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遠くのものが見えづらくなったのは、いつからだろう
『画像というか、厚みというか、、』
そう…遠くのものを見ると、全部大きな紙にプリントアウトしてる感じだった
これはゆうべ思いついた言い方だった。
自分でいうのもあれだけど、、中々の出来だった
数分で治ることもあるし、瞬き一つで治ることだってある。
いわゆる、”発作”みたいなものだ。
眼科にも何回も行った。
何度も、何度も、、何度も、、、
同じことを先生は聞いてきた
お医者さんは、たとえ紹介状にカルテのコピーが添えてあっても、
一から問診を始めないと気がすまないのかもしれない
ーーーーー☆ーーーーー
二人で映画を見に行こうと約束したのは、冬休みに入る前だった。
日にちを決めてもそのたび里咲(りさ)にキャンセルされる。
学校の前のバス停で携帯電話のメールをチェックした
やっぱり。。。また同じだ。
〈ごめん明日行けなくなっちゃった〉
ため息をついて、鞄にスマホをしまった
もうすぐ1月も終わってしまうのに。
『どうせ磯ケ谷くんなんだろーな、』
と静かに呟いた。
磯ヶ谷(いそがや)くんとは、私の元好きな人、そして里咲の彼氏
磯ヶ谷くんの都合が変わって、じゃあその日は二人でデートしようかという話に
なったんだろう。
バスの窓からぼんやりと外を眺めながら思い出した
約束をキャンセルするたびに、里咲は両手をあわせて謝ってくる。
「ごめん、悪いと思ってる、、けどさ!」
私はイヤな予感がした
「佐倉とうちの友情は永遠で無敵だけど、イソっちとの関係って、、わかんないじゃん?笑」
「手抜きして、後で後悔とかしたくないじゃん?笑」
何をやらせても効率よく動けるかわり、里咲には調子のいいところがある。
明日は図書館で勉強しようかな、と呟いて里咲をおいて帰った。
中学2年生の3学期、受験まであと少し。
ちょっと前までは里咲と同じ私立の女子校を受けようと第一希望にしていたけど、、
今はわからない
そしていつの間にかバスで寝てしまっていた。
里咲と磯ヶ谷くんは、週末に2日続けてデートをした
その2日目の日曜日の夜、”何か”があった。
月曜日の朝、里咲に教室の外のベランダに呼び出されて、聞かされた。
といっても、
「一線超えちゃった♡」と笑うだけで、詳しいことは
どうにかこうにか、かわしてくる。
私は誰かと付き合ったりしたことも、告白されたこともない。
里咲が磯ヶ谷くんと付き合いはじめた時に言われた。
「絶対に告ってくる子いるからー笑」
お前、絶対そんなこと思ってないだろとも、、少し思いつつも
その時の絶妙な恥ずかしさと悔しさは今でも覚えている
来年、里咲と同じクラスになれなくても別にいいかな、と初めて思った
教室を振り返ると、里咲と磯ヶ谷くんが楽しそうに話していた
その日を境にあの二人はベッタリとくっつくようになった
里咲の笑顔がガラス越しに見えて、瞬くと、ぼやけてしまった
そんな中、3日後、里咲に
「ねぇ。明日映画行こーよ!ずっと約束延ばしてきたから、今度こそ、マジで行こ!」
昼休みにいきなり誘われて、五時間目の後の休み時間に私は、
『私、いかない』ときっぱり断った。
困惑していた里咲に
『後、私公立の学校受けるから』といってやり、自分の席に戻った。
学校帰りに病院に寄った。
診察室に入って、ちょうど今発作のさなかだと伝えた。
月曜日に発作が起きた状況と、どんどん悪くなっていった様子を尋ねられた。
『学校で急に、、』
「どんな時にでした?」と聞かれた
『友達とあってて、話してて、それでその後すぐに、、』と答えると
「話の内容はどんな感じ?それは楽しいお話?それとも...」
私はかぼそく、震えた声で
『そういうのも言わないといけないんですか、」といった。
先生は思いの外、あっさりと「いや、それはいいです」
と柔らかい笑顔で言った。
結局、発作の正体は近視だった。
やっとわかった、と少し安心した。が一方でまだ本当かな?という思いも捨てがたい
先生はキャビネットから眼鏡ケースを取り出して、赤いセルフレームの眼鏡をつけてみてと言ってきた。
恐る恐る、眼鏡をかけてみた。
見えたー目に映るもの全てがくっきりと。
帰り道、いつもぼやけていた風景が嘘みたいに鮮やかな色を取り戻した。
画像とは違う、確かな奥行きが感じられた。
気分良く家に帰って先にお風呂に入った。
・・・魔法が解けたのは、その夜だった。
私がお風呂に入っている隙に、妹がこっそり眼鏡をかけていた。
お風呂からあがると妹が、怪訝そうに「この眼鏡ってほんもの?」と訊かれた。
私は一瞬どういうことかが分からなかった。
さっきから何回も試してみたけど、違いが分からないと言っている。
最初は『何言ってんの』と笑って聞き流したが、、、悪い予感がした。
自分でも試した。新聞の近くにかざした眼鏡を動かしたけど、何も変わらなかった。
隣にいたお母さんを見つめた。
お母さんは逃げるように目を逸らしたが、私は詰め寄って
『本当のことを教えてよ!』と声を張り上げた。
眼鏡をかけているはずなのに、お母さんの姿がかすみだした
“ 心因性視力障害 ”
というのが本当の病名だった
精神的な原因で視力が落ちることが、思春期の、特に女の子には少ないのだとか。
お母さんは黙って先生と話を進めたことと、私の目を悪くしてしまった原因に気づかなかったことを、
涙ぐんで謝ってから、いじめについて訊いてきた。
私にとって都合の悪い話だ、、どちらも思い当たらないと嘘を付くと、途方に暮れた顔をしていた。
週が明けても、里咲と磯ヶ谷くんは相変わらずベタベタしていた。
周りの女子は里咲のことを悪く言っているみたい。
小声で流れてきた噂話によると、
その中のひとりの女の子は磯ヶ谷くんに片思いしてたとか?
そんなことはどうだっていい
最初から期待なんてしていなかった
もし磯ヶ谷くんが私のものになってくれたら…
と手を伸ばしたところで目が覚めた。とても長い夢を見ていた気がする。
…完全に寝過ごした、今の時刻は18:47
『はぁ、』とため息をつくと、誰かに呼ばれた気がして
後ろ振り向いた。
私は口角を少しあげ、微笑み、
『明日も頑張ろう』
と小さな声で呟いた。
そう 私が見た空は。
それは息をすることを忘れてしまうぐらい
私が望んだ風景だった。