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焼き肉を堪能し、俺と魔術師が楊枝で歯をシーハーしている時だ。
ムダに神々しいオーラを放つシスターが、黄金色の掘削機に乗ってやってきた。
土などを掬う、でかいスコップの部分にスッポリと収まったシスターは、目を閉じてタバコをふかしている。
操縦席にはだれもいない。
シスターが念力的なものでテキトーに操作しているようだ。
路駐している車の側面をゴリゴリと削りながらショベルカーを走らせる。
高級車ばかり狙っているところをみると、シスターは意図的にぶつかりに行っているのだろう。
もう一度言うが、シスターは目をつむっている。
「ケツいてえし、穴もかゆいし……。穴ってケツのだから……」
五本のタバコを同時にふかす、このやさぐれ女は3時間も遅れてやってきたのだった。
ごめーん。待ったぁ? なんて言葉が、シスターの口から出ることはない。
出るはずないのだが、開口一番“ケツいてえし”はないな。
ホントないわな……。
邪神をイジりに行こうと、パーティーメンバーを召集した。
時間をキッチリ守る魔術師は、集合時間の1時間前には来ていたらしい。
俺と魔術師は、残りのメンバーであるシスターを待っていた。
シスターは、ショベルカーのボディーの上をイモムシのようにモリモリと移動する。
取っ手の短いトートバッグをむりやり襷掛けにしたシスターが、顔から地面に着地した。
いまからダンジョンに赴いて旧支配者を狩ろうというのに、シスターの格好は、おそろしく軽装だった。
白地に“修道ふく”と書かれた大き目のTシャツ。デニムの切りっぱなしホットパンツという潔いスタイル。
袖の隙間からシスターの横乳が見えている。
美女の部類に入るシスターは目立つらしい。通行人の視線がシスターに集中している。
「股ぐらに虫よけスプレーぶっかけてきたし、ダイジョブっしょ」
俺の思考でも読んだのか。
これから昆虫採集にでも行くかのようなことを、シスターが口にする。
車道で胡坐をかいた自称20歳のシスターは、一服しようとダイナマイトを口に咥える。
十字架の形をしたライターで火を点けた。
「あんだこれ? ふてぇ葉巻だな? ああ、ダイナマイトか……」
シスターはすぐに気がつき、爆発の一歩手前で導火線の火を指でねじり消した。
「なぜダイナマイトなんか持っている?」
「修道会の仕事でよく使うんだよね。いつも“トトバ”に入れて持ち歩いてっから気にすんなだし。発破技士の免許なら、“ちゃんこ”持ってっから安心しろだし」
シスターの言うトトバとは、トートバッグのことらしい。
スタバみたいに略すヤツとは初めて遭遇した。
シスターは爆発ブツが好きなのだろうか。ご機嫌な様子で言葉を紡ぐ。
「ダイナマイトってさ、ダンジョンに持ってったら、ぜってぇ役に立つから! あとさ、ぽっちゃりした勇者のカラダ見るとさ、“ちゃんこ”とか言っちまうんだよね。ズハハハ!」
最後の“ズハハハ”ってなに?
