勿論、前から嫌いだったわけじゃない。
「ハッピーバースデー」
そうやって毎年毎年、
柔らかな笑顔で祝ってくれる母が、
ロウソクを消したあとの特有のあの匂いが、
好きだった。
いつからだろう。
「ハッピーバースデー」
その言葉が
僕にとって、とても重く苦しい
鎖になってしまったのは。
「…プレゼント、用意してるから楽しみにしてろよ、!」
突然無言になってしまった僕といる空間に気まづくなってしまったのか、友人は少しキョドりながら教室を出ていく。
それを遠目に僕はポソりと呟いた。
「…プレゼント、今年は何かな。」
学校が終わり家に着くと、久しぶりにお母さんの部屋へ行った。
お母さんの部屋に着くと、扉を開いて直ぐにある棚の引き出しを引き、鍵をとり、近くにあるドアを開ける。
「…毎年来ていても慣れないもんだなあ」
小さい頃に感じた大きなドアは今では同じくらいの大きさになっている。
そこには少しホコリの被った、ラッピングされ、一つ一つに手紙が添えてあるプレゼントが4個置いてあった。
元々は10個だった。
きっと、20歳になるまでの誕生日プレゼントだろう。
1つ、「17歳になったゆいとへ。」と書かれたものを手に取り、丁寧に、丁寧にラッピングをはぎ取っていく。
昔のような他のものも見たいという欲望はいつの間にか消えていて。
早く20歳になりたい。
そう願うばかりだった。
だけど、このプレゼントを目の前にするとそれすらも薄れて、母との思い出が色鮮やかによみがえってくる。
「ああ、楽しかったな。また会いたい。」
自然と、そんな言葉が出てきてしまうほど、懐かしいお母さんの匂いと共にでてきたプレゼントは、DVDと上等なハンカチだった。
DVDは毎年恒例。
メッセージを開けると、
「ゆいと。一緒にいられなくてごめんね。今年のプレゼントはハンカチ。もう高校生だし、少し奮発してお高めのを買っちゃった。もう彼女さんとかいるのかな?私はゆいとが幸せなら誰でもいいからね。笑」
と、書かれていた。
「…..彼女とか….いないし…笑」
紺色に緑色のブランド名の刺繍が施された、シンプルなハンカチ。
嗅いでももう、開ける時にしたお母さんの匂いはなかった。
色々な感情が混ざりあって、
目にうっすら涙が浮かぶ。
コメント
3件
なるほど、、そういう感じか、、! 面白い! 次も頑張ってな💪
読んで頂きありがとうございます。 次回「癌(がん)」 ♡100