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「だ、大丈夫ですか!!!ユウトさん!!!」
背後から急に声がかかる。すごく聞き覚えのある安心感のある声である。
掴んでいた胸ぐらを放して声のする方へと振り返ると、そこには心配そうな顔をして走ってくるレイナさんがいた。この展開は予想外過ぎて、俺は頭が混乱することとなった。
「れ、レイナさん?!どうしてここに?!」
走ってきたレイナさんを受け止めると乱れた息を整えてから涙目になって答えてくれた。
「げ、ゲングさんがユウトさんを助けてほしいって…必死な様子で言われて、それでユウトさんを探して来てみたら、ユウトさんが剣で斬られそうになってて…本当に死んじゃうかと思いましたよ!!!」
「す、すみませんレイナさん。でも僕は怪我一つなく無事ですので安心してください」
「ほ、本当に良かった…」
そういうとレイナさんは俺の胸で泣き始めてしまった。この状況ではどうすることもできないので俺はしばらくそのままでいることにした。するとレイナさんの後ろから不安そうな表情をしたゲングさんがやってきた。ゲングさんも急いで来てくれたようで珍しく息を切らしていた。
「ユウト…大丈夫だったか?」
「心配してくれてありがとうございます。もちろん無事ですとも!」
俺は笑顔でゲングさんに答える。
すると曇っていた表情に少し安心の色が見えた。
「でも、正直意外でした。ゲングさんがレイナさんに助けを求めるだなんて。失礼かもしれないですけど、ゲングさんなら一人で力技で解決しようとするものだと…」
俺が率直な感想を言うとゲングさんはバツが悪そうな顔をして答えた。
「いや、ユウトの言う通りだ。実はお前がガラの悪い冒険者に連れていかれたと聞いた時には俺が何としてでも助けてやろうと思った。たとえ以前の俺のような印象を抱かれようとも。でもそんな時、ふとお前に言われたことを思い出したんだ。『あなたは変わる必要がある』ってな。そうだ、俺はまた過ちを犯そうとしていたんだよ。ここで一度でも以前と同じ俺に戻ってしまえば、俺はお前の信用を失うことになる。それにレイナとの約束も破ることになってしまう。それだけはどうしても避けたかった」
ゲングは悲痛そうな面持ちでそう語る。
たしかに今ゲングさんは今までの言動を改めて周りとの距離を縮めていこうと努力している。しかしまだ信頼構築が完全に終わっていない段階で以前のような振る舞いをしてしまえば「どうせまた前みたいになるんだろ?」と信頼なんてされなくなってしまう。
そうなってしまえば俺やレイナさん、今少しずつでも信用しようとしてくれている人のことを裏切ることになってしまうのだ。よく思い留まってくれた、この時俺はゲングさんの固い決意の意思を感じた。
「だから俺は別の助け方を考えんだが、全く思いつかなかった。そこで気づいたよ、俺一人じゃ何もできないんだって。今まで腕っぷしだけで何でも解決できると思っていたが、そうじゃないことにようやく気付けたよ。今回は力だけじゃどうにもならない。だったら物理的な力じゃない力を持ったやつに頼ろうと思ってレイナを頼ったんだ。冒険者同士の争いなら冒険者ギルドのやつが適任だろうと思って」
今の話を聞いて、俺は少しゲングさんを尊敬した。
ついこの間まで自分の気持ちを最優先して周りの迷惑も気にせずに自分の感情をまき散らしていただけだったのに、今ではこんな風に誰かを思いやって誰かを頼って行動できるようになって…こんな短期間でここまで変われるなんて素直にすごい。よほどの想いと決意がないとここまで出来ないだろう。
「そうだったんですね。ゲングさん、あなたは僕が思った通りの良い人ですよ。自信持ってください!本当にありがとうございます」
「そ、そうか…ありがとう。だが、あまり心配はいらなかったようだな」
そういうとゲングさんは周囲に倒れているチンピラ三人衆を見渡した。
