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4.幻
「ほんとに、ここに凛ちゃんがいたの?」
「あぁ、確かに居た。でも時間がおかしかくなったんだ。この山での30分はこの世界での1日。」
「…そんなのほんとにあるんだ。」
俺たちは俺を先頭に山に立ち入った。
「寒ッ!今夏だよね?」
「ここだけ異様に寒いんだよ…ここだ!この公園に…」
つい先日にたどり着いた公園が見えた。
柵を跨ぐとたしかにそこに居た。
蜂楽も驚きで声が出ていない。
「り、凛…ちゃん……なん、で…ここ、に?」
途切れ途切れの蜂楽の言葉に凛、が振り返った。
「…また来たのか…、分かっただろう。ここは時間が歪んでる。もとの世界に帰れなくなるぞ。」
「凛ちゃん、生きて…る」
蜂楽の震えた声に凛は俯いた。
「死んでるよ。多分。」
言葉とは対照的に凛の声は涼しげだった。
その言葉を飲みめたのは、この異常な時間の進み方と夏とは思えない冷えた空気感のせいだろう。
蜂楽はゆっくりと進み、凛の肩を恐る恐る触る。
「…さわ、れる。」
「俺の手を掴んだのはやっぱり凛だった。
蜂楽の声の後に俺がそう呟いた。
「凛。俺が引越したあと、何があったんだ、?」
目の前に行方不明だったと聞いていた後輩が立っている。
そして蜂楽の手は確かに凛の肩を掴んでいる。
なのにこんなにも冷静でいられる自分。
その理由は分かってる。
「まだ信じられないんだよ。お前が行方不明だった、死んだ、なんて。」
だって目の前にいるんだから。
透けてもない、触れられる、声も聞こえる。
そんなの誰が信じられるんだろうか。
「いつか、また来い。1日、いや2日は行方不明になる覚悟があるなら。」
凛は蜂楽の手をそっと振りほどいてそう吐いた。
「俺が死んだっていう証拠を見せてやる。お前らも俺に構ってるほど暇じゃないんだろう。終わりにしよう。」
凛の言葉は淡々としていた。
俺は静かに頷くと蜂楽を背中に抱え、凛を置いて山を下った。
「10分くらいかな、もうすぐ日が暮れる。蜂楽は知ってるのか、あの日何があったのか。」
蜂楽は背中で首を横に振った。
「知らないんだ。潔を見送ってすぐに居なくなった。何がなんだかまだ分からない。」
凛の見せてくれるという証拠。
それを見てしまえば全てが終わってしまうんじゃないか、この幻も、夢も、すべて消えてなくなってしまうんじゃないか。
蜂楽の考えていることもきっと俺と重なる日がいつかくるだろう。
でも、前も向くために向き合わないといけない。
俺の作った凛の幻を、消すために。