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『楠木監察官室の代表として、屋払Aランク探索員と楠木監察官が! 南雲監察官室の代表として、小坂Bランク探索員と南雲監察官が登壇して参ります! あーっとぉ! 呼ばれていないのに顔を出す、もはや南雲監察官室の名物! 逆神Dランク探索員も小躍りしながら登壇だぁ!!』
『日引。お願いだ。逆神をいじるな。貴様のエンターテイナーとしての才能と矜持は認める。だから、許してくれ。逆神に触れるな』
五楼京華上級監察官。
今では立派な逆神流被害者の会の会員。
そんな彼女に澄んだ瞳をした被害者の会の会長が優しく言った。
「五楼さん。逆神くんを制御するのは無理です。彼は周囲を巻き込むタイプの輩なので、場に登場した時点でもはや手の尽くしようがありません」
「南雲。貴様、苦労しているのだな。来季の予算は多少色を付けよう」
「いえ! それは大丈夫ですので! 逆神くんを引き取って下さい!!」
「それは大丈夫だ!! だから色を付けると言っている!!」
「大丈夫」という言葉の汎用性を彼らは教えてくれる。
日本語と言うのは実に難しい。
『それでは、惜しくも準決勝敗退。これから3位決定戦に進む事となりました。楠木監察官室からお話を聞いて行きたいと思います。楠木監察官、率直なご感想をどうぞ!』
マイクを受け取った楠木は「これはどうも、ありがとうございます」とまず頭を下げた。
彼の所作は実に穏やかであり、「わぁぁぁ!」と敗者にも関わらず歓声が起きる。
楠木は探索員の間でも高い人気を誇っていた。
毎年4月になると監察官室所属を希望する探索員で彼の周りは賑やかになる。
それは、「優しく穏やかでいて、優秀な探索員を輩出している」と言う実績。
誰だって、同じ強くなるのならば優しくされたいに決まっている。
なお、逆神流の指導方法についてはこの場での言及を避ける事とする。
『実に残念ですが、昨年に引き続きベスト4に残れた事で、ある程度の満足しております。屋払くんをはじめ、秀でた能力を持つのに普段は脚光を浴びる機会に恵まれない探索員が皆さまの目に留まっていれば、私は満足です』
『素晴らしいお言葉です!! 人柄に裏打ちされた人気の理由が垣間見えました! それでは、屋払Aランク探索員に戦いの感想をお願いしましょう!!』
楠木からマイクを渡された屋払。
『オレたちもガチっていったんですが、南雲さんのところはガチでヤベー集まりでした。勝てなかった事より、死人が出なかった事を喜びたいと思うんで、そこんとこよろしくっす。いや、ホントに最後は走馬灯が見えたんで。よろしくぅ。あの光はマジで滅び』
『ドゥワナクローズマイアァァーイズ!!! アィドウォナァァフォーラスリープ!!!』
『よし! いいぞ南雲! 貴様の対処能力は素晴らしい!! 歌え、歌え!!』
『あーっとぉ! 南雲監察官、急にアルマゲドンの主題歌でお馴染み、エアロスミスのナンバーを微妙な発音で熱唱するぅー!! それに合わせて手拍子をするのが五楼上級監察官!! なにがどうなったのでしょうか!! 雷門監察官!?』
『私が言えた事ではないですが、インタビューはマジメにやりましょう』
『本当に雷門監察官の口からは聞きたくなかったお言葉です!!』
こうして屋払のインタビューの1番ヤバいところを無理やり切り取った南雲と五楼。
彼らはもう、付き合ってしまえばいいと思う。
◆◇◆◇◆◇◆◇
『続きまして、情緒不安定な南雲監察官にお話を伺ってまいりましょう!』
『はい。すみません。ほとんどお答えできないかと思いますが』
南雲は水筒からコーヒーをカップに注いだ。
「失礼。喉が渇きまして」と断って、それをゴクゴクと飲み干す。
インタビュー中にコーヒーを飲むのは無作法だが、観客も「さっきの熱唱の後なら仕方がないな!」と納得している。
探索員協会は実に大らかで働きやすい職場である。
『まずは、勝因について……。えっ!? しょ、少々お待ちください!!』
これまでの試合で日引が言い淀んだシーンは1度としてなかった。
雷門が号泣しようと、五楼が圧をかけようと、彼女の実況は淀みなかった。
