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「……大丈夫そうか?」
「……ああ」
吉瀬と渡慶次、そして平良と上間は曲がり角を曲がるたびに敵キャラに警戒しながらやっと渡り廊下にさしかかった。
先頭に立つ吉瀬がピエロ対策にバケツの水を持っている。
「……ところで」
吉瀬が緊張感を緩めないまま平良を振り返る。
「攻略法はわかったけど、そもそも舞ちゃんってどういうキャラなんだよ」
「――舞ちゃんは」
平良は大きく息を吸い込んでから言った。
「かわいい女の子だよ。小学校低学年くらいの」
「女の子?」
「フリフリの服着ておめかししてる」
「それで最恐最悪とか……不気味でしかないな」
吉瀬が顔を歪めると、その後ろを歩いていた上間が首を傾げた。
「なんか、おかしくない?」
「―――?おかしい?」
渡慶次が振り返る。
「だって、他のキャラは、ピエロに、ティーチャーに、ドクターに、ゾンビ。どれも抽象的でかつホラーゲームにはありがちなキャラじゃない?なのに舞ちゃんだけ名前があって、しかもかわいい女の子で」
「確かに……」
吉瀬は顎を触りながら進んだ。
「……舞ちゃん、か」
階段に差し掛かったところで、
「!!」
吉瀬が無言の方向転換をした。
彼に続き、皆で1年6組の教室に駆け込み、ドアを閉める。
ティ~ラリラリ♪ラリラリラリラ~♪
テイラリラリラリラ~♪
ジャンッジャジャンッ♪ジャンッジャジャンッ♪
――ピエロ。
皆で息を顰める。
ティ~ラリラリ♪ラリラリラリラ~♪
テイラリラリラリラ~♪
ジャンッジャジャンッ♪ジャンッジャジャンッ♪
ジャンッジャジャンッ♪ジャンッジャジャンッ♪
ジャンッ………ッ♪……ッジャ………♪
ジャ……………ッ♪………………………
「―――――」
「―――――」
「―――いったか?」
渡慶次が首を伸ばし、
「……ああ」
廊下を覗きに行った吉瀬が答えた。
「てか、水を浴びせた方が早くね?」
平良が吉瀬が持っているバケツを指さす。
「馬鹿かお前。ここでピエロを足止めしたら、体育館に戻る時にまた邪魔だろ。いつメイクが終わるともわからないのに」
「あ、そっか」
平良が悪びれる様子もなく頭を掻く。
「でもさ、あっちにいったら体育館の方に行っちゃうんじゃないの?」
「あっちには比嘉も玉城たちもいるし、知念もいるんだ。なんとかするだろ」
吉瀬が呆れて言うと、平良はまた「そっか」と笑った。
「――お前さ」
渡慶次は口を開いた。
「何で戻ってきたんだよ。ゲームの中で俺が死のうが誰が死のうが、現実世界に帰れたならそれでよかったんじゃねえのかよ」
「――――」
いうと、ヘラヘラ笑っていた平良はぐっと口を結んだ。
「もしかして―――」
上間が平良の顔をのぞき込む。
「こっちで死んだみんなは、あっちでも死んでるの……?」
「な……!」
吉瀬と渡慶次が覗き込むと、平良は視線を下げ、絞り出すように言った。
「死んでるどころじゃないよ」
「……どういうことだよ」
眉間に皺を寄せた渡慶次を、平良は涙目で見つめた。
「あっちの世界で、お前は……お前たちは……」
『見ぃつけた~』
皆が振り返ると、吉瀬が少し開けたドアの向こう側から、血に染まった白衣を着たドクターが覗き込んでいた。
◆◆◆◆
「舞ちゃん……ね」
比嘉は体育館の真ん中に寝転がったまま、天井を見上げた。
「お前、よく呑気に寝転がってられるな……」
そう言ったのは、座っている藤原と五十嵐の後ろに隠れている照屋だった。
「知念や平良の話が本当なら、舞ちゃんってヤバいじゃん……!会っただけで殺されるって…!!」
「まあ、そーだけど」
比嘉は遥か頭上に見えるバスケットゴールを、自分の手で隠しながら言った。
「知念の言う攻略法が本当なら、2人以上いれば確実に攻略できる。そうだろ」
比嘉が知念を見ると、彼は膝を抱えたまま黙ってうなずいた。
「――チョロいな、てめえは」
口を開いたのは玉城だった。
「ああ?」
「そいつらの言うこと、全部鵜呑みにするなって話」
「ねえ、どうでもいいけど!」
東が比嘉のそばまでハイハイで寄っていく。
「ちゃんとヤラせてあげたんだから、約束通り責任もって私のこと守ってよね!」
その言葉に、
「げー」
「最低~」
五十嵐と藤原が露骨に嫌そうな顔をする。
「へーへー。わかってるよ。だって……」
比嘉は肘に凭れかかるように上半身を起こすと、知念を見つめた。
「――なに」
知念が膝に口元を埋めながら言う。
「俺は偏見ねえから。目的のために身体を売ったりするのは。むしろ清々しくて偉いと思うぜ?」
「……!!」
普段は無表情の知念が比嘉をはっきりと睨んだところで、
「きゃあああ!」
「ちょっと何ぃ!?」
五十嵐と藤原から悲鳴が上がった。
彼女の後ろに隠れていた照屋が、グリグリと頭を2人の背中に擦りつけている。
そしてその頭は腰まで下がり、やがて2人の臀部へと移動した。
「きゃははははっ!」
「やめてって!!」
2人が笑いながら身を捩る。
「ああ、そいつ欲求不満なんだわ。さっきゾンビとヤリそこねたから」
起き上がった比嘉が笑い、
「アホ……」
玉城がため息をつく。
「ちょっとくすぐったい!」
「ねえったら!」
2人が照屋から離れようとすると、そのスカートの襞を照屋の両手が掴んだ。
「必死かっ!」
比嘉が笑いながら勢いをつけて立ち上がり、
「こらこら。童貞に3Pはハードルが高いよ?」
照屋の方へと歩き始めた。
そのとき、
「……痛っ!」
笑い転げていた五十嵐が不穏な声を出した。
「……ちょっと何してんの!?」
藤原も悲鳴に近い声を出す。
「ねえ、痛いっ!」
「離してよっ!」
2人のただならぬ様子に、
「おい……まさか」
比嘉が走り出し、
「嘘だろ……」
玉城も立ち上がる。
バリバリバリバリ!!
何かを砕くような音が体育館に響き渡る。。
「いやあああああ!!!」
ジュルジュル……ジュル……ジュルジュル……
何かを啜るような音も響く。
「助けてぇぇぇ!!!」
走ってくる比嘉に向けて伸ばす2人の女子生徒の手は、
――真っ赤に染まっていた。