テラーノベル
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いつだったか、
誰かに言われた「可哀想」と言う言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。
若くして両親を亡くしたの?可哀想。
努力してるのに、テストで1位が取れないの?可哀想。
仲良くしたいのに、知り合いに嫌がらせされてるの?可哀想。
素直になれなくて、友達が出来ないから寂しいの?可哀想。
誰かが放った無責任な言葉は鋭い刃となり、何度も私の体を貫いた。
その時から、だったか。
いつしか、「可哀想」は私の一番嫌いな言葉になっていた。
言葉の刃は私の体を貫通し、抉り、潰し、削り取る。
そうして化膿した傷口は、重く冷たい痛みとなって、私の体にのしかかるのだ。
これを一言で言い表すなら、きっと、地獄だ。
ガリガリガリガリと、手元のノートに計算式を書き殴る。
それは乱暴に引っ掻かれた傷のようで、文字かどうかも怪しい。汚くて情けなくて、普段の優等生とはかけ離れた、暗号のような文字。
教科書、参考書、動画。周りに置いて行かれないように、必死で覚えた数々の公式。
頭をフル回転させ、数学の問題に取り掛かる。
深く握った右手は、もう既に感覚がない。
何時間勉強をしていたのだろうか。太陽が沈む頃から始めていたから、少なくともだいぶ時間は経過している。
喉の渇きが鬱陶しい。勉強に集中できない。頭の隅が、ずっと靄がかったかのように重い。
問題を解き終わり、答えを確認する。
「……間違ってる」
バツ。また、バツ。
先程から、ずっと間違いの繰り返し。
「……っあぁもうっ!!」
思いのままに右手を振り上げ、勢い良く机を叩く。
衝撃でシャープペンシルが床に落ち、ノートがぐしゃりと歪んだ。
振り下ろした右手は赤くなっていて、動かすたびにジクジクと痛む。
痛いのは、可哀想。出来ないのは、可哀想。
何度叩いても何度振り払っても、その言葉が、消えない。
(……違う、違う違う違う違う、違うの違う、違う違う違う……)
頭の中を無理矢理「違う」で埋め尽くす。
でも、きっと、違わない。どう足掻いても私は駄目で、情けなくて、どうしようもない、
__可哀想な子だ。
(うるさいっ!!!)
衝動的に拳を握る。強く、強く、張り裂けるほどに。
爪はギチギチと皮膚に食い込み、体が悲鳴を上げていた。どうでもいい。全部どうでも良かった。
勉強が出来ない、友達もいない、素直になれない、可愛気もない、人に優しく出来ない__そんな私に、価値は無い。
言わないで。可哀想って言わないで。
ねえ、私って可哀想なの?可哀想なの?可哀想じゃないよ、可哀想じゃない。可哀想だよ、可哀想そうじゃないよ、可哀想、可哀想、可哀想……。
「……わたし、は……」
可哀想と認めるのが嫌で、情けなく、地べたに這いつくばってでも生きてきたのだ。
母が死んで、父が死んで、皆が私を「可哀想な子だ」と言った。
親戚の人も、友達も、先生も、クラスメートも、近所の人も、皆、私を哀れむような目で見た。
その瞳の温度が嫌だった。嫌いだった。気持ち悪かった。
「私は……可哀想じゃない……弱くない……可哀想じゃない……」
誰かに認められるために、尊敬させるために、愛されるために、何だってした。
勉強はいつだって欠かさなかったし、私を引き取ってくれた叔母さんの手伝いもした。
教室が汚れていたら進んで掃除したし、迷子の親探しも手伝った。
先生の頼みは断らなかったし、忘れ物は持ち主を探したし、嫌がらせをされても静かに耐えた。
……でも。
それでも、世間は私のことを認めてはくれない。
私のことを引き取ってくれた、親切な叔母さん。その娘達は、叔母さんの居ない所で私に嫌がらせをした。
いつも優しくて、誰にでも分け隔てなく接するクラスメート。その人は、私の居ない所で私の陰口を言っていた。
穏やかで生徒思いで、皆から好かれている担任の先生。その人は、何故か私だけに冷たい。
もう、どうすれば良いのかも分からない。
だんだんと笑顔も薄れていって、誰かに優しくできるほど、自分の余裕も無くなっていって、必死で守っている小さな自分も、今にも消えてしまいそうだった。
「……」
私は。
私は別に、褒めてもらいたいわけじゃなかった。
特別扱いもしないでいい。子供扱いもしないでいい。
ただ、私の努力を、人生を、可哀想で終わらせないで欲しかっただけだ。
可哀想じゃないの。可哀想って言わないでほしいの。私の生き様を、誰にも否定されたくないの。
ねえ神様、私頑張ったよ。いっぱいお手伝いしたよ。いい子でいたよ。皆のお手本でいたよ。
……やってた、でしょ?
我儘言わなかったよ。痛くても、怖くても、一人で耐えて頑張ったよ。ずっとずっと、一人だったんだよ。
いい子でいようとした。でもそう思えば思うほどに、私は悪い子に成り下がっていった。
「ぎゅってして、頭撫でて、……頑張ったねって言って……」
私はきっと、どうしようもないくらいに情けなくて、孤独だ。
シャープペンシルの芯は、もう出なかった。
コメント
49件
可哀想。後ろから抱きしめて頭皮吸いたい。可愛いね。
何?何で世間の人はそんなにも永遠さんに嫌がらせするの??どんだけ永遠さんの事好きなんだよ!!!好きな女子に嫌がらせするガキかよ!!!!!!!!! 本当に永遠さんはすごいと思います、こんなにも辛い思いしてでも頑張る永遠さん尊敬します、すごいよ、本当にすごいですよ…
ああああああああ文才!羨ましい! なんかこの地味に現実味のある感じが来るものがあるよ 寝起きに見るべきだったのだろうか…