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……やがて春が過ぎて夏がやって来ると、彼の別荘に避暑に誘われた。
ここで過ごすのはもう何度目かになっていたけれど、いつ訪れてもまるで初めての時と変わらない感動を与えてくれるようだった。
山道の途中で見つけた直売店で買った旬の夏野菜を料理するために、彼とキッチンに立つ。
ナスを切りトマトをみじん切りにする私の隣で、彼が輪切りにしたパプリカを手早く炒め、トマトを加え煮詰めていく。
刻んだトマトが煮崩れてきたところにナスの他にカボチャやズッキーニを入れてカレー粉で和えたら、ブイヨンを投入して水で煮込む。
彼が赤ワインで味を整えると、カレーのいい匂いが鼻先に薫った。
「……美味しそう」
お鍋をかき混ぜる彼の手元を傍らで覗き込む。
「そろそろターメリックライスが炊き上がる頃だと思うので、このコーンを散らしてもらえますか?」
彼が削ぎ落とした朝採りのとうもろこしをザッと水洗いをしてほぐすと、ちょうどいいタイミングでご飯が炊けて、コーンを混ぜてお皿に盛ると、
煮込んだカレーを彼が器に注ぎ、二人で作った「夏野菜のスープカレー」が出来上がった。
「先生の料理は、いつも本当に美味しくて」
カレーをすくったスプーンを口に運んで言うと、「いいえ」と、首が振られた。
「料理が美味しいのは、あなたと一緒に作ったからです。私一人で作ったものより、二人で仕上げた方がきっとより幸せな味になっているはずです」
「……うん」と、頷く。彼が私といることを当たり前のように受け入れて、そうして幸せを感じてくれていることに嬉しさが込み上げる。
「君と食事を共にするこのひとときは、何よりの幸せです」
「私も……」
彼がカレーに合うからと用意してくれた、ロゼのスパークリングワインを口にして呟く。
「カレーとワインもとっても合ってて、ほんと美味しい」
「ええ」と、彼もワインを一口飲んで、「スパイシーなカレーと発泡ワインは、本当に相性がよくて」と、穏やかな微笑を浮かべた……。