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夜の帳

1 - 夜の帳

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2024年12月02日

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pixivの再掲です

垢→やゆよ @user_npdx4375



水桃 桃病み




静かな夜。雨の音が窓を叩きつけ、薄暗い部屋の中に独特の寂寥感を漂わせていた。ないこはその窓のそばに座り、ぼんやりと外を見つめている。部屋の灯りは薄暗く、ただ雨の音だけが心を沈めていくような静寂があった。

自分の手には小さな刃物。冷たい金属の感触がないこの指先に伝わり、僅かな震えが腕に走る。これで痛みを感じることで、自分がまだ生きているという感覚を取り戻せる。そう、俺は思い込んでいた。

「また、こうやって…。何度繰り返しても、結局同じなのに…。」

自嘲気味に呟く。

過去の記憶や、誰にも話せない悩みが胸の中に渦巻いていた。笑顔を作って、誰にも見せないようにしてきたその痛みは、今日も自分自身の中で重くのしかかっていた。

薄く赤く染まる皮膚、そしてその瞬間に訪れる痛み。その痛みだけが、俺に何かしらの「実感」を与えてくれるように感じていた。

でも、毎回同じ。痛みは一瞬、次には深い虚無感が俺を包み込む。

「どうして、こんなに辛いんだろう…」

俺が刃をゆっくりと肌に押し当てると、その瞬間、ドアが開く音が部屋中に響いた。

「ないちゃん、まだ起きてるの?」

いむ——ほとけが、部屋に入ってきた。

「あれ?電気も点けないで、何してるの?」

彼は、いつも通りの明るい声で話しかけるが、目の前の光景に違和感を覚えたのか、急に表情を曇らせた。

「……ないちゃん?」ほとけの声は、明るさから一気に緊張感へと変わった。

刃物を持ったまま固まっているないこの姿に、ほとけはすぐに異常を察した。

「な…ないちゃん、何してるの?」

ほとけはゆっくりと歩み寄り、ないこの手元に視線を落とした。ないこの腕には既に小さな赤い線が幾つも刻まれていた。そして、それを見た瞬間、いむの胸に痛みが走った。

「なんで…」ほとけは震える声で呟いた。

「なんで、こんなこと…、?」

俺は、俯いたまま返事をしなかった。涙が静かに頬を伝って落ちる。俺はずっとこの痛みから逃れられないでいた。誰にも言えない、誰にも頼れない——そんな孤独が、俺をここまで追い詰めた。

「ずっと…辛かった…ッ」声を詰まらせ、震えながらそう言った。

「……いむ…、どうして俺…こんなこと…」この状況で無理にでも笑おうとしたが、次の瞬間、堰を切ったように涙が溢れ出した。

「ずっと…誰にも言えなかった…辛くて、苦しくて、どうしようもなくて…!」号泣しながら、その場に崩れ落ちた。

その姿を見たほとけは、何も言わずに彼の側にしゃがみ込み、優しく彼の体を抱きしめた。

「ないちゃん、もういいよ。全部、話さなくていいから…無理しなくていい。」

ほとけは、ないこの背中をゆっくりと撫でながら、優しい声でそう語りかける。

「ずっと辛かったんだね…ほんとに、ごめんね。僕、気づかなくて…。」

俺は、ほとけの言葉を聞きながら、泣き続けた。大きな腕の中に包まれて、今まで溜め込んできた感情が一気に噴出していく。何もかもがもう無意味に思えていたけど、この瞬間だけは、彼の優しさが彼の心に深く染み込んだ。

「…いむ…」ないこは震えた声で彼の名前を呼んだ。

「うん、ないちゃん。ここにいるよ。」ほとけは、静かにないこの頭を撫でた。「もう一人で抱え込まなくていいよ。僕が、ずっとそばにいるから。」

ないこは、ほとけの胸に顔を埋め、涙を止めることができなかった。それでも、彼の温かさだけが、唯一の救いだった。彼の声やその手の温もりが、どれだけ自分を支えてくれるのかを、今ようやく実感していた。

「いむ…もう、もう疲れたよ…」力なく呟いた。

「うん、知ってる。ないちゃん、ずっと頑張ってきたんだよね。でも、もう無理しなくていい。全部、僕に任せて。ないちゃんのこと、守るから。」

ほとけは、優しく俺の頬を拭い、彼の体を抱き寄せた。俺はその言葉に少しだけ安堵し、ただ静かに泣き続けた。

外では雨が強く降り続けていたが、その音が二人の世界にはもう届かなかった。ただ、ほとけのぬくもりだけが、俺の孤独と痛みをそっと包み込んでいた。

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