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5.帰ること
「ね、潔。凛ちゃんを成仏させるの?」
泣き疲れてうとうととしている蜂楽が俺の背中にそう問いかけた。
「……分からない。」
答えに困ってしまう。
俺よりも数歩後ろを歩いている蜂楽の足が止まったのが足音で分かった。
「嫌や。やっと戻ってきたのに…またどっか行っちゃうなんて絶対ヤダよ…、!」
蜂楽が柄にもなく大きな声で叫んだ。
「俺もヤダよ。けど、けどさ。凛のこと、ちゃんと向き合うにはそれは避けられない道だよ。」
「潔はなんにも思わないの…?」
蜂楽に言われて気づいたことがある。
俺は、凛に対して何故こんなに冷静なのか。
俺の寂しさや悲しさは、どこに行ってしまったのか。
母さんとの約束も、果たすべき事も、今年の夏の思い出と、俺は。
「俺は、何がしたいんだろう。」
心に空いた大きな穴。
そこに冷たい風が吹き抜けて、暑い日差しが照りつける。
「よっちゃん、明日久しぶりに保護者で集まらないかって呼んで貰ったの。」
「世一、家で1人になるだろうし友達と出かけてもいいんだぞ。」
家に帰ると母さんと父さんが並んで夕飯を作っていた。
俺は二人の会話に「出かけるよ、楽しんできて」と明るく返し、部屋へと歩き出す。
「よっちゃん!信じてる。遅くなっても、必ず帰ってくること!!」
力強い母の声に頷いて再び前を向いた。
そろそろ終止符を付けなければいけない。
その事を心に強く刻んで。