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あ゛ーセンシティブ表示つければよかったかもしれない!!まずいようでしたら後から付けます
やっぱり蜂起軍だった…だった… もう情緒無茶苦茶ですよこんなの… 好き…ありがとうございます…
※続きです。話の舞台が現代?に戻りました
⚠️嘔吐表情注意←大晦日にごめんなさい汗
※ウクライナ視点です。
………目を開けた時、ぼやけた視界を通して最初に見えたのは、二つの強烈な色だった。
「…………、…………」
どうやら、腰のあたりから上に緩く傾斜のついたベッドに横たわっているらしかった。だから目を開けた時、たまたま部屋の隅に掲げられていたソレが目に入ったのだ……と、後から知った。今はただ、ぼんやりとその二つの色を見つめていた。
「………………ぁ」
徐々に意識が覚醒に向かい始めた時、あることに気づき、掠れた声が口から漏れ出た。部屋の隅に掲げられたアレ。自然と目に灼きついてくるかのような強い青色と黄色。それが自国の国旗であることに気づくのにそう時間はかからなかった。
「……っ‼︎‼︎ 」
思わず飛び起きた。が、直後に呻いてベッドに再び身を沈めてしまう。吐き気と激しい頭痛がぶり返し、一瞬で身体を蝕んだ。頭と口許を左右の手でそれぞれ押さえ込んで、ベッドの上で、一人、呻く。しかしどうにも出来ずにいたずらに時間が経過し、それとともにそれらの苦痛は絶頂に達しそうになっていた。ベッド脇に置かれた、ビニール袋の掛けられた容器を思わず抱え込み、口許に当てる。
「……っあ、はぁっ、はぁ……っあぐッ………」
(クソッ……クソがッ………!)
止まらないえずきと戦いながら、心の中で毒づいた。
(一体……一体僕は、どのくらい気を失ってたんだ⁉︎ 一日……いや一週間⁉︎ もしかしたら一ヶ月……⁈ ダメだ、全然時間の感覚が把握できない……窓の外を見る限り、まだ日は暮れてないみたいだけど、それも曇り空でよく分からない……)
「………っ‼︎ 」
喉が鳴る。そのあまりの情けない音に、背中中が粟だった。刹那、嘔吐していた。
「………はあっ!はぁっ、……ッふ、ぅ…………」
抱え込んだ容器の中、少量の吐瀉物が底の方に溜まっている。それが見えた途端、思わず顔を歪めていた。
「………クソが…………ッ‼︎‼︎ 」
項垂れて、自分らしくない言葉で毒づく。震える手で近くにあったティッシュペーパーを数枚引き抜くと、その容器に被せ、容器ごとベッド脇に置いた。そのままゆっくりとベッドから出ようと身体を動かしかけたが、すぐさま眩暈に襲われ、布団の中に逆戻りしてしまう。涙が目の淵に浮かんだ。
「……な、んで………」
腕で目を覆う。いつのまにか、ゆるい浴衣のような寝巻きに着替えさせられていた。新品と思しきその袖を涙で濡らしてしまうのが少し申し訳なかったが、構わず目の辺りを拭った。
「………」
心の中の声が、止まらなくなる。
(……うごけ、ない……め、ぐるぐるする………きもちわる、い……のど、いたい……さっき、吐いちゃったからかなぁ……)
深いため息が漏れた。吐き出した息が、ふるふると震えた。
(何か飲みたい……あたま、いたい………)
しかし。
苦しいはずなのに、苦しくて苦しくて仕方がなくて、早くこの苦痛から解放されたいはずなのに。
どこか、懐かしかった。
あぁそうだ、これは……この、苦しさは。
ゆっくりと、思い出してゆく。
この苦しさは。この、痛みは。僕は、知っている。覚えている。あの時にすごくよく似ている。あれは確か、父さんが死ぬ五年前…………
思わず、呟いていた。
「…………父さん」
……呟いて、しまった。
ギュウッと脳みそを絞られるような激痛が頭を蹂躙したのは、その直後だった。
「……ッ⁉︎⁉︎ ングッ……ゔぁっ……ッッッゔぁあああああああッ‼︎‼︎ 」
絶叫が一室に響く。頭を両手で押さえ、ベッドの上でのたうち回った。かけられていた掛け布団を思わず蹴り落としていたがそのことにも気付けない。なりふり構わず叫び続けた。しかし痛みは緩和されるどころかどんどん増してゆく。
(痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い‼︎‼︎‼︎ なんで…………っ、なんで、こんな………っ‼︎ )
息もろくに吸えず、過呼吸になりかける。喘鳴のような呼吸しかできず、酸欠に陥り、意識が飛びかける。
死ぬ。死んでしまう。息を、吸わないと。
息…………
しかし、次の瞬間だった。
声が、聞こえた。遠くの方、しかし、こんなにも近いところで。はっきりと。
頭の中、いや………心臓?分からない。いや、分かってる。この、声は。
自分の中から聞こえてきているのだ。
ドグン、と心臓が鳴った。
『なぁ……お前今、何つった』
背筋の凍り付くような声。自分にどこか似ているのに、それなのに全く異なる声。冷水を浴びせられたように悪寒が背中中を駆け巡る。
『……何て言った、今』
その威圧的な声に、何も答えられない。ただ呻き声を上げることしかできない。
「……い゛っ、ぁ……ッ‼︎‼︎ 」
ギリギリと、これでもかというくらいに頭を締め付けられた。
『いいか……二度とその名を出すなよ』
