コンコン
楽屋の扉をたたく音がする
「はーい」
どうせスタッフさんだろうと思い、軽い気持ちでドアノブを引く。
「…よっ」
あ、ローレン…。申し訳なさそうな顔を見る限り仲直りしにきてくれたんだろう。
ただ、僕はまだ和解する気になれなくて、また無視を決め込んでしまう。
「…」
「ちょっと…話しましょ」
僕は軽くうなずいて、さっきまでいたテーブルの前に座った。するとローレンも自然と僕の隣に来て、横並びの形になる。
「…あのさ、」
ローレンが横で絞り出すように口を開く。
「俺、ほんとに、、、ばかで、しょうもなくて、めっちゃ短気だけど、、」
そう言うと僕の肩をつかみ、無理やり向き合わせる。僕は力が弱くて抵抗できず、頑張って目を横にそらすことしかできなかった。
「叶のこと、好き」
そんなこと言われると思ってなかったのでびっくりした。どんどん自分の顔が赤くなっていくのが分かる。
ローレンもこちらを見ていないのか、僕の反応なんかお構いなしに続ける。
「俺、叶が深夜に電話出ないだけでめっちゃ考えちゃって、浮気してんのかなって証拠もないのに決めつけて、勝手に仲悪くして、、ほんとにごめん」
ローレンは深く息を吸ってまだ続ける。
「さっき、くっさんと話してきて、叶お前のこと大好きだよって言われて気づいた。」
まだお互い向き合ってはいなかったけれど、彼がこっちを見てると感じる。
「…信じてあげれば良かったって」
しばらく黙っていると、泣いているような息づかいが聞こえる。
普段ローレンが泣くことなんて、滅多にないのでびっくりして目線を向けてしまう。
「…泣いてるの?」
そっと声をかけると、苦いような笑みを浮かべて泣き続けるローレンが見えた。
「うん、泣いてるよ、好きな男のこと信じられなかったから、、泣いてるの」
その顔があまりにも真剣で、抱きしめたくなる。
「僕もちゃんと言ってなくてごめん。…話し合いしようともしないで。。辛かったよね」
そう言って抱きしめた。忘れていた彼の体格をいやでも分からされる。
「っごめん、叶」
「んーん、もう許した」
「……もう、絶対喧嘩したくない」
「僕もだよ、ローレン無視するのしんどかったんだから」
互いの緊張の糸がちぎれた気がした。腕を離すと、相変わらず整っているローレンの顔面が見える。なんだか、世界に二人しかいないような気がした。
「………ローレン?」
「………なぁに」
「………」
そっと目を瞑ってみる。だんだんローレンのタバコの匂いが強くなっていった。
ああ、キスされるんだろうな。でも今は嫌じゃない。
鼻の目の前までそれが来た時、
ガチャ
「ふぃーーー、へぁ?」
アホそうな気の抜けた声と共に葛葉がドアの前で立ち止まってる姿が見えた。手にはさっきまで見てたであろうXの画面が写ったスマホを片手で握っている。
僕らと目が合うと、
「あーっと、おっ邪魔しましたァ〜」
と言って、によによした笑みを浮かべてそそくさとドアを閉め、足早に楽屋を出ていく。
「はぁー、めっちゃいいとこだったのに」
「あとでめんどくさそう。。。笑」
「くっさんのいじりだるいからなぁ〜。。苦笑」
「まあ、今回はお世話になったってことで、許してやろう」
「それもそうだな笑」
再び収録が始まる。
「っと、叶は誰と組むー?」
葛葉が相変わらず進行している。
「ローレンがいい♡っね?いいでしょ? ♡」
「うん俺もそれがいい♡てか他の男とこんなことさせられないし♡」
「はぁーじゃあ俺一人でやるわ」
聞いたところによると、その回は俺と叶の様子がおかしかったので、結局お蔵入りになったそうだ。
まあ、しょうがないか。
fin
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