コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「……いただきます」
料理を並べ終えた円香が横に座ったタイミングで伊織がスプーンを手にオムライスを口に運ぶ。
「……お味、どうでしょうか?」
「美味い」
「本当ですか!?」
「ああ」
「良かったです」
「正直驚いた。本当に料理出来たんだな」
「あ、酷い! まだそれ言います?」
「冗談だよ」
料理を美味しいと褒めてもらえた円香はホッとしたのと同時に、伊織が笑みを浮かべているのを見ると、こんな風に楽しく食事が出来て凄く嬉しいと思う。
「誰かに作ってあげるって、凄くいいものですよね」
「そうなのか? 家でもよく作ってんのか?」
「いえ、その……普段は家政婦さんが家事全般をやってくださるので、料理も基本家政婦さんです。それに、両親は常に忙しくしていて食事の時に家に居ない方が多いので、私が誰かに料理を振る舞う事はないんですよ」
「そうか」
雪城家は両親共に仕事や人脈作りと称して留守にする事が多く、円香は家政婦たちと過ごす事の方が多かったりする。
それでも決して円香を蔑ろにしている訳ではなく、可愛い一人娘の為に様々な事はしてくれるので円香自身も今の生活に文句はないのだ。
「だから、こうして伊織さんに食べてもらえて凄く嬉しいです!」
そんな言葉を満面の笑みを浮かべて言った円香を前にした伊織は、不覚にも彼女が可愛いと思ってしまった。
「……俺は料理なんて面倒くさくてしねぇから、お前がしたけりゃまたすればいいさ」
「いいんですか!?」
「ああ」
「それじゃあ、また機会があったら作りますね! 今度は何かリクエストしてくれたら嬉しいです!」
伊織は不思議に思う。何故円香は他人の為に何かをする事が嬉しいと思えるのだろうかと。
こうして終始和やかな雰囲気だった食事を終え、片付けを済ませた円香はソファーに座る伊織に促されて隣に腰掛けた。
テレビの音が響くだけの室内。
伊織は何やらスマホを弄っているので円香はテレビに視線を向けるも、腕が触れそうな距離に座っているからか緊張してしまって内容が頭に入って来ない。
(そうだ、コーヒーでも淹れようかな!)
このままだと身が持たないと感じた円香が再び立ち上がろうとすると、
「随分落ち着きがねぇな、どうした?」
「えっと、その……コーヒーでも淹れようかと思って……」
「そんなモンいいから、もっとこっちに来いよ」
「あっ……」
ふいに腕を引っ張られてバランスを崩し、今度は引っ張られてソファーに戻されて伊織に寄りかかる形で座る事になった。
「あ、す、すみません!」
こんなに近過ぎるのは恥ずかしい円香が謝りながら少し離れようとしたものの、
「円香――」
伊織の腕が彼女の肩に回され、
「んんっ」
不意打ちで唇を塞がれた円香は伊織のペースに飲まれていく。
初めてキスしたあの日から実にひと月程が経過している事、経験したと言ってもまだ慣れきっていない円香のキスはぎこちないものの、それでも伊織に応えようと必死に彼のペースについていく。
「……ん、は……ぁ、……っ」
何度も繰り返される口付けの合間に息継ぎをする円香の表情は徐々に蕩けていき、熱っぽい瞳と上昇する体温、そして息継ぎと共に漏れる嬌声は伊織の心を掻き立てるには十分だった。
「その表情、誘ってんの?」
「え……、そ、そんな、こと……」
「違うのか、それじゃあもう止めるか」
「あ……や、やめないで……っ」
「ふーん? つまり、円香はもっとしたい訳だ?」
「違っ……あ、その……違わない……けど……」
「どっちだよ」
「……もっと、して……欲しいです……」
「よく出来ました――」
時折こうして円香の反応を見て楽しむ伊織は再び彼女の唇に自分の唇を重ねると、
「――いおり、さん……っは、……ぁ」
今度は指先で彼女の柔らかな耳朶を軽く撫で、その感覚がむず痒くて声を漏らす円香の唇を舌先でこじ開けると、より深いキスを要求していく。
(な、に……? これもキス……なの?)
初めての感覚に戸惑う円香だったけれど、キスと同時に彼の指先によって様々な所を刺激されているうちに何も考えられなくなっていた。
息は上がり、二人の感情は昂っていく。
当初はキスだけで済まそうと思っていた伊織だったのだが、まだ物足りないと円香の着ていたブラウスのボタンに指を掛けた、その瞬間――ピンポーンという電子音が室内に鳴り響いた。