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とある三日月の日 1匹の龍が生まれた。その龍は 三日月の加護を 持っていた。三日月の加護というのはその名の通りで、1000年に一度ほど三日月の雫がいずれかの卵に落ちる。加護を手に入れた動物は、強さ、大きさ、自然界にとっての最強の一つを手に入れるのだ。だが そんな莫大な力を持った龍は、一つの生物。1匹の神獣に憧れていた。月は 稀に ごく稀に 満月の雫を落とす。満月の雫を手に入れた生物は神獣へと進化するのだ。だが三日月よりも稀な故、龍が生きている時代に存在するのか すらあやふやであった。それでも龍はその存在するかもわからない生物に憧れ、人知れず 恋に落ちていた。
満月の夜に、龍は深手を負ってしまった。辺りの地面を 赤黒く染めていき、痛みで途切れ途切れ な声を漏らしながら暗い森の中を進んでいた。ふと。
全身の鱗が逆立ちそうなほど嫌な気配がした。視線のする方へ 顔を上げる。
そこには白く輝く大きな狐がいた。月を鏡や湖に映したかのような綺麗な姿は闇夜に紛れて 月の光に照らされて それはもう 美しく光っていた。それでも敵が寄ってこないのはおそらく、持っている オーラのようなもののせいだろう。狐は龍を攻撃するでもなく、威嚇するでもなくただただ見つめていた。龍はなんとなく だが 感づいていた。この 狐こそが、この神獣が、満月の加護を持った生物だと。龍は痛む 傷を抑え、できる限り 姿勢を低くする。今はただ 敵ではないと、敵対心など持っていないと伝えなければ。凍りつくような空気が流れていた。いや 本当に凍っていたのかもしれないが。あまりの威圧感と痛みとは これまでの疲れが一気にやってきた龍は、声 一つあげることなくばさりと気絶した。
目覚めるとそこは綺麗な 泉だった。昨日つけたはずの傷はなく、なんなら 竜巻でも起こせ そうなくらい 元気だった。困惑していれば ゆっくりと足音がこちらに近づいてくる。ガサガサと草木をかき分けてやってきたのは あの時の 神獣様だった。とっさに龍は 神獣様が助けてくださったのだと思い、感謝の意を述べた。狐はそれを軽々しくあしらうと、冷たく 、さっさと 自身の家へ帰れ と吐いた。もちろん 逆らうことなどできない龍はそれを承諾し もう一度 感謝を述べてから自身の家へ帰った。綺麗だった。それはもう とても。
龍は存在していることを知ってしまった。煮え切らぬほどの恋心。それはふつふつと 龍の心を蝕んだ。
それからというもの満月の夜になるたびに 龍は神獣様に会いに行った。神獣様は自身のことを『ルー』と名乗った。それが本来の名前なのか定かではないが龍は とてつもなく嬉しかった。神獣様がたまに見せてくれる魔法でできた鳥や 水 出てきたクジラ。夢物語のようなものではあるが神獣様はそれを軽々とやってのけた。そのお礼とまでは言わないが 龍は毎日のように愛を伝えた。『愛してる』『大好き』伝えなれない 拙い言葉ではあったが、神獣はその度 嬉しそうな笑みを浮かべていた。
幸せ。そんな2文字だけでは伝えられないような思いがすでに龍の中で大きく そして光るようになっていた。もしやすると、神獣もそうであったのかもしれない。
だが人の暮らす 世界では とある 噂が蔓延っていた。
『神獣の角と鱗を煮て食べればどんな病でも治る』
確証も何もない ただぼんやりとした噂だったが、医学の発展していない人間の世界からすると 唯一の救いだったのかもしれない。
神獣は加護を受け取る 代わり 他の生物を殺してはならないという定めのようなものがあった。特に力がとても強い 満月の雫を持つもの。
龍は今日も楽しそうに歌いながら 神獣のいる湖へ向かう。だがそこに 神獣の姿はなく、あったのはまるで 引きずられ連れて行かれたような跡だった。
龍はとてつもなく嫌な予感がしてその跡を辿った。
着いたのは 人間の住む村。その村の中心には 見覚えのある獣がいた。神獣様だった。神獣様が以前話していた弟という存在は同じように連れて行かれたようで もうすでに 息絶えているように見えた。龍の中で何か、糸のようなものがプツリと切れた。
そこからの記憶はない。
気がつけば村はなくなっていて、灰と血と、吐き気がするような 嫌な匂いが 辺り 周辺を包んでいる。龍は村の真ん中にいた神獣に近づいた。
龍は泣きながら言った『こんな血で汚れた体ではあなたを抱きしめることすらままならないのか』震えるような声で か細く、自身の起こしてしまった罪を嘆いていた。そんな龍を神獣はなだめ、優しく微笑んでこう言った。
『ならば 2匹で汚れてしまえばいい。』
神獣はそう言って天高く高く飛び上がった。
耳をつんざく ような咆哮が、あたり一帯を平坦にしてしまう。
2匹ともに 結晶になるまで、愛し愛され 、壊し壊され、
2匹は二度と解けない美しい結晶の中に閉じ込められたのであった。