「集まってもらったのは、他でもない」
そう、赤津の声が響く特葬課には、特葬課 のメンバー全員が揃っていた。
「今回皆から聞いた情報を元に、件の“死人党”について、 今後の方針を教えようと思ってね」
赤津は、黒板にチョークで素早く何かを書 き記す。 書き終わると、赤津は振り返って言う。
「まず、敵の目的は、“束屍”という、本来は我々特葬課の機密ともいえるものだ。 これは、全ての死呪人の権能を、すべて兼ね備えた死呪人のことだと推測されていてね、存在自体、怪しいものだ」
「それ、初耳です、千春はともかく、なぜ私達にも知らされていなかったんですか?」
「いい質問だ、輝夜クン。答えは簡単、必要がなかったからだ 」
「そもそも、死呪人についても謎は多いし、ボクらも完全にわかってるわけじゃないんだよ」
「じゃあどうやって赤津たちは、その“束屍”について知ったの?そもそも、その死呪人を見つけたとして、どうするつもりなの、そいつらは」
赤津は、椎名の質問を聞いて、 先程書いたものを指さしながら、 説明する。 長かったので要約すると、 この間千春が整理整頓をしているときにあ った、「浦島太郎と禁忌の匣」 というファイルにまとめてある、古い書物 から束屍の存在を知ったらしい。その内容 は、パンドラの匣、という話がモデルのよ うだが、日本の浦島太郎とも内容が似通っ ており、さらには、オチも少し違うものだ ったらしい。千春たちもそれを読む。
昔々、ある漁村に住む青年が、 隣の家に住む少女に恋をしました。 しかし少女は、家の決まりで、産まれて から18回目の春に、その命を災いの箱へ捧 げなければなりませんでした。 青年は、そんなことはさせまいと、 命を捧げる儀式の途中で、 厳かに守られている箱を開けました。 すると中からは災いが飛び出て、青年は必 死にそれを抑えようとしましたが、災いは 青年の体に染み付いて、やがて青年自体 が、災いとなってしまいました。青年は、 あらゆる死を目に付く人々に与え、 死を束ねる束屍となってしまい ました。 やがてやっとの思いで少女が箱を閉じたと き、 そこには一瞬にして年老いて、 樹木のようなシワを体中に携えた青年が、 立っていました。少女はそんな青年を見 て、束屍となった青年の残りの生に 寄り添 うべく、伴侶となって一生を過ごしまし た。
読み終わって千春は、 なんとも言えない読後感に、 スッキリとしないモヤモヤを抱えていた。
「…たしかに、この内容だと、この話の男が、死呪人だと捉えられなくはないわね」
「でも、束屍が本当にいたとすれば、おかしいです。束屍が災いそのものとなったのなら、今たくさんの死呪人がいる説明がつかない」
「ああ、そうだ。しかも、肝心の箱自体は、全くと言っていいほど情報がない。この書物だって、もともと空想絵本のような扱いだったものを、たまたま見つけたにすぎないからね」
「あの、俺、一つ気づいたことが!」
「なんだい、千春クン」
「長岡京市で、“死人党”はこの間の死呪人たちに、足止めを命じてたんですよね?だったら、長岡京市に、もしかしたら、あったんじゃないですか?その箱!」
「おお!たしかに!千春君、やるじゃないか!我は感心したぞ!」
「なら、もう既に開けてる可能性が高いわね。あったとすればだけど…」
「いや、もし書物の内容が本当なら、すぐには開けないはずだ。自分が束屍になる気なら、“手に入れる”という目的ではなく、“なる”と言うはずだからね」
「ボクは、そうは思わないけどね?わざわざ長岡京市の市民を丸ごと全員連れ去るなんてことをしたりするのは、並の権能じゃできない」
「まぁ、そんなことを言っていても仕方ない。どちらにせよ僕らの仕事は、“死人党”を壊滅させること。まずは、探さないとね。少しでも手がかりがあればね…」
手がかり、と聞いて、千春はふと思い出し た。さっと懐に手を入れる。 カサっと音をたてて、 畳まれた紙が懐から覗く。千春はそれを手 にとって、中を見る。 それを見てすぐに、気づいたように紙から 顔を上げて、声を発した。
「あの、手がかり、あるかもしれないです」
「なんですって?詳しく話しなさい」
「これ、電車で情報屋みたいな人からもらったんですけど…気になることがあれば連絡を、って渡されたんです」
「よくわからないが、それは信用できるのかい?」
「わかりません。でも、なんとなく、今思い出したんです、情報なら、情報専門の人に聞くのが一番だと思いません?」
赤津は少し呆れた様子で、
「君がそうしたいのなら、そうすればいい。僕らは、別で調べておくよ」
と冷たかった。が、それに輝夜が意外な反 応を示した。
「赤津さん、私も、千春について行っていいですか?」
「おや輝夜クン、珍しいね、キミが頼み事をするなんて。どうしたんだい?」
「いえ、私は私で、その情報屋のことが気になるので…それに、浦島がその話を私にしなかったのも、なんとなく聞いておきたいと思いまして」
「そうか、好きにするといい、僕らはおおよその敵勢力の対策を考えておくよ、なにかあれば連絡してくれ、我々もそうする」
「了解……ほら、行くわよ」
「えっ、今から?」
「当たり前でしょ、早く。おいてくわよ」
そう言うと輝夜は、千春の持っている紙を 奪い取り、つかつかと歩いていってしまっ た。
「あ、待ってくれよ!言ってなかったのは謝るからさぁ!」
2人の背中を見ながら、百田は呟いた。
「うーん、青春だなぁ」
それを聞いた3人が、口を揃えて言う。
「絶対に違う」
コメント
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浦島太郎と禁句のはこ…?物語の根幹に関わってきそう…!ますます続きが気になる!!
面白かったです!