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到着したのは、もう深夜の時間帯だった。
といっても、中心通りから一本入った路地にはまだ活気がある。
酒を提供する店が多く軒を連ねているためだ。
この賑やかさは都会ならではである。ある種の懐かしさもあったが、逆に言えば治安はあまりよくない。
中には、酔って道端に座り込むような人間もいて、ふたたび絡まれる危険性もあった。
そのため、極力会話を交わさないまま、馬を急かして足早に通り過ぎる。
「それで、押さえてくれた宿はどの辺にあるんだ?」
リーナについていき、まっすぐリナルディ家の屋敷前までやってくる。
馬を使用人たちに引き渡した後、こう聞けば、きょとんと首を捻られる。
「え、ここですが」
……はい?
「私の屋敷にご宿泊なさる想定で考えておりました。なにか問題があるでしょうか。幸い、屋敷内には部屋も余っておりますし……もし大きすぎる屋敷に慣れないと言うなら、なんなら――」
「いやいや、それはさすがにまずいんじゃないだろうか」
思わず、口を挟んでいた。
「なぜでしょうか。今、家族の者は地方の領土に出ておりまして、この屋敷には私と使用人しかおりません。問題はありませんよ」
うん、それはある意味、もっとよくないね……。
「問題だらけだと思うよ。結婚していない若い女性が、男をむやみに屋敷に上げる者じゃないし……」
「その点は心配しないでください。決してむやみではありませんよ。むしろ、先生でなければすぐにでも追い払っています」
信頼されすぎじゃないだろうか、俺。
「えっと、リーナは学校の理事で、俺はそこの新任講師になるんだ。あんまり密接な関係だと思われると、まずいだろ?」
「……それはそうですが」
不満があるのを押し殺しているのは、その引き結ばれた唇からひしひしと伝わってきた。
けれど、さすがにここは譲れない。
俺が安易に宿泊したことで、リーナの印象が下がって失脚なんてことになっては、申し訳が立たない。
元生徒の将来を、そんなことで潰したくはなかった。
その後もしばらく押し問答になったが、
「……夜のお店にはいかないでくださいね」
「いかないっての。そんな趣味もないし元気もない」
最終的には謎の確認をしてきたうえで、渋々ながら折れてくれる。
明日の予定を話し合ったのち、そこで別れた。