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この作品はフィクションです。
実在する人物とは一切関係ございません。
この作品を公の場での閲覧、ご自身の端末以外での閲覧はご遠慮くださいますようお願い申し上げます。
最近地方での映画撮影で絶賛ホテル生活中の俺です。
グループはアルバムリリースとツアーを無事終えて、活動は落ち着いている。まぁメンバーは各々バラエティやラジオで忙しいのだが、グループで集まることがあまりない現状だ。週一のミーティングはオンラインでするから地方にいようが問題ないし、いつも通り意見を出し合ってふざけつつも有意義な時間だった。
『はやちゃん、撮影順調なん?』
「おん、特に問題なくやってるわぁ。みんなは仕事どんな?」
『俺は今日舜太とバラエティ収録やって、明日は一人で生放送!』
『お昼のやつだよね。時間的に俺見れるから楽しみだな。』
「おー、ぶちかましてこい太智。」
近況報告を兼ねた雑談で一言も話さないのは先程まで円滑に進行を務めてくれた仁人だ。
昨日はラジオがあったし流石に眠たく意識が遠のいているのかと思ったが、すごく優しい顔で画面を見ているであろう顔が見えた。皆のやり取りをさも愛しいと感じているような、慈しみの表情だった。
よかった、無理はしていないようだ。とどこか兄貴ぶったことを思った瞬間。
ふと画面越しに仁人と目が合った。
向こうがカメラを見て、こちらは液晶に映った仁人を見ていたらそうなるのは必然だが、目が「はやと」と呼んだ気がした。
その瞬間もう無理だった。
「、あー…、わりぃ。そろそろ抜けていい?明日ちと早いんだわ。」
『あ!ごめんね、そうやんね。じゃあ何もなければもう終わろっか。』
『おけ。じゃあ皆それぞれ自分の仕事をしっかりやってください。俺らが楽しんでたら見てくれる人には伝わるから。くれぐれも無茶はしないように。以上。』
『おやすみー』
いつもの仁人が締めてミーティングは無事終わった。
明日の集合が早いのは事実だ。
でもそれ以上に早く仁人と話したかった。仁人に俺だけに声をかけてほしかった。仁人の視界に俺だけを映してほしかった。
最低限の明日の準備を済ませて、俺は変に昂った気持ちを夜の散歩でもして紛らわそうと部屋を出た。
この時間に電話かけたら嫌な顔するかな、とか今風呂入ってるかな、とか考えながらエントランスを出ながら通話ボタンを押す。
するとすぐに聞こえてきたのは。
「『はい。』」
真後ろからだった。
「は」
「ははっ、すげぇアホヅラじゃん。」
「いや、おま、なんで…」
「んー?来ちゃった、的な。」
そうふざけて抜かす仁人は先程のミーティングと同じ服装で全く理解が追いつかない。
「明日リスケになってオフなの。んで、そろそろ疲れが溜まっていそうな貴方に会いに来ちゃいました。ちなみにホテルは横なので終わって速攻降りてきて待ち伏せしてました。」
俺が疑問に思っていることを全て説明をしてれたこいつは少しドヤっている。それが可愛く見えるもんだからどうしようもない。
「何してんだよ…。これで俺が降りて来なかったらどうするつもりだったんだよ。」
「あー…そんときは素直に降りてきて、て言ったかもな。でも、」
そう言って少し距離を詰め、間違いなく確信犯的な上目遣いで囁きやがった。
「会いたくなったでしょ?」
最近気持ちの整理をするときに夜道を歩きたくなることを知っているこいつはあえて仕掛けてきたのだ。
そこからは早かった。
ちゃっかりツインで2人宿泊予約をしていた仁人の部屋に転がり込んでドアが閉まり切る前に抱きしめた。
首筋、髪の毛に鼻を擦りあてて肺いっぱいに仁人の匂いを嗅ぐ。その間仁人は俺の髪の毛をいじってみたり、背中をトントンしながらくすぐったいとクフクフ笑っていた。
仁人だ。
この唯一無二の香りも、この抱きしめた感触も、少し高い体温も、鼻にかかったような声も。
全部全部、仁人だ。
「会いたかった。」
「うん、俺も。」
「ちゃんと言ってほしい。ごめん、めんどくさくてごめんけど、言ってほしい…」
「はやと、俺も会いたかった。すきっ、ん…」
ほしい時にほしい言葉以上の言葉をくれる恋人に我慢などできる訳もなく、すぐに頭を掻き抱きながらキスをする。
少しの瞬間も見逃したくなくて薄目を開けたまま、リップ音が鳴る程度のキスを何度も落とす。すると視線に気付いたのか仁人もゆっくり目を開けて、そしてうっそりと微笑んだ。
ほしい、しかもうなかった。
何度も角度を変えながら深く食べるような、いや食べ合うような行為を繰り返す。
そしてそのまま抱き上げてベッドへ少し乱暴に降ろしながらチラリとサイドテーブルに視線をやる。
これからの行為に必要なローションやゴムやタオルが置かれている横にノートパソコンがある。
先程何食わぬ顔でメンバーとのミーティングをしていた画面外にはこれらがあったのかと思うと、何とも言えないクるものがあった。
性に対して潔癖そうに見えるこいつのこんな姿を見られるのは俺だけ。
こんなに乱れる姿を見られるのは俺だけ。
こんなに乱れさせることができるのは俺だけ。
こんなに乱されるのは俺だけ。
そんな独占欲まみれの心を見透かしたのか、いつもより甘く許されることが多かったように思う。
嘘みたいに満たされた時間がそこにはあって、漠然と幸せを理解できた気がした。
空気の粘度が少し下がった明け方の部屋で目を覚ますと目の前には俺の頭を抱えるようにして眠る仁人の胸。
ゆっくりとしっかり息を吸って匂いを感じる。
しっとりと柔らかい胸元に頬を寄せて感触を楽しむ。
俺よりほんのり暖かくてつい擦り寄ってしまう。
くすぐったかたのか起こしてしまい「はやと、?」と舌足らずに呼ばれる。
あぁ、生きてる。
俺は仁人がいるから俺でいられるんだ。
陽キャで元気で賑やかで面白くて自信家というパブリックイメージがつきがちな俺が、ただの男になれるのはこいつの前だけだ。
どこか「俺」を演じている俺が、俺でいられるのはここなんだ。
さて、今日も頑張れる気がしてきた。
いや頑張らなければなるまい。
大丈夫。
俺には切っても切れない、切らす気などさらさらない命綱で繋がれた帰る場所があるから。
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