑われても、 それでも、そばにいるって決めたのは、俺だ。
「ん”ん、…… 」
「なつ?まだ眠ってた方が…」
背中を向けて眠るなつの体が、少しだけ動いた。
ぎゅっ、
「!」
なつが無意識に俺の服を掴む。
その小さな仕草に、胸が締めつけられる。
離れたら、壊れる。 でも、近くにい続けるのも、簡単じゃない。
それでも、今は。
「……大丈夫。俺がいる」
そう呟いて、 俺はベッドの端に腰を下ろしたまま、 なつが朝を迎えるまで、静かに見守り続けた。