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ティナ達が地球を賑わせている頃、惑星アードでは緊急御前会議が開かれようとしていた。事の発端は、ティアンナがティナへ送った地球人の使節団派遣を促したメッセージによるものだ。 ティアンナはそのフットワークの軽さを遺憾なく発揮し、パトラウスが止める暇もなく姉であるセレスティナ女王に提案したのである。
地球との本格的な交流を望んでいたセレスティナ女王としても妹の提案は渡りに船であった。その場で了承してしまい、結果パトラウスは各地を奔走する羽目となってしまったのである。
惑星アードに於いてセレスティナ女王の言葉は絶対である。二千年の治世は、彼女に対する忠誠を昇華させてしまった。アード人の女王に対する姿勢は、崇拝を越えて信仰すらも越えて狂信の域に達してしまったのである。
つまり、彼女の意思とは関係なく二千年掛けて惑星アードを数十億の狂信者集団に生まれ変わらせてしまったのである。
二千年の間に発生したアード人の暴走の数々を見て、自分の言葉がどれだけの影響力を持つか嫌と言うほど理解している故に、セレスティナ女王は政に関与することを極力避けているのである。
セレスティナ女王が御前会議で発言することも滅多に無く、前回のフェルに関する発言も極めて異例の事なのだ。
今回の御前会議は、地球との交流にセレスティナ女王が意向を示したため急遽召集される事になったのである。アード首脳陣はもちろん、フリーストを始めリーフ首脳陣も集まった。
「女王陛下、ご臨席です」
一同が直立不動の姿勢で迎え、部屋の奥にあるベールで仕切られた小部屋に備えられた玉座にセレスティナ女王が座り、一同深々と頭を下げた後席に座る。
そしてパトラウスのみが立ち上がり、一同を見渡して厳かに口を開いた。
「お歴々、此度は急な召集に応じてくださり心より感謝したい。さて、早速だが本題に入ろう。
先日、女王陛下が遅々として進まぬ地球との交流のついて御叡慮を漏らされた。既に承知しているとは思うが、我々の民が銀河の反対側に位置する惑星地球との交流を始めている。彼女が持ち帰った地球の産物を目にした者も居るだろうし、口にした者も居るだろう」
皆が頷くのを見てパトラウスは続きを話す。
「地球は我々と比べて技術力が低く、更にマナを中心とした魔法も存在しない。加えて言えば、我々と比べ遥かに短命だ。それ故に交流を行うに当たり、細心の注意が必要になる。
当然惑星が違うので文化の違いはもちろん、生物学的な問題もあるだろう。環境その他の問題に関しては、心配無用だ。収集したデータを解析した結果、地球の環境はアード、リーフに近しいことが判明している」
ここでリーフ人の一人が挙手をした。
「距離は銀河の反対側、少なくとも数万パース離れた場所になるでしょう。センチネルの脅威もある中、文明レベルの低い惑星と交流する利があるのでしょうか」
この瞬間、参加しているアード人達の雰囲気が明らかに敵意を持ち始めた。それを敏感に察知したパトラウスは咳払いをして注意を引いた。
「コホンッ! 我が政務局としては交流する利は十分にあると判断している。これで御納得頂けると思うが、如何だろうか」
尚も言葉を発しようとするリーフ人を抑えるように、フリーストが立ち上がる。
「我らは盟友たるアードの皆様の慈悲によって住まいを頂く身。その為さり様に否やがある筈もありません。まして新たなる友邦の士が増えるならば、それは歓迎すべきものであります」
フリーストの言葉を聞き、アード側にあった敵意が消えていく。それを感じながらパトラウスは内心安堵の息を漏らした。
「ご理解頂けて何よりだ、フリースト殿」
「むしろ、同胞による不躾な質問を心から謝罪させていただく」
フリーストらリーフ上層部の大半は理解しているのだ。利があるかどうかではない。セレスティナ女王が意思を示した以上、アード人にとって地球との交流は既に決定事項なのだと。この御前会議自体も単なる儀式に他ならない。
「交流だが、地球には星海を渡る技術は存在しない。それ故に、地球側から使節団を受け入れる方向で調整している。問題は場所だ」
「軌道上のステーションを使うのというのは如何か。アードの環境に適応して貰う必要があるので、惑星へ降り立つ前にワクチンの接種は必須ですからな」
「ワクチンに関しては、既にティアンナ女史を中心とした医療局が開発している。先ずはステーションへ降りて貰い、ワクチンを接種して惑星へ降りて貰う」
官僚達が言葉を交わすのを横目に、パトラウスとフリーストが言葉を交わす。
「会見の場所は交流センターを考えているのだ。ハロン神殿へいきなり招くのもな」
「左様ですな。して、誰が会う予定で?」
「私が会おうと考えているのだ。実は、地球へメッセージを送ったことがありましてな」
「ほう、ならばあちらも多少は気を和らげましょうな。私もリーフ代表として参加しても?」
「無論です、フリースト殿。我々アードとリーフ、星が違えど手を取り合い共生できると言うことを示せば、地球側も希望を持てるでしょう」
和やかに話が進み、使節団の受け入れ先まで決定しつつあったその時。
室内に鈴の音が響き渡り、双方の参加者が立ち上がり深々と頭を下げた。フリーストも滅多にないがセレスティナ女王が口を開くのだろうと頭を下げた。だが、今回は前回以上の異例が起きた。
ベールが開き、近衛兵達が整列して膝を突く。そして、一人の女性が姿を現したのである。
《なっ……!?》
一瞬その姿を見て、フリーストは内心の動揺を隠すのに苦労した。
背中まで延びたアード人らしからぬ美しい銀の髪、二十代前半、下手をすれば十代にも見えるその若々しい顔は、髪の異色も相まって彼に一人の少女を想起させた。常に忌み者の側に居るアード人の少女を。
二対の美しい翼、アード人の伝統衣装ではなく古代ローマ人のような衣服に身を包み、羽根を模した髪飾りを着けて、天秤を思わせる杖を持つ美しい女性。足元だけは他と変わらぬ草を編んだサンダルではあるが、彼女こそが二千年に渡りアードに君臨するセレスティナ女王である。
滅多に人前に姿を現すことがない彼女が御前会議の場で姿を現すのはまさに異例であり、フリーストも初めてその姿を目にしたのである。
もちろんこれはセレスティナ、そしてティアンナの策である。アードでは異例の銀髪はティナを想起させるのは容易であり、目鼻立ちも似ていることからティナとセレスティナ女王に何らかの繋がりがあることを示唆するものである。
もちろん明言はしないが、セレスティナ女王はフリースト及びリーフ上層部に対する牽制として敢えて姿を現したのだ。
女性は柔らかな笑みを浮かべ、静かに口を開く。
「地球からの方々と会える日を、楽しみにしています」
「御意のままに、女王陛下」
使節団の女王謁見が確定した瞬間である。同時に激務が確定したパトラウス達、来訪予定のケラー室長達の胃に甚大な被害が出ることが確定した瞬間でもある。