それが今、不意に止まる。
「南雲さん! 南雲さん!! ちょっと、サーベイランスをマイクとモニターに繋げてくださいっす! はい、投げますよー!!」
「おおい! 投げるなよ! まったく、何だって言うんだ。五楼さん、よろしいですか?」
「うむ。まあ、この試合のダイジェストとかが流れるのだろう? 良かろう」
「では、失礼して。……これで良し」
モニターに映し出されたのは、五楼上級監察官室のセーラ・ハーグリーブスAランク探索員だった。
彼女は「繋がっていますか? はい、分かりました!」と、災害が発生した時の緊急中継のような雰囲気を漂わせる。
それでだいたい合っているので悲劇は加速する。
『こちらはセーラ・ハーグリーブスAランク探索員です! 緊急事態のため、全探索員に向けて放送しております!! たった今、イドクロアテロ組織・アトミルカが日本のダンジョンに発生しました! 全国、12か所に! 同時にです!! 繰り返します、現在——』
「ぶふぅぅぅぅぅぅっ!! 12か所同時に!? 誤報……のはずはない! 五楼さんのところのオペレーターだもん!! 山根くん!!」
「もうやってます。サーベイランスを置いてあるダンジョンで、7か所ほど確認できたっす。本当に、うじゃうじゃいますよ。アトミルカさんたち」
風雲急を告げるアトミルカ来襲の報。
これまでのお祭りムードをかき消して、試合会場は大混乱に陥る。
「日引。すぐに全てのダンジョンに対応した【稀有転移黒石】を用意させろ。セーラ! 放送を続けろ! だが、付け加える事がある! 出動可能なBランク以上の探索員は協会本部に集まるようにと!!」
彼女の脳裏をよぎるのは、数年前のイギリス探索員協会壊滅事件である。
あの時も、まずは国内のダンジョンからアトミルカの構成員が大量に発生した。
「南雲。雷門。楠木殿。すぐに対応せよ」
上級監察官の意図をすぐに理解する監察官たち。
「加賀美隊は鵜飼ダンジョンを受け持ちます!」
「潜伏機動部隊は里深ダンジョンをどうにかしましょう。屋払くん、行けるかい?」
「余裕なんで! 対人相手で潜伏機動隊が出ないとかないんで! よろしくぅ!!」
ひっそりと忍び寄っていた和泉Sランク探索員が「げほっげほ。小生が傷の治癒と煌気の回復を受け持ちましょう」と申し出て、潜伏機動隊は出動準備に入る。
「小坂くん! 我々も行こう! チーム莉子、出動だ!!」
「は、はい! わたし、みんなに伝えてきます!!」
静かに状況を見守っていた眠れるおじさん。
またの名を逆神六駆。
彼もこの緊急事態を受けて、ついに口を開く。
「南雲さん。五楼さん。僕、聞きたい事があるんですけど」
「なんだね!? ああ、こんな時は本当に頼もしいなぁ、逆神くんは!!」
「うむ。逆神。貴様の実力ならば1つのダンジョンを任せられる。それでどうした?」
「この手の流れって、大会が中止になったりするパターンじゃないですか!? 賞金、出ますよね!? 場合によっては僕、アトミルカさんにつきますよ?」
「南雲! お前はどうして逆神家の人間なんか拾って来たんだ!?」
「私にも分かりません! 気が付いたらうちにいました!!」
逆神六駆はなおも続ける。
「賞金、出ますよね? お金。お金ですよ。お金。ねぇ、南雲さん。五楼さん。お金」
五楼京華は叫ぶように言った。
「出す! しっかり出すと私の名のもとに約束する! だから戦え!!」
「その言葉が聞きたかった!! よっしゃあぁぁ!! アトミルカとやらをボコってきますよ!!」
風雲急を告げる非常事態。
だが、そこにお金も発生するならなんでもウェルカム。
それが逆神流のやり方である。
コメント
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第250話、一気に緊迫しましたね! インタビューのゆるい空気から一転、アトミルカが全国12か所同時発生って…これは本当に風雲急を告げる展開です。そんな中で「賞金出ますよね? 出なきゃアトミルカにつきますよ」と切り替えす逆神くんの金銭感覚、笑いました。コメディとシリアスの塩梅が絶妙で、この後のバトルが楽しみです!