その声を最後に、少しばかり痛みが緩和された。この時とばかりに激しく呼吸する。引き攣るような呼吸を繰り返すたびに、その細い方が激しく上下した。しかし一片の慈悲もなく、再び激痛が脈打つように強まった。先ほどとは打って変わって、猫撫で声のような声が響く。
『……なぁ、聞こえてるんだろ?……兄弟』
「ぁゔっ…………‼︎ 」
頭を押さえつける。痛みの強弱とともに、聞こえる声も近づいたり遠のいたりする。
「や、だ………やだ…………っ!黙っ……て、お前は……っ出て来んなぁ……ッ‼︎‼︎ 」
抵抗も虚しく、声は消えるどころかますます鮮明に、はっきりと聞こえるようになった。
『ハッ……そうつれないことを言うな、兄弟。俺らいつも一緒にいた仲だろ……』
「やだ……嫌だぁ……っ!お前、が、ぅぐっ……か、勝手、に、僕の……中にっ……‼︎ いる、だけだろ……っ‼︎‼︎ 」
『……驚いた。まるで自分だけの身体だって言いたいみたいだな。俺の存在は見て見ぬフリか?』
笑い声が頭の中に響いた。頭蓋を内側から割られるような痛みに襲われる。再び発狂したかのように絶叫し、悶える。ひどい頭痛に何も考えられないはずなのに、自分の中から聞こえる声が何を言っているのかだけははっきりと理解できる。声は止まらなかった。
『なぁ兄弟。交渉しようぜ。お前は今苦しんでるよな。なんでか分かるか?』
身体をガクガクと痙攣させながら、ギッと何かを睨むように視線を上げてみたが、何も、見える景色に変わりはない。そもそも対象物がいないのだ、声は自分の中から聞こえているのだから。
「んぁああ゛あぁっ‼︎‼︎ しゃっ、しゃべ、るな……‼︎ お前っ、お前が……っ!んグッ……ぇ゛っ、お゛ぇっ」
『あーあー吐いちまって、かわいそうに。ハハ、痛いんだろ?痛くて痛くて仕方がないんだろ?頭、割られるみてぇに痛んでんだろ?』
下卑た笑い声が頭の中で爆発する。嘔吐が止まらなかった。吐瀉物が撒き散らされ、ベッドにも枕にも染み込んでいく。
「はっ、はぁっ、……え゛っ……んぇっ、……っ、は、ぁぐっ……ぐ、苦し…………っ‼︎ 」
汚れたシーツの上で丸くなった、その小さな背中が痙攣を始める。
息が吸えない。頭が痛い。目が開けられない。肺が痛い。喉が痛い。動けない。
笑い声が頭を突き抜けた。
『ぁはははははは!可愛い……っ、本当に可愛いな、お前は‼︎ 苦しんでいる様が、まるで、いつかの俺みたいだ!本当に愛着が湧くぜ、お前には‼︎‼︎ 』
声は、止まらなかった。
『でもなぁ、苦しめることは俺の趣味じゃねぇんだよなあ……。そこで、交渉だ。お前が俺のいうこと聞いてくれたら、この痛み、すぐ無くしてやるよ』
「……ぇゔっ、はっ、はぁ、ハッ…………ゔ……」
もはや一言も発せられなかった。胃酸に焼かれた喉では、掠れた声すら出せない。吐瀉物の染み込んだシーツに、頭を擦り付けることしか出来ない。
『なぁ兄弟。お前さ、俺にその身体、貸してくれよ』
上機嫌そうな声が脳に突き刺さる。
『俺がお前の代わりに殺してやるよ。………お前のクソ兄貴───ロシアを』
ふと、何かが見えた。いや、見えた気がした。それが脳内に作られたイメージであり、それを実際に見ているように脳が錯覚しているだけだということに気づくのに、数秒かかった。
「…………」
見えたのは、二色だった。赤と黒。真っ黒に焼けこげた大地、もう二度と穀物の実らない焦土。黄金色の小麦は一本も落ちていない。それらを見下ろすのは、真っ赤に染まった空だった。
その空の色は、夕暮れとは違う、夕焼けの何倍も何倍も暗く、濃い赤色。血を流したような、とはまさにこのことだ。目を突き刺すかのような赤黒い、空。それが、真っ黒な大地に覆い被さっている。
「……………あぁ…………」
これが。
これが、お前の色なのか───ロマン。
涙が一筋、頬を伝っていった。
いつしか、ベッドから転がり落ちていたようだった。リノリウムの床がすぐ目の前にある。
床から、眼球だけを動かして部屋の隅の国旗を見上げた。美しい、青と黄色。赤と黒の対極のように思われた。
瞬く間に視界がぼやけてゆく。見えるもの全てが霞がかかったようになり、輪郭がなくなってゆく。ただ、その境さえ無くなれど、国旗の青と黄だけは、最後の最後まで、しっかりと見えていた。
部屋の空気が震えた。何か、騒々しいものがこちらに近づいてくるような。
その時、部屋のドアが思い切り開け放たれた。三人の男が入ってくる。騒がしい足音と共にあっという間に彼らに取り囲まれると、抵抗もままならないまま、そのうちの一人に上体を抱え上げて支えられ、もう一人が、持ってきた箱の中から何か器具のようなものを取り出したのが見えた。やがて、首筋に異物感を感じた。ズッと、その異物が首の皮膚を突き破って身体の中に入り込んでくる。何かを刺された、というのを痛覚として感じた刹那、何か劇薬のようなものが体内に注入されたのを感じ取った。すぐに意識が遠のく。まるで、眠りに落ちる寸前のような。もはや痛みは、どこか遠いところまで行ってしまったようだった。
最後まで機能していたのは、聴覚だった。
「………………………ウクライナ」
誰かが、自分の名前を、叫んでいた。
読んでくださってありがとうございます!
残りあと数時間ですが!良いお年を!!
来年もよろしくお願いします!!