たしかに俺はこんな奴らにやられるほど今では弱くはないが、実際レイナさんを連れてきてもらえたことは思ってもみないほどありがたいことである。
「いや、レイナさんを連れてくれて本当に助かりましたよ。おかげで後始末が楽になりましたから」
俺がそう告げるとゲングさんは少し不思議そうな顔をして首を傾げていた。
俺は何もわかって居なさそうなゲングさんを放っておいて、落ち着き始めてレイナさんに声をかけた。
「レイナさん、大丈夫ですか?」
「すみません、取り乱してしまいました」
レイナさんは少し恥ずかしそうに答えた。顔を赤らめて少し下を向いて泣いて腫れてしまった目を隠そうとしていた。こんな状況にもかかわらず俺はそのしぐさに可愛いとときめいてしまった。見た目も超絶可愛いのにしぐさまで可愛いとか反則だろ!と思わず心の中で叫んでしまったのは秘密である。
気を取り直して、俺はレイナさんにお願いしたいことがあったのでそれを伝えることにした。
その内容を聞き終えるとレイナさんは笑顔で快く了承してくれたのだった。
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ここからは後日談である。
あの後チンピラたちはゲングさんに連れられてギルドで事情聴取を受けることになった。二人の舎弟たちは黙秘を続けていたようだが、チンピラのボスに関しては何かに怯えたように挙動不審になっており、何もかも洗いざらい話したという。その中には今回の件だけではなく、今まで行ってきた数々の悪行もすべて告白したらしい。
まあ実のところ、冒険者ギルドの職員であるレイナさんが証人として今回の事件の一部始終をギルドマスターに報告してくれる手筈になっていたので自供はあってもなくても結果は変わらなかったようだが。
結果的にチンピラたちはギルドの規約違反、しかもランクの離れた冒険者相手に複数人で武器まで待ちだして襲ったこともあり、罰則の中でも最も重いものである冒険者資格のはく奪、および冒険者ギルドからの永久追放を言い渡された。そして彼らは殺人未遂の容疑でサウスプリングの警備兵に連行されて、現在はこの町の牢獄にいるらしい。
肝心の俺への処遇はというと、レイナさんのフォローのおかげで正当防衛が認められお咎めなしとなった。正直なところ、何かの罰は受けても仕方がないだろうと少しは覚悟をしていたので本当にレイナさん、そして彼女を連れて来てくれたゲングさんには感謝している。
さらに予想外の良いこともあったのだ。
実は今回の事件でゲングさんがレイナさんに頭を下げてまで助力を求めた姿が多くの冒険者が目撃しており、多くの人たちがゲングさんの印象を改めるきっかけとなったのだ。
それに例のチンピラども、実は格下の冒険者たちからギルドにばれないようにカツアゲを行ったり、手柄を横取りしたりなどと小賢しい嫌がらせを数多く行っていたらしい。そのせいで一部の冒険者たちから恨みを買っていたのだが、今回ゲングさんの活躍でそいつらを成敗できたということが広まり、結果的にゲングさんの株が急上昇したという訳だ。
今ではゲングさんのことを怖がったり避けたりする人の数も少なくなってきている。
これもゲングさんが頑張ったおかげだと俺は思う。
俺はあの時、相手の心を完全に折ることでこの問題を長引かせることなく解決しようとしていた。しかし結果的にレイナさんやゲングさんの協力のおかげで予想以上にいい形で収まることとなった。
この一件は俺にとって人とのつながりの大切さをとても感じさせられた事件だったと今では思う。人付き合いはそれほど得意な方ではなかったし、それにゲングさんではないけれど、俺も誰かに頼ることなく何でも一人でやろうとしていた節があったことは否めない。けれどあの時、あの場所にレイナさんやゲングさんが駆けつけて来てくれたことはとても嬉しかったし、心が温かくなったのを覚えている。
この人たちとの繋がりは絶対に大切にしたい、そう強く思った。
それにこれからも誰かとこのような大切な繋がりを紡いでいけたら…….
幸せだろうな
《第1章:冒険者新生活編》~完~