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死に物狂いで駆けている

燃える木の葉が頬をかすめる

傍らの木々は燃え盛り、馬の瞳は血走っていた

背に矢が何本刺さっているのか、もう分からない。

意識が水面の波紋のようにゆっくりと、確実に無くなっていく…….












「姉さん、誰かいる!」

「シッ!隠れてっ」

「……動かないよ」

姉弟は背負っていた籠をそっと置き捨て、

川辺に横たわる黒い塊に近づいて行った。

「死んでる…行くよ」

「待って姉さん、今動いたよ」

「ダメ待って!」

少年は再び男に駆け寄った。

瞬間、男の懐から鋭い光が見え、 少年はすぐさま身を翻した。

少年の顔面から鮮血が滴り落ちる

男は動揺していた

目の前の少年に触れる直前、後頭部に激痛が走り、再び砂利に顔を埋めた。













意識が戻った

俺はどれだけ寝ていた

徐々に薄い布のようなもので覆われた天井が見え、大きなテントの中だと分かった。

日差しが少し透過しているのがわかる仰向けでいると眩しい。

起きようとしたその時、傍から野太い声がした。

「やめておけ、さっきまで死体同然だったんだ。いつ傷が開いてもおかしくない」

「ここはどこだ」

「オルガという村だ、北の国から南西に30里ほど離れている」

「なぜ北の国から数える」

「焼け跡やら血反吐で汚れてはいたが、お前の着ていた鎧、あれは北の国のものによく似ている。だが…少し違う」

「その知識、川辺にいた少年もそうだ。あの体捌きは……戦奴か」

「良い洞察力だ。密偵向きだな」

「なぜ俺の手当てを」

「礼なら本人に言え、アレス!起きたぞ」

大男の野太い声と同時に、テントの入り口から少年が飛び出した。

顔の半分には、包帯が巻かれ、うっすら血が滲んでいる。

「…..」

「命拾いした、ありがとう」

「いえ…あのっ」

「傷の具合はどうだ」

「…跡は残るだろうって」

「気が動転していた、すまない」

「こちらこそ…」

「そういえば、頭を殴られたような」

「姉さんです、ごめんなさい」

「石を投げられるとはな」

「あ、石じゃなくて…」

??

「殴り飛ばしたのよ」

いつ入ってきたのか、アレスの姉であろう少女はテントの入り口で胸を張り、誇らしげにそう言った

弟は呆れて頭を抱える

大男が見かねて言った

「レネイ、次襲い掛かったら雑用に行ってもらうぞ」

大男はさっきから俺の傍を離れない、テントの中には他にも村民がいるようで、視線を感じる。

その眼差しはどれも穏やかではない。

その視線を遮るように大男は座っていた

「でもガレン!その男はアレスの眼をっ」

「むやみに近づいたアレスにも責任がある。現にお前は弟を引き止めるつもりだったのだろう」

「っ!…くそ!」

レネイは俺を睨み付ける。

眉間にしわを寄せ、猛虎のような形相だ。

おまけに寝ている俺の頭に響くほどの地団駄を踏み、出て行った。

弟も後を追う。

「まるで鬼の子だな」

「ははは、勇ましいことを美徳とするのが、北の国の風習。加えてあの弟だ、修羅になる事があの子にとっての生きる術なんだろう」

「子供にのされるのは初めてだ」

「北の国の正規軍は軟弱ものばかりなのか?」

「その冗談は笑えない」

少し打ち解けた空気に変わり、周りの視線もいつのまにか無くなっていた。

「これからどうする密偵」

「その呼び方もやめてくれ、名前はジンだ」

「ジン、お前のことは誰も北の正規軍に報告していないし、鎧を見た者も口止めしている。主人に協力してやる義理もないしな」

「いくら義理が無いとは言え、間者が潜り込んでると知れればお互いタダじゃ済まない。傷が治り次第出て行く。2、3日もあれば十分だ」

ガレンは水を汲んでくると言って立ち上がった

俺が横たわっていることを考慮しても立ち上がったガレンは大きく、まるで巨人だった



〈2日後〉

騒々しい

衣擦れの音、金属音が聞こえる

眼を開けると、ガレン、アレス、レネイだけでなく、周囲の戦奴たちが何やら甲冑のようなものを着込み、長槍を配っている。

「起きたか」

「大人しく死んでなさいよ」

「言葉を選ぼうよ姉さん…」

皆慣れた手つきで素早く装備を整えている

「戦か」

「ああ仕事だ、ジンは寝ていろ。戦況は膠着状態、戦士を温存する為に奴隷でも怪我人は置いて行く決まりだ」

「ついてきて欲しい〜名誉の死が待ってるわよ♡」

「よし俺も行こう」

「….え?何言ってんのあんた」

「相手はお前の同胞だぞ」

「体が鈍ってる、これじゃ出て行こうにも道中、北軍に襲われたら抵抗できない。偵察の成果が無ければ、戦後の尊厳を守るために国政に殺される。」

ガレンは目を丸くする

そして笑いながら言った

「後悔するぞ」

「残っても見つかるかもしれない。賭けだ」

そう言ったジンの目は力強かった

「…よし、皮と槍を持ってきてやる」

「皮? ?」

「鰐皮だよ、戦奴に鎧を買い与える主人はいないから」

アレスは自分の身の丈に合わない長槍を握りしめて当然のようにそう言った。

「なるほど、鰐皮なら鎧より安い、加えて長槍を持たせれば、技が無くてもそれなりの戦果が期待できると言うわけか」

「良いこと知っただろ、この戦で北軍の情報をもっと漁れる。同胞を殺し、成果を引っさげて、故郷に凱旋か」

ガレンは長槍を放り投げた

槍を掴む

久しく感じた鉄の冷たさ

この槍が血で滑り、生暖かくなるまで

俺は先に進めない

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