俺が倒した数人の魔王のなかに、そんな感じで笑うヤツはいなかった。
魔王が前口上を披露している最中、俺が瞬殺して敵に笑うヒマを与えなかったからだ。
俺が話しに耳を傾けていたら、ズハズハとか、ラスボスの高笑う姿を拝めたのかもしれない。
シスターいわく、建設機械は一通り扱えるらしい。
宇宙戦艦の船舶免許、スーパーロボットの操縦免許なども所持しているそうだ。
どこまでが本当なのか定かではない。
あぶないやつなのか、夢見る乙女なのか判断がつかない。どちらにしても、ヘタな中ボスより質《たち》が悪そうだ。
「免許どうこうじゃない。導火線が短すぎる。2センチじゃ逃げる時間がないだろ」
「ダイナマイトぶん投げるか、耳ふさいどきゃ問題ねぇって」
「ところで、遠足に持っていけるダイナマイトは“300円以内”と、オマエは知っているのか?」
「へーきだって。ダイナマイトはフルーツの仲間だろ? おやつじゃねぇから」
ホッパンの隙間に指をねじ込み、股ぐらをボリボリ掻くシスター。
パン祭りでもらえる皿のようにキズひとつない白い肌は、艶々の長い黒髪を引き立てる。
キレイ系の顔なだけに、口を開くと非常に残念だ。
マニア受けはしそうだが。
「ひとついいか。右の乳首しか透けてないぞ。ひとりっ子みたいになってるぞ。シスターなら、両方の乳首を浮き立たせろ。左の乳首を紹介しろ」
「いやいや、大きさが違うから仕方ねぇだろし。そんで、アッシさ、パンツ2枚しか持ってないんだよね」
お気に入りのパンツを洗濯したから、今日はサブのパンツを穿いてきた。
10年くらい穿き続けているなど、シスターが自慢げに話してくる。
大事なとこに大きな穴があいて立ちションできて丁度いいと、仏頂面で話すシスターは今日も元気にやさぐれている。
「軽装すぎるんだよ。なんでホッパンなんだ。長ズボン作った人に謝れ。オマエをイヤラシイ目で見ているギャラリーに謝罪しろ!」
「いやいや、ほぼ全裸のニートに言われたくねえし」
「俺は邪神たちに30個くらい呪いをかけられた。武器や防具を一切装備できないって呪いも、そのひとつだ」
「股間を紙で隠してねぇで服を着てこいだろし」
シウマイ弁当の黄色い包み紙で隠した俺の股座(またぐら)を、シスターが冷たい目で見てくる。
風が吹くたび、包み紙の隙間から俺の小さな勇者が顔を覗かせるからだろう。
背後の防御もぬかりはない。
臀部にはシウマイ弁当のフタを貼りつけてある。
ゴハン粒が接着剤代わりになってちょうどよかったのだ。
先ほどから、武器を携えた“制服姿の男”に睨まれているため、俺はヤンチャな竿とタマを隠すことにしたのだ。
「まあ、女ものか子供用に限って着られるが」
「じゃあ、それを着てくりゃいいだろし」
「それはムリだ」
マスコットキャラの付いた子供用の服を無理やり着て外出すると、誰も目を合わせてくれないという罰ゲームみたいな仕打ちを受ける。
以前、革ジャンを試してみたが、革ヨロイ(防具)判定されてダメだった。
そんな呪いを俺は受けている。
あきらめて、ほぼ全裸で過すことにしたのだ。
「どーでもいいけどさ、オメエが首にまいてるヘンな布を取れだし」
半眼のシスターが右胸をこすりながら、風に煽られる俺のマフラーを見ている。
「闇属性らしくてな。取れない。というか、はずしてくれ……」
手編みのマフラーやセーターなど、怨念のこもった衣類であれば着衣が可能ということだ。
ただ、装着すると外せないのが難点といったところか。
「ほぼ全裸のリーダーと、火のついたダイナマイトを無邪気に振り回すシスター。どうでもいいけど、“交番の前”でファッションチェックしないでくれない? 続きは交番の中かWEBでやってくれない? アーメン」
アーメン・フンハ! と、150キロのバーベルの上げ下げをしていた魔術師が、うんざりだと言わんばかりに割って入ってきた。
「交番の中はダメだ。見ろ、警官が銃に手をかけている。撃たれる前に出発するぞ」
「アッシに任せな」
シスターが交番にダイナマイトを投げようとしている。
「そんなことしちゃダメだよ、シスター。警察官ってちょいちょい不祥事起こすけど、日々頑張ってるんだから」
「やめろ魔術師。失礼な事を言うな。ちょいちょいではない。定期的にやらかしている、だろ。銃を撃ちたくてなんとなく警官になったっぽい顔の制服姿の2人に謝れ!」
「なるほど。“粘着警察24時”的な番組やって、不祥事をチャラにしてんだな。ズハハハ!」
「リーダーとシスター。ダメだよ、そんなこと言っちゃあ……」
「もういい。ダンジョンに向かうぞ。電車でな!」
ショベルカーにしがみ付いているシスターを引きはがし、改札に向かった。