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自邸に帰ると珍しくリディアがまだ帰って来ていないとシモンから聞かされた。


「リディア様、如何なさったんでしょうか……。何時もでしたらとっくにお戻りになられていますのに」


ハンナは一人意味もなく部屋中を動き回り、落ち着かない様子だ。何時も冷静なシモンでさえ、少し不安げな表情を浮かべていた。


「ディオン様……」

「迎えに行ってくるよ」


つい今し方脱いだばかりの外套を掴み、直様踵を返す。扉に手を掛けるが開ける前に開いた。侍従が少し慌てた様子で中に入ってくる。余程の事があったのかノックもしなければ声を掛けるのも忘れた様だ。


「旦那様! マリウス殿下の使者殿がいらしております」










(此処は、何処だ……)


目を開けると見慣れない部屋にいた。


ディオンは部屋の外へ出て辺りを見渡す。


窓の外から見える中庭の規模や、何処まで続いているか先の見えない廊下、古びた調度品。


全て初めて見る光景の筈だが、此処が、何処かの城の中だという事をディオンは知っている・・・・・


(何だ……室内の筈だが、霧が……いや、これは煙だ)


ディオンは煙を少し吸い込んでしまった。

軽く咽せる。急いで後退し、窓を叩き割ろうとする。すると向かい側の廊下に人影を見つけた。


ーー気付けば駆け出していた。


長い廊下を必死に走った。煙がディオンの背後から追いかけてくる様に迫ってくる。だがそれよりも今は、先程の人影の事で頭がいっぱいだった。


『リディアっ‼︎』


一瞬だった。だがあれは、間違いなくリディアだった。これだけの煙の量だ。確認せずとも分かる。


ーーこの古城・・は、燃えている。


(早くリディアを助けなければ……)


ディオンは息も絶え絶えに、走り続けた。だが長過ぎる廊下は何時になってもリディアのいた向かい側へは辿り着かない。


(急げ‼︎ でないとリディアは……っ)


全身から汗が噴き出す。次第に足がもつれて上手く走れなくなってくる。そして等々、地面に膝をついた。


(動けっ! 動けっ! 動けっ‼︎ 頼む動いてくれっ!)


脳から自身の足に命令を下すが、まるで微動だにしない。全身から全ての力が抜け落ち無様に地面に倒れ込んだ。辛うじて動く右腕だけで這ってでも進もうとしていた時……。


『ディオン』


何時からそこに居たのか、リディアが目の前にいた。情けない姿の兄をリディアは困惑した顔で眺めている。


『ディオン、私、私ね……っゔ‼︎』


(リディアっー‼︎)


ぐじゅっ、そんな鈍い音が響いた。


一瞬だった。何処からか飛んで来た分からない矢がリディアの胸を貫いた。そのままリディアは地面に倒れる。血が止めどなく流れている。ディオンの身体をリディアの血が赤く染めていく。


声も出ない。身体も動かない。見たくないのに目を閉じる事すら出来ない。右手をリディアへ伸ばすが後少しで届かない……。


『でぃ、お…………』


リディアの大きく見開いた瞳から涙が溢れている。……だが彼女は俺を見て笑った。


ーーそして、リディアは死んだ。


私だけに優しい貴方

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